訪問診療医の1日に密着!|医療法人忠恕 春日部在宅診療所ウエルネス院長| 笹岡 大史先生
- #在宅医療全般
在宅療養支援診療所の医師は、一日をどのように過ごしているのでしょうか。春日部在宅診療所ウエルネス(埼玉県春日部市)院長・笹岡大史先生のある一日を紹介します。
春日部在宅診療所ウエルネス
埼玉県春日部市にある在宅支援診療所。常勤医は院長の笹岡大史さん1名。ほか6名の非常勤医と共に居宅や施設の患者の訪問診療を行い、特別養護老人ホームの嘱託医も務めている。
【午前】
8:30 朝礼
医師、看護師、相談員、医療事務担当の診療支援部職員の全職員で朝礼。稲盛和夫氏の名言集「稲森和夫一日一言」の音読、その日の訪問予定の確認、クリニックの理念や行動指針の唱和がルーティン。
毎朝全員で、クリニックの理念である「忠恕」(自分の良心に忠実であり、かつ、他人に思いやりを持つこと)に基づいた行動指針を唱和し確認している。
8:40 医師申し送り
朝礼後、電子カルテ等を見ながら、非常勤医とその日訪問する患者の経過を確認。この日の非常勤医は、ここでの週1回の勤務が約3年になる、脳外科医師。
非常勤医とは訪問診療に出る前に、患者の状況を情報共有する
9:00 ワクチン接種など外来対応
春日部在宅診療所ウエルネス(以下、ウエルネス)は訪問診療がメインだが、予約制で外来でのワクチン接種なども行う。この日は2人の患者に帯状疱疹ワクチンを接種。
9:20 訪問看護師等からのチャットでの問い合わせに回答
ウエルネスでは、訪問看護師やケアマネジャー、薬局など様々な連携先とチャットを使ってリアルタイムで情報共有。1日100件以上のメッセージが飛び交う。
10:10 訪問診療に出発
この日はまず、笹岡先生が施設の開設以来、嘱託医を務めている特別養護老人ホームへ。
訪問診療には、相談員の運転で医師と看護師の3人で行く。この日は非常勤医1人との2ルートだったが、日によって非常勤医2人と3ルートになることもある。
10:15 特別養護老人ホームでの訪問診療開始
特別養護老人ホームでは、嘱託医として全入所者を週2日の回診スケジュールで原則1人月1回診察する。この日は13人を診察。
診察の前日、Excelにまとめられた診察予定の入所者についての情報が、チャットソフトを使って施設看護師から送られてくる。データでのやりとりはファクスでのやりとりと違い、電子カルテにコピー・ペーストができ、職員の負担軽減につながっている。
処方箋はあらかじめ出力して持参。診察により処方の変更が必要になった場合は、その場で処方箋を手書きで修正する。新規処方については、同行した看護師からチャットで診療支援部に連絡。クリニックで処方箋を出力し、特別養護老人ホームに届けている。処方変更については、施設での診察が終了した時点で、カルテと手書き修正の整合性を再確認する。
診察内容や薬の処方についてはミスや漏れを防ぐため、その場ですぐにタブレットでカルテに記録する。回診には高さを変えられるパソコン用カートを使用している。
診察の際、笹岡先生は認知症ケアの「ユマニチュード」を取り入れ、車いすの入所者と目線の高さが合うよう腰を落として診察する。
ポケットサイズのエコー機器で心臓疾患がある患者の状態を確認。心臓の状態をエコーで診断できる在宅医はまだ少ない。「在宅チームに循環器専門医がいれば、心不全を繰り返して入退院していた人やペースメーカーが入っている人も施設で十分暮らせる」と笹岡先生は言う。
11:45 昼食
午後の訪問先近くの飲食店で昼食。
【午後】
13:00~ 在宅患者の訪問診療
この日は在宅患者7人を訪問。ウエルネスでは、半径約8km圏内、片道30分以内の患者を受け入れている。患者の訪問順はこの地域の地理に詳しい職員が決める。道順は、電子カルテやGoogleマップと連携している訪問診療支援ソフトが示す、渋滞回避も考慮された最短ルートに従う。「ICTツールの発達で、在宅医療は効率化が進んでいる」(笹岡先生)
中でも、笹岡先生は特に他職種等とのリアルタイムでの情報共有、情報交換にチャットソフトを活用。訪問看護師等、連携先から次々と飛んでくる質問等に答えるため、移動中の車内でもタブレットに向かっている。
この日の在宅患者1件目は、退院後間もない高齢女性。ベッドに腰掛けて診察を受ける女性に「腹水はたまっているけれど、抜くほどではないですね。今月は週1回の訪問でしたが、来月からは月2回で大丈夫そうです」と声をかける。
訪問先1件あたりの滞在時間は、病状により10分程度から40分程度まで様々だ。
車に戻り、移動中に笹岡先生はタブレットでカルテに入力。同行する看護師がチャットソフトで薬局に処方内容と診療情報を共有すると同時に、クリニックの診療支援部に処方箋を薬局に送るよう依頼する。
この日は、訪問診療以外に医療処置が必要な患者の訪問予定もあったが、非常勤医のルートの方が進行が早かったため、そちらに行ってもらうことになった。「訪問診療支援ソフトで、どこまで訪問が終わっているかを互いに確認できるので、急な診療依頼が入ったときなども、近くを移動している医師が行くことにしている」(笹岡先生)
3件目の訪問先の男性患者は、初診時には禁食でCVカテーテルからの高カロリー輸液を必要とし、会話もままならない状態だった。しかし、笹岡先生が訪問歯科医を紹介して嚥下評価を行い、今では経口摂取できるまでに回復。この日は快活に会話を楽しんでいた。
15:15~15:35 休憩
4件の訪問を終えたところで、次の訪問先に行く途中にあるコンビニに寄り、トイレ休憩。この日の春日部市は、最高気温37度の猛暑日。冷たい飲み物でのどを潤す。
15:35~ 訪問再開
休憩後の訪問予定はあと3件。訪問再開後の1件目は、視覚障害のある高齢女性。この日は、同じく視覚障害がある同居の娘が足にケガをしており、娘からケガの話も聞いていたため、約40分とこの日最も長い訪問に。
笹岡先生と看護師が娘のケガを確認している間、状況が見えず落ち着かない様子の母親に対して、相談員が何をしているのかを丁寧に説明する。医師、看護師、相談員は取り立てて打ち合わせをするでもなく、声を掛け合いながら各自の役割を流れるようにこなす。
この日最後の訪問先は胃ろうをしている小児。小児の訪問診療を担う在宅医は少なく、以前は胃ろうのバルーン交換のため、東京の病院を受診していた。一日がかりの受診だったバルーン交換、エコーでの状態確認も、在宅なら15分程度で終了。
17:30 クリニック帰着
すべての訪問を終了し、クリニックに戻る。
クリニック帰着後はチャットソフトでの指示等にあたる。スタッフはほぼ残業なく退勤できるよう配慮。自身は採血データの確認や書類の処理をすませて退勤する。
【笹岡先生からの一言】
在宅療養支援診療所は24時間のオンコール対応も行うので、夜中に緊急で呼び出されるイメージがあるかもしれません。しかし当院では、看取り期にある患者さん以外で夜中に緊急対応の電話があるのは週1回程度。夜間の往診もまれです。昼間しっかり診て早め目に対応しておけば、夜中にバタバタするのは少ないことを知っておいていただきたいですね。