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なぜ今、訪問診療に「電子カルテ」が不可欠なのか?
超高齢社会を迎え、在宅医療の需要は急速に拡大しています。
日本総研の推計(※)によると、在宅医療を受ける患者数は2041年にピークの172万人に達する見込みであり、病院中心から「地域・在宅中心」の医療提供体制への転換が国策として進められています。
(※)日本総研|在宅医療の提供体制改革と期待される財政効果-コメディカルとICT の活用により訪問診療の効率化を-
この流れの中で、訪問診療クリニック開業の成功の鍵を握るのが「電子カルテ」です。
単なるデジタルツールではなく、診療の質と効率、そして経営を支える基盤としての位置づけが年々強まっています。
特に国が推進する医療DXに対応することは、これから開業するクリニックにとって“必須条件”と言えるでしょう。
国の方針:「クラウド型カルテ」が標準に
2024年度の診療報酬改定では、「医療DX推進体制加算」が新設され、電子カルテ・電子処方箋・オンライン資格確認などのデジタル基盤を整備している医療機関が評価される仕組みとなりました。
さらに政府は「2030年までに電子カルテ普及率100%」を掲げ、オンプレミス(院内サーバー)型からクラウド型への移行を後押ししています。
参考)厚生労働省|電子処方箋・電子カルテの目標設定等について(令和7年7月1日)
つまり、これから開業する訪問診療クリニックは、クラウド型電子カルテを導入することが事実上の必須条件となります。
院外からアクセスでき、診療現場や多職種との情報連携にも優れるクラウド型カルテは、訪問診療と最も相性の良い仕組みです。
紙カルテではもう限界。訪問診療で直面する課題
訪問診療は「外来よりも移動と情報共有が多い」点が特徴です。
紙カルテでは以下のような問題が避けられません。
1. 情報共有の非効率さ
訪問診療では、医師・看護師・事務スタッフなど複数の職種が関与します。しかし、紙カルテでは同時に記録を閲覧・編集できず、情報確認や共有に時間がかかります。
電話やFAXによる連絡が中心となることで、タイムラグや伝達ミスが発生しやすく、チーム医療の効率を妨げる原因となります。
2. 保管スペースと管理負担
紙カルテの保存期間は、診療完結日から5年間が義務付けられています。一方で、医療事故に関する損害賠償請求の消滅時効は最長20年。万一の訴訟リスクを考慮して、多くの医療機関では20年以上の長期保存を実務上行っています。
その結果、カルテ保管スペースが増大し、倉庫費用や管理工数が大きな負担となっています。
3. 診療報酬加算を逃すリスク
一部の診療報酬加算では「電子カルテ使用」が算定の前提条件となるケースがあります。特に在宅医療では、診療情報の迅速な共有や電子的な記録が求められることが増えており、今後も医療DXの推進に伴い電子カルテ前提の加算が拡大することが予想されます。
そのため、紙カルテのまま運用を続けると、加算の取り逃がしが発生し、結果としてクリニックの収益面で不利になるリスクが高まります。
4. 在宅医療特有の事務処理負担
在宅医療では、複雑なレセプト作成や多様な書類作成(診療情報提供書・訪問看護指示書など)が必要となります。紙カルテ運用では、これらの事務作業が手作業で行われるため、ヒューマンエラー、作業時間の増加が避けられません。事務処理の負担は医療スタッフの業務効率に直結します。
以上のような紙カルテの問題点は、電子カルテの導入によって解消・負担軽減できます。
特に在宅医療では、どこでも入力・共有できる仕組みが医療の質を左右します。電子カルテの活用により、情報共有の効率化、保管管理の簡略化、診療報酬の最適化、事務処理負担の軽減が同時に実現できるのです。
電子カルテ導入がもたらす主なメリット
訪問診療クリニックにおいて、電子カルテを導入することは単なるデジタル化ではなく、医療の質向上や業務効率化、さらには経営改善にも直結します。
電子カルテ導入がもたらす主なメリットを見ていきましょう。
- 業務効率の大幅アップ
昨今の電子カルテは音声自動入力、テンプレート登録、書類自動作成機能などにより、カルテ記載時間や書類作成時間を大幅に短縮できます。 - チーム医療を支える情報共有
医師・看護師・事務スタッフ間の情報連携がリアルタイムで可能。
カルテによっては連携している訪問看護ステーションやケアマネジャーとも安全に情報を共有できます。 - レセプト業務の自動化
レセコン一体型または連携型のシステムでは、カルテ入力内容がレセコンに自動連携。
請求ミス防止にもつながります。 - データ保護とBCP(事業継続)対応
クラウド上で自動バックアップされるため、災害時や端末故障時でもデータが守られます。 - 経営分析・可視化
診療件数、訪問回数、医業利益などの経営指標をダッシュボードで可視化できるカルテもあります。経営判断のスピードと精度が向上します。
訪問診療向け電子カルテとは
