外来クリニックのための在宅医療スタートアップ講座 |【第3回】訪問診療の収益構造とは? 在宅医療の報酬体系・収益性を徹底解説

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外来クリニックのための在宅医療スタートアップ講座 |【第3回】訪問診療の収益構造とは? 在宅医療の報酬体系・収益性を徹底解説

高齢化が進む日本社会において、通院が困難な患者を支える訪問診療の役割はますます重要になっています。外来を中心に運営してきたクリニックにとっても、地域貢献と収益確保の両立を目指す上で、訪問診療の導入は非常に有効な選択肢です。

本記事では、「訪問診療を始めてみたい」と考える外来クリニックの院長に向けて、在宅医療における診療報酬の体系と、実際にどのような収益が見込めるのか、シミュレーションを交えて解説します。

訪問診療における診療報酬の構造

訪問診療の診療報酬は、大きく5つの要素から構成されています。

  1. 月1回算定できる医学総合管理料(在総管・施設総管)
  2. 訪問ごとの診療報酬(訪問診療料・往診料)
  3. 各種指導管理料
  4. 投薬/処置/検査/注射料
  5. 情報提供/指示料

これらが組み合わさることで、外来診療とは異なる安定的な収益構造が形成されます。

訪問診療の診療報酬体系

1. 月1回算定できる「医学総合管理料」

訪問診療において最も大きな収益源となるのが、月1回算定可能な「在宅時医学総合管理料(在総管)」または「施設入居時等医学総合管理料(施設総管)」です。これは、通院が困難な患者に対し、計画的な医学管理のもとに定期的な訪問診療を行った場合に支払われる定額報酬で、患者の居住形態や訪問回数によって金額が異なります。

医学総合管理表

引用)厚生労働省|「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」

月に1回の訪問であっても算定可能であり、収益のベースとなる安定的な報酬です。
医学総合管理料には患者さんの状態などの条件に応じて、「包括的支援加算」「在宅移行早期加算」「頻回訪問加算」「オンライン在宅管理料」などの加算があります。

2. 訪問1回ごとに発生する「訪問診療料」「往診料」

往診料

患者・家族の求めに応じて計画外で訪問した際に発生するのが「往診料」(720点)です。
緊急・夜間休日・深夜の往診に対する加算などがあります。


訪問診療料

計画に基づいた訪問の都度発生するのが「在宅患者訪問診療料」です。点数は、訪問する患者の数や建物の構造(単一建物に複数の患者がいるかどうか)に応じて変化します。
。例えば、グループホームや有料老人ホームを訪問すれば1施設で複数名を診療することが可能になり、移動効率と診療数のバランスをとりやすくなります
訪問診療料には「在宅ターミナルケア加算」「看取り加算」「死亡診断加算」などの加算があります。

引用)厚生労働省|「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」

3.各種指導管理料

特定の診療行為や処置(血液透析、酸素療法、中心静脈栄養など)のために指導管理を行った場合に算定できます。

4.投薬/処置/検査/注射料

在宅患者診療、指導料、在宅療養指導管理料の包括範囲外となる検査や処置を行った場合などに算定できます。

5.情報提供/指示料など

診療情報提供書や訪問看護ステーションなどへの指示書の交付を行った際に算定できます。


在宅医療の診療報酬体系は、外来診療と比べて複雑で算定項目も多岐にわたるため、取り漏れがあると想定以上の減収につながるリスクがあります。特に、開業初期や医事スタッフの確保が難しい場合は、レセプト業務を専門業者に外注することで安心して運営をスタートできるでしょう。
実際に、算定漏れの予防を目的に外注を導入した結果、約100万円の増収につながったクリニックもあります。

患者1人あたりの収入シミュレーション

訪問診療を始めた場合、患者さん1人あたりにつきどのくらいの収入となるのでしょうか。自宅訪問のケースと施設訪問のケースでは収入が大きく異なるため、それぞれのケースを見てみましょう。
点数は一般的な在宅療養支援診療所(在支診3)・院外処方での数値となっています。

自宅の場合
(一般家屋の要介護3の患者に月2回訪問診療を行った場合)

項目 点数・単位
在宅患者訪問診療料Ⅰ(同一建物以外)1回目 888点
在宅患者訪問診療料Ⅰ(同一建物以外)2回目 888点
在医総管 3685点
包括的支援加算 150点
居宅療養管理指導費Ⅱ(単一建物居住者1人の場合)1回目 299単位
居宅療養管理指導費Ⅱ(単一建物居住者1人の場合)2回目 299単位
合計(1単位10円で計算) 62,090円

⇒その他に各種加算等が算定され、実際の居宅患者1人あたりの収入は約60,000円前後となります。(クリニックの施設基準や患者さんの状態により前後します)

施設の場合
(有料老人ホームの要介護3の患者に月2回訪問診療を行った場合)

項目 点数・単位
在宅患者訪問診療料Ⅰ(同一建物)1回目 213点
在宅患者訪問診療料Ⅰ(同一建物)2回目 213点
施医総管(単一建物居住者10~19人の場合) 985点
包括的支援加算 150点
居宅療養管理指導費Ⅱ(単一建物居住者10人以上の場合)1回目 260単位
居宅療養管理指導費Ⅱ(単一建物居住者10人以上の場合)2回目 260単位
合計(1単位10円で計算) 20,810円

