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ドイツの介護保険制度

  • #在宅医療全般
 海外から学ぶ在宅医療 ドイツの介護保険制度

※本コンテンツは医療法人社団悠翔会が2019年に公開した記事を転載、一部編集したものです。内容が最新の情報とは異なる可能性があります。

ドイツの介護保険は、日本と違い

  • 年齢制限がない
  • 「現金給付」が選択できる
  • 給付額を「使い切る」のが当たり前
  • 家族による扶養義務がある
  • 社会扶助のあり方が違う

ドイツの介護保険制度は、社会保障制度を担う5番目※の柱として、1995年にスタートした。
(※医療保険・年金保険・失業保険・労災保険・介護保険)

デュセルドルフ市役所を訪問し、社会福祉部長のアンケ・ミラーさんをはじめ、3人の担当者からドイツの介護保険制度のしくみ、デュセルドルフ市での運用の実際についてお話を伺うとともに、日本の介護保険制度との違いについてディスカッションした。

ドイツの介護保険制度は、日本の介護保険制度によく似ている。

例えば・・・

  • 介護が必要になったら要介護鑑定(認定)を受ける。
  • 要介護度に応じた給付を受ける。
  • 給付の上限を超えた部分は自己負担。
  • 在宅介護が基本だが、必要に応じて施設介護を選択できる。
  • 要介護度の認定に不服があれば申し立てをして、再審査を受けられる。
    など。

給付の増大に伴い、保険料が少しずつ上がっているのも日本と同じだ。 しかし、日本と異なる点もある。
特に面白いと思った5つの点についてご紹介したい。

年齢制限がない

日本では原則として65歳以上(一部40歳以上)が対象だが、ドイツには年齢制限はない。
日本では介護保険は40歳以上が加入するが、ドイツでは医療保険とセットになっている。つまり、医療保険に入っていれば、自動的に介護保険にも入るということになる。2年間以上の保険加入期間があれば、だれでも介護保険サービスを利用できる。
ちなみに介護保険料は給与の3.05%。本人と雇用者が50%ずつ折半で支払う。

「現金給付」が選択できる

日本の介護保険には、現物給付(専門職による介護サービスの提供)という選択肢しかないが、ドイツでは家族や友人によるケアに対する現金給付がある。
現金給付(家族によるケア)を選択すると、要介護度に応じて月々最大901ユーロ(約11万円)の固定給付を受け取れる。現物支給のほうがより高度なケアが提供されるため給付額は大きくなるが、利用者の2./3は家族介護による現金給付を利用しているという。

日本では介護保険を利用しても、同居家族には介護への参加を求められる。そして家族介護は無償労働だ。
日本では、現金給付は「介護の社会化」という介護保険のコンセプトと違うのではないか(介護保険は、家族を介護労働から解放し、社会復帰させるためにある。現金給付は、結局、家族(主に女性)を介護労働に縛ることにならないか)という議論があり、制度化が見送られた。

ドイツでは、介護保険制度の創設時に、現金給付に対する反対意見はなかったらしい。
介護保険の有無にかかわらず、家族介護は一定の割合で存在する。この部分が評価されることがより重要であるという考え方だ。 また、ドイツの家族介護は「労働」として認められ、現金給付にとどまらない社会保障の対象となっている。
退院時や急変時などには10日間の介護休暇(有給)の請求権が認められている。介護のために時短勤務(週30時間未満)をせざるを得ない場合、年金、失業保険、労災保険などの保険料支払いが補助される。
つまり、ドイツの家族介護に対する「現金給付」は、単なる労働対価以上の意味を持つ、ということになる。

また、現金給付をするからには、一定の品質管理が必要になる。
家族介護を選択すると介護研修が受けられる(というよりも研修の義務が生じる)。また、適切なケアが行われているか、定期的なチェックも行われる。ケアが十分に行われていないと評価されると、現金給付を受けることができなくなる。

「介護の社会化」を進めるために現金給付という選択肢を封印した日本では、しかし、実態としては、家族は一定の割合で介護労働に関与せざるを得ない状況にある。介護離職もいまだに大きな社会問題であり続いている。また、家族介護の内容には介入が困難で、悲しい事件も時に発生する。 あるべき論だけでは、理想を実現することは難しい・・・

