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患者の健康と生活を支える在宅医療を目指して|たかねファミリークリニック|高根紘希先生

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患者の健康と生活を支える在宅医療を目指して|たかねファミリークリニック|高根紘希先生

「訪問診療を始めることになるとは思っていませんでした」そう話されるのは高根紘希先生。
医学部卒業後、大学病院に15年間勤務し、2019年に「たかねファミリークリニック」を開業されました。当初は内科や小児科、皮膚科の外来診療を行っており、訪問診療の経験はなかったといいます。
現在は外来診療と訪問診療を両立し、地域に根差した『たかねファミリークリニック』。高根先生の在宅医療との出会いはどのようなものだったのでしょうか。訪問診療を始めたきっかけや今後の展望について伺いました。

たかねファミリークリニック 院長
高根 紘希 先生

東京慈恵会医科大学医学部卒。同大学附属病院にて初期研修を修了後、腎臓・高血圧内科に入局。熊本大学医学部薬理学教室に国内留学し、学位を取得。その後、大学病院を退職し、総合病院小児科や皮膚科クリニックでの実務研修を経て、2019年に東京都中野区にたかねファミリークリニックを開業。外来診療と訪問診療を両立し、地域に根差したクリニックとして小児から高齢者まであらゆる年代に医療を提供。24時間365日の診療の傍ら、地域活動にも積極的に参加している。

医師を目指したきっかけー幼い頃に見ていた父の姿

高根先生が医師を志したきっかけには、産婦人科医である父親の存在がありました。子どもながらに見ていた父親の姿についてこう語ります。

「父は40代で肺がんを患い、手術や化学療法を受けていました。生存率が3割と告げられた状況でも、周囲につらさを感じさせることなく『町のお医者さん』として生き生きと働いていたんです。何がそんなに楽しいんだろうと不思議で仕方がありませんでした」

「父親がなぜそれほどまでに医療に情熱を持てるのかー」そんな素朴な疑問が、高根先生が父親と同じ医師への道を選ぶきっかけとなりました。また、高根先生自身も人と関わることが好きなのだそう。人との関わりの中で自分が役に立つことができたら、と考えたこともこの道を選んだ理由でした。

医学部を卒業して大学病院で15年間の経験を積んだのち、父親のように町医者になりたいという想いから「たかねファミリークリニック」を開業。「地域の人たちがまず相談に来られる場所を」と考え、内科・小児科・皮膚科の外来診療をスタートしました。

「自分にできることは全てやる」コロナ禍で引き受けた在宅看取り

開業から約半年後、日々の診療に励んでいた高根先生に転機が訪れます。新型コロナウイルス感染症の流行です。病気が流行してからは患者さんの来院が途絶えてしまったといいます。

「開業して間もなかったので、当院のことを知ってもらう前に新型コロナウイルス感染症が流行してしまいました。患者さんは来ないし、どうしようかと思っていたところに訪問診療をしていた近隣の医師から『閉業するから患者さんを任せたい』と依頼があったんです。依頼された患者さんの状態や訪問診療のながれなど何もわからないままでしたが、この地域の患者さんに関わることなので、訪問診療を受けることを決意しました」

手探りの状態で訪問診療を開始した高根先生。新型コロナウイルス感染症の流行当初から、自分にできることはないかと考えており、近隣の医療機関に「何かお手伝いできることはありますか?」と連絡していたそうです。そんな高根先生のもとに『新型コロナウイルス感染症の患者さんの在宅看取りをお願いしたい』と連絡が入りました。日本で前例がないと、都内のあらゆる診療所で断られたこの依頼が、最後に近所で開院したばかりのクリニックに届きました。

「患者さんは90代の女性で、お看取り間近の入院中にクラスター感染したとのことでした。私にとって在宅でのお看取りはその方が初めてだったので迷いはありました。当時は新型コロナウイルス感染症だと看取りの立会もできなかったので『母をお骨の状態で自宅に返すわけにはいかない』というご家族の強い希望に胸を打たれました。医療従事者として、新型コロナウイルス感染症に関することは全部引き受けようと思っていたので、在宅でのお看取りも自分にできることはやるという想いでお受けしましたね。」

