訪問診療の集患を成功させる!連携機関への営業活動の方法とポイント

訪問診療の集患を成功させる!連携機関への営業活動の方法とポイント

こちらの記事は2025年7月15日に開催された「在宅医療カレッジ×株式会社CoMediCs×Peer Study共催セミナー|訪問診療クリニックが知っておくべき集患のポイント|介護事業所・施設への営業活動について(講師:株式会社CoMediCs営業部連携課 高司裕俊氏)」の内容をもとに、編集部が再構成したものです。

セミナーのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。
(peer studyサイトへ遷移します)

訪問診療クリニックを開業した、あるいはこれから開業を考えている先生方の中には、「どうすれば患者さんを増やせるのか」「営業活動と言っても、何から手をつければいいか分からない」といったお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

独立開業するということは、一人の医師であると同時に「経営者」になるということです。質の高い医療を提供することはもちろん、クリニックを安定的に運営していくためには、集患、すなわち「営業活動」が不可欠です。

本記事では、株式会社CoMediCs(スギ薬局グループ)で医療・介護事業者へのコンサルティングを行う髙司裕俊氏の解説を基に、訪問診療クリニックが集患を成功させるための「営業の考え方」から「具体的な営業方法」まで、実践的なポイントを詳しくご紹介します。

なぜ、「営業」が必要なのか?

訪問診療のニーズは、高齢化の進展とともにますます高まっています。しかし、同時に競合となるクリニックも増えており、ただ待っているだけでは患者さんからの依頼は舞い込んできません。

自院の強みを正しく理解し、それを必要としている地域の連携先へ的確に届ける「営業活動」こそが、安定したクリニック経営を実現する鍵となるのです。

成功へのロードマップ:営業活動の5つのステップ

営業活動を闇雲に始めても、時間と労力がかかるばかりで、なかなか成果には結びつきません。まずは以下の5つのステップに沿って、営業の全体像を把握し、計画的に進めていくことが重要です。

  1. 市場調査:自院が戦う市場を知る
  2. ターゲティング:狙うべき相手を決める
  3. 営業計画:訪問の優先順位を決める
  4. 営業リスト作成:攻めるべきリストを作る
  5. 営業管理:活動を記録し、次の一手へ繋げる

STEP1.市場調査:データと足で、地域のニーズを掴む

市場調査には、公的なデータなどから数値を分析する「
「定量調査」と、実際に訪問して現場の声を聞く「定性調査」の2つがあります。

    • 定量調査
      地域の人口構成や高齢化率、競合クリニックの数、連携候補となる介護事業所の数などをデータで把握します。これにより、どのエリアにどれだけのニーズが見込めるのか、客観的な視点で分析できます。
      日本医師会が提供する「JMAP(地域医療情報システム)」(https://jmap.jp/)などの無料ツールも、こうした情報を得るのに非常に役立ちます。
  • 定性調査
    地域のケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーなどに直接ヒアリングを行い、「どんな患者さんで困っているか」「既存の訪問診療クリニックに対する不満はないか」といった“生の声”を集めます。これにより、自院がどのような立ち位置で、どんな価値を提供できるかのヒントが見つかります。


これらの調査結果を、分析フレームワークである「3C分析」で整理すると、自院の戦略がより明確になります。

  • Customer(市場・顧客):地域の高齢化率や患者層のニーズはどうか?
  • Competitor(競合):他のクリニックの強みや弱みは何か?
  • Company(自社):自院の強みは何か?(例:他職種との連携力、看取りの実績、専門性の高さなど)

(セミナー資料より引用)

STEP2.ターゲティング:自院の「強み」を活かせる相手を見つける

市場調査で自院の立ち位置が見えたら、次は具体的な営業先を選定します。ここでも「SWOT分析」というフレームワークが有効です。

  • S(Strength):強み(例:地域密着、フットワークの軽さ)
  • W(Weakness):弱み(例:スタッフ不足、知名度の低さ)
  • O(Opportunity):機会(例:地域の高齢化、競合への不満)
  • T(Threat):脅威(例:競合の多さ、診療報酬改定)

(セミナー資料より引用)

この分析を通じて、「自院の強みを活かし、市場の機会を最大限に活用できる(強み×機会)」ような戦略を立てます。例えば、「競合が患者家族とのコミュニケーションに課題を抱えている(機会)」なら、「地域密着できめ細かい対応ができる(強み)ことを活かし、コミュニケーションを重視する高齢者施設へアプローチする」といった具体的なターゲット像が見えてきます。
以上のように、地域の中の自院の立ち位置を決めたら、複数の候補の中から適切な営業先の選定と優先度付けをします。
主な営業先としては、以下が挙げられます。

  • 病院(退院調整室、地域連携室)
  • 地域包括支援センター
  • 居宅介護支援事業所
  • 訪問看護ステーション

STEP3.営業計画:優先順位を考える

ターゲティングができたら、次は計画フェーズです。
まずは、誰にでも闇雲にアプローチするのではなく、優先順位を決めることが重要です。

  • コネクション:過去に連携したことがあるなど、繋がりがある事業所は関係を深めやすく、新規の連携先紹介につながることも多いです。
  • エリア:まずは自院の所在地である市区町村を優先的に回りましょう。
  • 職種:訪問診療の依頼元として特に多いケアマネジャー(30~40%※)や退院元の病院(20~30%※)は、優先度を高く設定します。
    ※数値は依頼元の割合の参考値