「使い切る」前提の介護保険給付

日本ではなるべく介護保険を使わないように、という無言の圧力がかかる。
しかし、ドイツでは、要介護度はその人のニーズに応じて認定されたもの。その人のケアニーズの一部に対する「補助」という位置づけで、すべて利用されるということが前提となっている。一部負担金もない。
現物給付(専門職による介護サービスの提供)を選択した場合でも、使いきらない部分は、家族に対する現金給付として受け取ることができる。
しかし、日本と同じく、給付を超える部分については全額自己負担。
多くのケースにおいて給付の範囲内だけでケアをすることは難しい。
特に施設ケアにおいては、日本の特養のような格安施設はなく、自己負担額は非常に大きく、デュッセルドルフ市の場合、平均で月々2800ユーロ程度(約35万円)にもなるという。

家族による扶養義務

もちろん、誰もが必要なケアに対する費用を自力で全額支払えるわけではない。
お金が足りない人は、市が窓口となって支援する。 まずは担当者が自宅を訪問し、必要なケアに加えて、本人の資産や支払い能力に対する審査を行う。
本人の支払い能力が限界に達した場合、民法に基づき、家族(配偶者と直系の子供たち)に支払い義務が生じる。
家族の収入のうち「これまで通りの生活を継続できる程度」以外の部分は、親の介護費用負担にあてることになる。家族の支払い能力があるのかは、市によって審査される。一般的な収入の家庭の場合「平均で月々1000ユーロくらいかな・・」とのこと。
ちなみに10年以内に本人から贈与された資産については、返還請求が行われることもある。
なお、ドイツ連邦政府は子供の負担を減らしていくことを検討中とのこと。

社会扶助のしくみ

日本では収入が不足し、資産が底を尽きると「生活保護」ということになる。
しかしドイツでは、まずは家族による扶養義務、そして、それでも足りない場合に「社会扶助」の対象となる。
デュッセルドルフ市では、現在、在宅介護を受けている1600人、施設介護を受けている3800人に対し、費用の援助をしている。在宅で年間900万ユーロ、施設で年間5700万ユーロ。
施設介護においては、州の特別な法律(住居費に対する補助のしくみ)も活用している。ここで年間2200万ユーロ。
合計で8800万ユーロ。年間100億円以上の支援が行われているということになる。

日本の介護保険制度はよくできている。そのコンセプトも素晴らしい。
しかし、実際の運用についてはどうだろうか。

自立支援とは言いながら、何がその人にとっての「自立」なのか、という議論もされないままに運動機能の強化がケアプランに組み込まれようとしている。本人の真のニーズとは乖離した支援が一方的に提供されているケースも少なくない。
また、「介護の社会化」と言いながら、家族には一定の役割が求められる。そして「介護保険をなるべく使うな」という無言の圧力が、家族の活動と社会参加を妨げている。

厳しい財政を鑑みれば、「介護保険をなるべく使うな」という主張はもちろん理解できる。
しかし、そもそも「要介護度」は、その人のケアニーズを時間に換算し、それを現物支給するために必要な金額ではなかったのか。それを使うな、というのであれば、何のための要介護認定なのかわからない。
自助が大切だというのであれば、その人が自立できる環境が整えることを、まず前提として考えるべきではないだろうか。
自立できない環境に放置したまま、サービス提供を抑制するというのは、手段と目的が完全に逆転していると思う。

ドイツの介護保険の給付額は、おそらく日本のものとそんなに変わらない。
しかし、現金給付という選択肢を作ったことで、家族介護者の労働者としての権利を一定の範囲で保証するとともに、「近隣の助け合い」に対しても、一部現金で償還することが可能になる。

日本においては、本来の意図とは異なる形で介護保険制度が運用され、介護家族も疲弊している。
ここから先は個人的意見だが、家族の関与を前提として考えているのであれば、現金給付という選択肢をもう一度検討してみてもよいのではないかと思う。
ドイツと同様、家族単位の努力と工夫で介護サービスの利用が抑制できた分は、現金給付という形で家族にフィードバックする。これはある種のインセンティブにもなる。
また、そうでなければ、介護サービスは原則包括報酬とし、家族に負担をかけない形で、24時間の在宅ケアが提供できる体制の構築を地域単位で目指すべきではないだろうか。

ドイツの介護保険制度を知ることで、日本の介護保険制度の優れた部分についても、改めて気づくことができた。
しかし、その制度がよりよく生かされていくためには、現場の努力と工夫に加え、そしてケアのあり方について、もう一度、みんなで議論する必要があるのではないかと感じた。

最後に、ドイツの介護保険制度の概要についてご紹介する。

ドイツの介護保険制度の概要

日本と同じく、在宅介護と施設介護に大きく分かれる。
ドイツでは多くの人が在宅生活の継続を望んでいる。また、施設の整備は十分でない。
従って、在宅介護を基本(75%)とし、在宅での生活継続が困難になった場合に施設介護(25%)が選択される。