新型コロナウイルス感染症患者さんの在宅看取りを引き受けることを決めて、まずは保健所に連絡しました。保健所も全面的にバックアップしてくれ、感染予防のための防護服をすぐに持ってきてくれたそうです。高根先生は当時を振り返り「保健所長が直々に(在宅看取りを)必ず成功させましょうと言ってくれて、本当に心強かったです」と話します。患者さんをサポートするための訪問看護も受け入れてくれる事業所が見つかり、高根先生・訪問看護・保健所の協力のもと『人生の最期を迎える新型コロナウイルス感染症患者さんとご家族のサポート』が始まったのです。

「あの頃は新型コロナウイルスがまだ未知の感染症だったので、正直なことを言うと怖さはありました。さまざまな方の協力があったからこそできたことです。患者さんが最期を自宅でご家族と一緒に迎えられて本当によかったと心から思いましたね。」

患者さんは退院してから1週間ほどで最期を迎えられたといいます。この出来事はテレビや地域の新聞にも取り上げられ、大きな反響を呼びました。「新型コロナウイルス感染症の患者さんの在宅看取り」という当時前例のなかったこの経験は、高根先生自身の在宅医療に対する考え方を変えるターニングポイントにもなったのです。

在宅医療に魅了された理由ー患者さんの生活を支えられる喜び

こうした経験を経て「自分は今、在宅医療に魅了されている」と話す高根先生。その理由には「患者さんの生活の中で医療が提供できる喜び」がありました。

「医師である私と、訪問看護師やヘルパー、ケアマネなど、それまで面識のなかった医療者同士が患者さんの自宅で顔を合わせて、一人の患者さんをサポートするために懸命に話し合うーその感覚が新鮮でしたね。多職種がそれぞれの専門的な立場から考えてサポートして……その中に入れてもらえることが嬉しかったですし、多職種で協働して患者さんを支えることにやりがいを感じました。」

患者さんの生活環境や家族背景などにも深く関わりながら、自分が医療を提供させてもらえることに驚きと同時に喜びを感じた高根先生。診療の傍ら、患者さんが普段の生活のなかで喜びを感じたり笑顔になれることを探しています。その取り組みのひとつとして、患者さんのお誕生日には手作りのバースデーカードをお渡ししているそうです。

「私たちがお誕生日をお祝いさせてもらうことで、涙を流して喜んでくださったり、車椅子でわざわざクリニックまでお礼を言いに来てくださったりすることもありました。そういった患者さんとの温かい関わりが、私たちの喜びでもありますね」

患者さんを医療面から支えるだけでなく、生活や関わりを大切にしながら、高根先生は日々の診療に励んでいます。

地域の人々が笑顔で健康に暮らせる町に。地域づくりに貢献

外来診療と訪問診療を両立しながら、地域に根差したクリニックとして地域での活動も精力的に行っている高根先生。「医療従事者の立場から、町づくりの歯車のひとつとして関わりたい」と話されます。

「クリニックには赤ちゃんから高齢者までさまざまな年代の方が来てくれます。『ゆりかごから墓場まで』という言葉がありますが、通院できる間はクリニックに来ていただき、通院が難しくなったら私たちが自宅に訪問するーそんな形を続けていきたいですし、患者さんの人生に寄り添い、ともに歩む存在でありたいです。」

あらゆる年代の患者さんの健康と生活をサポートする高根先生は、地域の人たちにとって心強い存在となっているでしょう。みんなが笑顔で健康に暮らせる町にしたいという想いを胸に、高根先生は『町のお医者さん』としてこれからも診療を続けます。

この記事を書いた人

土生恵(けい)

看護師/ライター。看護大学卒業後、総合病院へ勤務。その後、血液センターやクリニック、保育園看護師などの経験を積み、訪問診療クリニックに就職。 現在も看護師として働きながら医療・介護分野でライター活動を行う。 今後は在宅医療を地域に広げる活動もしていきたいと思っている。

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