訪問診療向けカルテはその名のとおり、訪問診療での便利な機能やデバイスを兼ね備えている電子カルテで、外来向けカルテとは異なる機能が求められます。
- 場所を選ばない運用:患者さんの自宅や施設など、場所を選ばずに様々なデバイスからアクセスが可能なことが重要です。
- 多職種連携機能:ケアマネジャーや訪問看護師とのリアルタイムで安全に情報共有できることはスムーズな多職種連携につながります。
- 訪問スケジュール管理:訪問ルートを効率的に作成し、管理できることは診療効率に直結します。
- 在宅医療書類作成支援:訪問診療で特徴的なのは作成する医事文書書類の多さです。書類ごとのテンプレートやAIによる自動入力機能があることで書類作成時間が短縮されます。
このように、訪問診療向け電子カルテは、単なる「記録のためのツール」ではなく、チーム医療を支え、現場の負担を軽減し、より質の高い在宅医療を実現するための“インフラ”といえるでしょう。
訪問診療向け電子カルテを選ぶ際の5つのチェックポイント
訪問診療における電子カルテは、単に「記録を残すためのシステム」ではありません。
どこでもアクセスでき、チームで情報共有でき、書類作成や請求業務まで効率化できる――そんな“在宅医療のインフラ”としての機能が求められます。
ここでは、訪問診療クリニックが電子カルテを選ぶ際に確認しておきたい 5つのチェックポイント をご紹介します。
① クラウド型カルテか
訪問診療では医師やスタッフが日々移動し、診療場所も多岐にわたります。
クラウド型カルテであれば、自宅・患者宅・施設・車中・クリニックなど、どこからでもアクセスが可能。
さらに、電波状況が悪いエリアでの診療を想定し、オフライン入力機能が備わっているかも確認しておきましょう。
② AI機能による業務効率化ができるか
近年の電子カルテは、AIが診療を支援する時代に入っています。
たとえば次のような機能により、入力や書類作成の手間を大幅に削減できます。
- 診察時の音声データからカルテへSOAP形式で自動入力
- カルテ内容から訪問診療に必要な書類を自動作成
- 傷病名・加算チェックの自動化
AI機能は単なる「便利さ」だけでなく、業務効率化と請求精度の向上の両立につながります。開業時から導入を検討する価値があります。
③ 従量課金制でコストを最適化できるか
訪問診療クリニックの開業初期は患者数が少なく、コストを抑えたい時期です。
患者数やカルテ件数に応じた従量課金制を採用している電子カルテであれば、開業初期の負担を軽減しつつ、成長に応じて柔軟に拡張できます。
また、クラウド型ならオンプレ型に比べて初期費用が抑えられ、キャッシュフローへの影響も小さいのがメリットです。
④ レセコン導入・運用のサポートが受けられるか
電子カルテの導入時には、レセプトコンピュータ(レセコン)との連携や設定が欠かせません。
レセコンの導入支援や運用サポートまで一貫して対応してくれるカルテメーカーを選ぶことで、導入時のトラブルを防ぎ、人的コストや学習負担を大幅に軽減できます。
導入後も安心して運用できるサポート体制があるかどうかを確認しましょう。
⑤ クリニック運営に関する総合的なサポートが受けられるか
電子カルテを選ぶ際は、「カルテ機能」だけでなく、クリニック運営全体を支援してくれるかどうかも重要です。
訪問診療クリニックでは、診療以外にもレセプト作成・請求業務・書類作成・個別指導対応など、運営上の負担が多く発生します。
こうした課題を相談でき、実務面でも支援してくれるカルテ提供会社を選ぶことで、日々の業務が格段にスムーズになります。
たとえば、開業支援、レセプト代行、個別指導対策支援サービスなどを提供している会社なら、単なる「システム提供」にとどまらず、経営面まで伴走してくれるパートナーとなります。
つまり、電子カルテを選ぶときは「どんな機能があるか」だけでなく、「困ったときにどこまで支えてくれるか」という視点も欠かせません。
長く安心して運用できるカルテ選びには、この視点が非常に大切です。
2025年最新おすすめ電子カルテ7選
訪問診療クリニックの電子カルテ選びにあたり、おすすめのカルテを7つ紹介いたします。
1. homis(メディカルインフォマティクス株式会社)
在宅医療専用電子カルテ「homis(ホーミス)」は、在宅医療のトップランナーである 医療法人社団悠翔会・佐々木淳理事長 が開発協力した、現場発想のクラウド型電子カルテ です。
運営会社のメディカルインフォマティクス株式会社 は、在宅医療に特化したコンサルティング会社。電子カルテの提供にとどまらず、クリニック運営に関するあらゆるお悩みを相談できる心強いパートナー です。
【homisの主な特徴】
- AIが各種書類を自動作成し、業務効率化と精度向上を両立
- レセプト代行プランや個別指導対策サポートプランなど、新規開業時も安心の支援体制
- レセコン導入・運用サポートも同じ窓口で一括対応
さらに、患者数に応じた従量課金制によりコストを最適化。
薬局や施設など地域の多職種との情報共有機能も備え、チーム医療を力強く支援します。
2. モバカルネット(NTTプレシジョンメディシン株式会社)