●要介護認定の方法
審査は自宅で、中立組織MDK(医療保険メディカルサービス)が行う。
認定結果は5週間以内に、入院中などの場合は1週間以内。異議申し立ては4週間以内。
給付は申請した月から発生する。

●点数による要介護認定
次の5つの要素を点数化し、合計点数に応じて要介護認定が行われる。
①可動性(15点)+②認知・コミュニケーションまたはBPSD(15点)+③日常生活動作(40点)+④病気や治療への対処(20点)+⑤日常生活および社会生活(15点)=100点満点
要介護1(12.5点未満)~要介護5(90点以上)
※要介護認定がなくても、医療保険による給付で短期介護が使えることもある。
診療記録に基づいて要介護度を判断。年間最長8週間、給付上限1612ユーロ。

●在宅介護

現金給付(家族介護)と現物給付(専門職による介護サービスの提供)が選択できる。 どちらかを選ぶことも、両方を組み合わせることもできる。

【1】在宅介護固定給付
要介護度に応じて給付される。ただし要介護1は対象外。
■現金給付(介護家族や友人への現金支払い)
要介護2(月額316ユーロ)~要介護5(901ユーロ)
■現物給付(専門職による介護サービスの提供)
要介護2(月額689ユーロ)~要介護5(1995ユーロ)
提供されるサービスは業者によって違いあり。選択できる。
料金は公定点数に基づく。点数の換算は保険者・業者の取り決めによって違いあり。上限超えると自己負担。

【2】部分施設介護
デイサービス・ナイトサービスの利用に対し給付される。要介護1は対象外。
■現物支給のみ、食費は含まず。
要介護2(月額689ユーロ)~要介護5(1995ユーロ)

【3】住宅改修・福祉用具などへの補助
■住宅改修:要介護度に関係なく4000ユーロまで
■介護用品:90~100%補助
■衛生材料:40ユーロまで支給。モノによっては医療保険からの給付も。

【4】介護者負担軽減給付
■月額125ユーロ/要介護度に関係なく・持ち越し可
家族や友人の負担軽減、さまざまな用途に使えるが、手続き必要。

【5】代理介護補助
■年間最長6週間/上限1612ユーロ/要介護2以上
介護者のレスパイトのために。半年以上の在宅介護の履歴が必要、専門家や家族・友人に依頼できる。

【6】短期介護補助
■年間最長8週間/上限1612ユーロ/要介護2以上
状態の悪化で、在宅介護が一時的に困難になり、部分施設介護給付で不足と認められた場合に。代理介護補助と抱き合わせも可能。

【7】医療保険の短期介護給付
■年最長8週間/上限1612ユーロ
要介護度認定のない人が、医療的な理由で短期介護が必要になった場合に。

●施設介護

基本的に高額で、給付額は在宅よりも多いが、相対的は全然足りない。

施設入所介護固定給付
■現物支給のみ/要介護1(125ユーロ)~要介護5(2005ユーロ)
施設介護の自己負担は、介護費(施設介護費-介護保険給付)+ホテルコスト(居住費・食事など)
介護費は、要介護2以上は施設単位で同額。要介護1は高い。また特養のような格安施設は存在しない。介護費が支払えなくなったら社会扶助(入居者の1/3が利用)。

●介護者の支援のしくみ

介護者の定義:1週間に2回以上、少なくとも10時間以上、家族の介護に従事している
介護者には減税や年金保険料の介護保険からの支払いなどの補助あり。
【1】解雇保護(介護のために必要があれば緊急短期欠勤(最大10日間)) 給与9割補償(介護保険から)
【2】介護期間(半年までの休職・部分休職)、給与補償はなし、低金利の貸付あり。※終末期の3か月も。
【3】家族介護期間(2年までの時短勤務)、給与補償はなし、低金利の貸付あり。
※ここでいう家族とは、内縁や事実婚なども含む。

●介護費用の支払い義務

【1】本人
自分の収入と資産から支払う。
介護にあてずに残せる財産(収入)は下記の通り ・自宅住居
・現金(5000ユーロ) ・配偶者のための現金(5000ユーロ)
・扶養家族一人につき500ユーロ
・葬儀と墓地使用権として最大5600ユーロまで

【2】家族
本人が払えなければ、家族(配偶者・直系の子供)に扶養義務が発生
介護にあてずに残せる財産(収入)は下記の通り
・月額1800ユーロまでの所得
・配偶者の生活費1440ユーロ
・子供の生活費(17歳の子供で月552ユーロなど)
・老後保障のために収入の5%

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