⇒その他に各種加算等が算定され、実際の施設患者1人あたりの収入は約20,000円前後となります。(施設基準や患者さんの状態により前後します)

訪問診療スタイル別の収入シミュレーション

在宅医療の診療報酬体系と1人あたりの売上の構造を把握できたところで、次に考えたいのは「自院ではどのようなスタイルで訪問診療を取り入れるべきか」という具体的な運用イメージです。
診療日の午後を使ってスモールスタートで始めるケースと、訪問診療専門の日を週2日午後確保してある程度の患者数を診るケースという2つのモデルケースで簡単な収益シミュレーションを見ていきましょう。

ケース① 外来と並行してスモールスタートで始めた場合

    【前提条件】

    • 訪問診療は週2日午後のみ(1日あたり3人程度)
    • 医師・看護師・事務は既存スタッフ
    • 基本は居宅患者(施設なし)、月2回訪問


    訪問診療の月額収入
    • 訪問患者数:10名
    • 1人あたり収益:約60,000円(平均)

    ➡ 訪問診療による月額収益:約60万円



    訪問診療に関するコスト
    項目 金額目安(円)
    車両・燃料・保険 約10万円
    電子カルテ・請求管理 約5万円
    医療材料・通信費など 約5万円

    ➡ 月間コスト合計:約20万円



    月間想定利益
    • 収入  約60万円
    • 支出  約20万円

    ➡ 粗利:40万円
    (※外来時間を減らした分の収入は減少します)

    このモデルは、「まずは週2回・午後だけ訪問診療を始めたい」という、最も現実的なスモールスタートのシナリオを想定しています。外来の診療枠を大きく減らす必要はなく、空き時間の有効活用と地域ニーズへの対応を両立できます。

    慣れてきたら、訪問患者数を15〜20名程度まで増やすことで、月間50万円以上の収益も無理なく目指せる範囲です。

    しかし、こちらのケースの場合は院長自らが訪問診療にも対応していますので、医師1名体制で今後も持続可能かがその先の安定運営の鍵となります。

    ケース② 訪問診療日を週2日設定し、外来診療と並行して訪問診療を始めた場合

    【前提条件】

    • 訪問診療日:週2回
    • 外来診療(週2)のため、非常勤医師を雇用
    • 1日あたりのの訪問数:10人(居宅4人、施設6人)
    • 月間患者数:40名(居宅16人、施設24人)


    訪問診療の月額収入
    • 居宅患者60,000円×16名=96万円
    • 施設患者20,000円×24名=24万円

    訪問診療による月額収入:約120万円



    訪問診療に関するコスト
    項目 金額目安(円)
    医師人件費(外来週2) 約40万円
    看護師人件費(訪問週2・2名) 約20万円
    車両・燃料・保険 約10万円
    電子カルテ・請求管理 約5万円
    医療材料・通信費など 約10万円

    ➡ 月間コスト合計:約85万円



    月間想定利益
    • 収入  約120万円
    • 支出  約85万円

    ➡ 粗利:35万円

    ケース②では、訪問診療による院長の不在時でも外来診療を継続できる体制が整っているため、外来の収益を途切れさせることなく確保できます。その結果、トータルでの収益性は向上します。

    このように、訪問診療の導入スタイルによって収益は大きく変わります。はじめは現在の外来診療と両立しながら無理のない範囲でスタートし、患者数の増加やスタッフ体制の整備に応じて訪問診療の割合を高めていく、という段階的な展開も現実的な選択肢のひとつです。

    診療報酬だけにとらわれず、自院のリソースや目指す医療の形を見据えながら、無理のない導入計画を立てることが、継続的な在宅医療の提供につながります。

    外来クリニックにおける導入メリット

    外来中心のクリニックにとって、訪問診療を導入する意義は収益面だけではありません。

    • 通院できなくなった患者の継続的な診療が可能に
    • 外来の減収を補える新たな収益源を確保
    • 医療ニーズの高い高齢者層との関係構築
    • 地域包括ケアシステムへの積極的な関与


    地域の中でのプレゼンスを高めながら、クリニックとしての持続可能性を高める選択肢となるでしょう。

    導入時のポイントと注意点

    訪問診療を開始するにあたっては、以下の点に留意するとスムーズです。

    • 医師・看護師・事務などの体制整備
    • 訪問エリアの選定(無理のない距離)
    • 電子カルテや請求体制の導入
    • 居宅・施設との連携関係の構築
    • 緊急時対応の体制整備(加算算定のためにも重要)

    最初は週1回からスタートし、徐々に規模を広げていくことで、負担なく安定した運用が可能になります。

    まとめ:訪問診療は外来クリニックにとって“第2の柱”になり得る

    外来診療の限界や高齢化社会の進展を見据えると、訪問診療の導入は将来的なクリニック経営を安定させる重要な一手です。
     月額制の報酬体系と加算制度により、少人数でも安定的な収益が得られる仕組みが整っており、スモールスタートでも始めやすいのが魅力です。

    訪問診療への一歩を踏み出したいとお考えの方は、まずは小規模なモデルでの収支試算から始めてみてはいかがでしょうか。

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