出展:https://movacal.net/
在宅医療に特化したクラウド型電子カルテです。
テンプレートや定型文、豊富なシェーマなど、記録入力をサポートする機能が充実しています。
また、60種類以上の医事文書を自動で作成できるほか、インターネットFAX送信、スケジュール管理、訪問先の地図表示など、在宅医療に必要な機能を一つに集約。
さらにチャット機能を活用すれば、スマートフォンからSNS感覚でスタッフ間の情報共有もスムーズに行えます。
3. セコムOWEL(セコム医療システム株式会社)

出展:https://medical.secom.co.jp/it/karte/secomowel/
在宅医療クリニックや無床診療所に最適なクラウド型電子カルテ。
iPadやAndroidタブレットに対応し、外出先でもスムーズに利用できます。
医療文書の自動作成機能に加え、往診スケジュールの作成や施設ごとの請求書発行、FAX送信、タスク管理など、在宅診療に必要な業務を幅広くサポートします。
4. エムスリーデジカル(エムスリーデジカル株式会社)

出展:https://digikar.m3.com/
iPadアプリによるカルテ入力やオーダー操作が快適に行える、クラウド型電子カルテです。
Mac・Windowsの両方に対応し、台数制限もなく、インターネット環境があれば自宅や往診先でも利用可能。
AIによる自動学習機能により、使用頻度の高い処置やオーダーを把握し、次回からは自動でサジェスト。
カルテ作成やオーダー入力の手間を大幅に軽減できます。
5. CLINICSカルテ(株式会社メドレー)

出典:https://clinics-cloud.com/
オンライン診療に強みがあり、「CLINICSオンライン診療」と連携することで、カルテ上から患者アプリと直接つながります。
レセコン一体型のため、外部ソフト操作が不要で、予約・受付・診察・会計までを一元管理。
検査データの自動取り込みや、他社レセコンからのスムーズなデータ移行にも対応しています。
臨床医とデザイナーが共同開発した、使いやすいUIも高く評価されています。
6. CLIUS(株式会社DONUTS)

出典:https://clius.jp/
SaaS勤怠人事システム「ジョブカン」の株式会社DONUTSが開発・運営するクラウド型電子カルテ。
レセコンは日レセクラウドORCAと連携し、直感的でサクサク動く操作性が特徴です。
Do入力・セット登録・AI入力などの基本機能に加え、オーダー自動学習機能や複数カルテ同時起動、グループ間での患者情報共有などを搭載。
外注検査会社やPACS、問診・受付システムともスムーズに連携し、受付・予約・オンライン診療機能も利用可能。
導入後は遠隔接続によるサポートが受けられ、安心して運用できます。
7.Medicom-HRf Hybrid Cloud(ウィーメックス株式会社)

出典:https://www.phchd.com/jp/medicom/clinics/mchrf-hybrid-cloud
170社以上のサービスと連携できる高い拡張性が特徴の電子カルテ。
クラウド型・オンプレミス型の両方に対応し、在宅医療に精通した担当者が訪問診療向けに最適化して提供します。
カルテ情報を更新すれば文書にも自動反映され、コピー文書も最新情報に自動更新。入力の手間とミスを削減します。
ACP(人生会議)記録や看護メモ、患者の課題整理など、訪問診療に役立つ機能も充実しています。
まとめ
訪問診療クリニックにおける電子カルテは、もはや「便利なツール」ではなく、診療の質・業務効率・経営のすべてを支える不可欠なインフラです。
今回ご紹介したクラウド型カルテやAI搭載機能、運用サポート体制を備えたシステムを選ぶことで、開業時から安心して在宅医療をスタートでき、チーム医療の質向上や業務負担の軽減も実現できます。
クリニックの規模や診療スタイルに応じて最適な電子カルテを選ぶことは、患者さんへの医療提供をより安全・効率的にすると同時に、経営の安定化にも直結します。
これから訪問診療クリニックの開業や運営を考えるなら、まずは電子カルテ選びから着実に準備を進めましょう。