STEP4.営業リストの作成:限られた時間で効率よく成果を出すための準備

ターゲットに応じて、ホームページやJMAPなどを参考に営業先をリストアップします。最低限、医療機関名、住所、電話番号は事前に調べておきましょう。

(セミナー資料より引用)

STEP5.営業管理:活動を振り返り、次の一手へ活かす

アプローチした日付、面会担当者、話した内容、次回の予定などをなるべく詳細に記録します。営業したら終わりではなく、その後の対応が非常に重要です。この記録が、次の一手を考えるための貴重な財産となります。

実践編:成果に繋がる営業方法のいろは

準備が整ったら、いよいよ実際の営業活動です。ここでは、効果的な営業のコツを5つのポイントに分けて解説します。

1. アポイント営業を基本とする

飛び込み営業はスピード感がありますが、相手の時間を奪ってしまい、効率も良くありません。開業後の基本は事前に電話などでアポイントを取る「アポイント営業」が望ましいです。ただし、ケアマネジャーや訪問看護ステーションなど日中外出しがちな職種の場合は、朝夕の時間帯を狙って飛び込みで顔を出すのも一つの手です。アポイントを取る・取らないは出入りしている業者に事前に聞いておくのもよいでしょう。

2. 最強のアプローチは「紹介」

最も効率の良い営業方法は、信頼できる人から「紹介」してもらうことです。開業を支援してくれた企業や、取引のある医薬品卸や医療機器メーカー、あるいは営業先で関係ができた担当者から「どこか良い連携先はありませんか?」と尋ね、人脈を広げていきましょう。

3. 営業相手に合わせたアプローチを

営業先によって、面会すべき相手や効果的なアピール方法は異なります。以下の表を参考に営業方法を工夫しましょう。

(セミナー資料より引用)

4. 「先生の人柄」が最大の武器

訪問診療において、先生自身が最大の「商品」です。特に重要な営業先には、スタッフ任せにせず、ぜひ先生自身が訪問してください。知識やスキルはもちろんですが、最終的に相手が重視するのは「この先生になら安心して患者さんを任せられるか」という点です。

5. 「話す」より「聞く」を心がける

営業は「売り込む」ことではありません。本当に大切なのは、相手の話に耳を傾ける「傾聴」の姿勢です。「新規開業しました!」と一方的に話すのではなく、「どのような患者さんのことでお困りですか?」と問いかけ、相手の課題やニーズを深く理解することから始めましょう。

信頼を築く「営業後」の対応

営業活動は、訪問して終わりではありません。むしろ、その後の対応こそが、長期的な信頼関係を築く上で最も重要です。

    • 迅速なお礼と回答
      訪問させてもらったら、その日のうちに必ずお礼のメールを送りましょう。その際、訪問時に受けた質問や相談事への回答も添えるのが鉄則です。
    • 「+α」で期待を超える
      相手の期待を少しだけ上回る対応を意識することで、信頼は格段に高まります。
      ・「思っていたより、早く連絡をくれた」
      ・「思っていたより、詳しく調べてくれた」
      この小さな「+α」の積み重ねが、次の依頼に繋がります。
  • 最初の依頼は絶対に断らない
    どんなに困難なケースであっても、開業当初は特に、極力断らずに「なんとかしてあげよう」という姿勢を見せることが重要です。また、依頼の電話を受けるスタッフの対応もクリニックの顔です。丁寧な受け答えができるよう、日頃から指導しておきましょう。

地域でのイベントも営業活動のチャンス

地域でのイベントや交流会、勉強会などは営業活動の絶好のチャンスです。積極的に参加しましょう。

    • 健康イベント
      市役所や保健所、地域包括センターにヒアリングする。
      (地域包括支援センターは来年度の研修計画を11月頃に計画している)
    • 多職種交流会
      主催者は訪問診療医、介護職、コンサルティング会社など様々なケースがある。営業活動の中でこのような交流会が行われていないかヒアリングする。
    • 勉強会
      講師を依頼されたら快く引き受け、自身が参加する場合は講師と名刺交換する。
  • 自身でイベント開催
    人柄が伝わるようなパーソナルな情報を交えながら自己紹介を行い、話しかけやすさ・相談しやすさをアピールする。集客が難しい場合は連携事業者や取引業者、コンサルティング会社に相談するのも手。

まとめ:集患を成功させるための営業活動のポイント

訪問診療クリニックの集患を成功させるには、戦略的な営業活動が不可欠です。本記事でご紹介したポイントを、改めて確認しましょう。

  • 営業は5つのステップで計画的に:①市場調査→②ターゲティング→③計画→④リスト作成→⑤管理
  • 分析フレームワークを活用:「3C分析」と「SWOT分析」で自院の立ち位置と戦略を明確にする。
  • 営業の基本は「紹介」と「傾聴」:最も効率的なのは紹介。訪問時は売り込むより相手の課題を聞くことに徹する。
  • 人柄が最大の武器:重要な場面では先生自身が訪問し、相談しやすい雰囲気を作ることが大切。
  • 勝負は「営業後」に決まる:迅速なお礼と「+α」の対応、そして最初の依頼を決して断らない姿勢が信頼を築く。


これらの活動を地道に続けることが、地域から選ばれ、愛されるクリニックへの確かな一歩となります。

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