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連載 かかりつけ医機能と在宅医療②|中央大学ビジネススクール教授・多摩大学MBA特任教授|真野 俊樹 先生

  • #在宅医療全般
連載 かかりつけ医機能と在宅医療②|中央大学ビジネススクール教授・多摩大学MBA特任教授|真野 俊樹 先生 の複製

日本の医療の中での在宅医療の位置づけや役割、今後について中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授の真野俊樹先生に解説していただく「連載 かかりつけ医機能と在宅医療」。

第2回目となる今回はかかりつけ医の役割と重要性について解説していただきます。

著者

真野 俊樹 先生

中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授

1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

はじめに

連載の第1回では、広く現在の日本医療のレベル感および問題について考察してきた。在宅医療の役割はかかりつけ医的な部分と救急対応や急性期といった部分に別れると考えられるが、今回はその中のかかりつけの部分を捉えてみよう。連載の一回目においても多少、かかりつけについてふれたが、ここでは、かかりつけ医が持つ患者ケアにおける中心的な役割と、継続的な健康管理におけるその重要性に焦点を当てたい。

かかりつけ医とは

「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」(2013年8月8日日本医師会・四病院団体協議会)(図1)

(図1)

米国でも同じように位置づけられている。例えばクリーブランドクリニックのサイトから紹介すると、
かかりつけ医(Primary Care Physician, PCP)の主な役割は、患者の健康を維持し、病気や他の健康問題を診断し、治療することで、総合診療医として、感染症、慢性疾患のほかさまざまな一般的な健康懸念に対応する。さらに定期的な健康診断を行い、患者の現在の健康状態、医療歴、家族の医療歴、治療の好み、日常の挑戦、性格、ライフスタイルなどを把握している。具体的にはかかりつけ医は、以下のような活動を通じて患者の健康をサポートする:
健康に関するより良い決定を下すための指導、病気の予防に関するアドバイス。
ワクチンの更新を行い、病気の予防。
スクリーニングテストを通じて問題を早期発見(例:乳がんのマンモグラフィ)。
発生した健康問題(例:発疹や感染症)の治療。
長期的な健康問題の管理(例:糖尿病、高血圧、うつ病)。
必要に応じた専門医への紹介。さらに、かかりつけ医は、継続的なケアを提供し、必要に応じてより専門的なケアを必要とする場合には、適切な専門医への紹介を行う。

患者にとってのメリット

かかりつけ医には様々なメリットがある。広く浅く全部の診療科目を診察でき、慢性疾患の場合には「自分をよく知ってもらっている」ということも利点である。医療が生活の近くにあるとも言うことができる。大病院は官僚的になりやすく、したがって、医師が自分の専門の診療科には強いがその他の診療科には関心が低いということが起こりやすい。これは診断の見落としや、患者のたらいまわしにつながるのである。
一方、救急外来にかかるときには自分の過去のデータを持っていることが重要になる。かかりつけ医の医師ではない医師が診察するケースが多いので、過去の検査データ、服用などはまとめておくといい。もしまとめておけなくても、どんな薬剤を飲んでいるのかなど基本的なことが分からないと、医師としても適切な診断を下すことができない。
たとえば、腕が痛い狭心症もある。狭心症は、心臓を栄養する冠状動脈という血管が詰まりかける病気なので非常に危険なのだが、通常の胸の痛みではなく、腕が痛かったりして発症することがある。この場合、糖尿病を患っているとか、ヘビースモーカーであるといった情報があれば、医師も狭心症を思いつく可能性が高くなる。


このような点は、ひとりのかかりつけ医の問題ではないが、海外では医療情報連携が進んでおり、この問題がかなり解決されてきている。

世界のかかりつけ医

様々な世界の国で「かかりつけ医」が、どんな役割を担っているのか、制度化されているのかどうか、どのように扱われているのかを見てみたい。
とはいっても、様々な国を羅列しても、読者の皆さんが飽きてしまうと思うので、混乱しないようにいくつかのポイントを述べておきたい。まずかかりつけ医が制度化されているか否かがある。ここで言う制度化とは住民がかかりつけ医を登録するということである。そして登録に関しては、医師を選択することができるのかどうかが重要になる。

そしてこの登録制と並んで重要なことがかかりつけ医に対する支払いがどのようにとられているかである。 つまり登録料に相当する人頭払いのようなく仕組みが導入されているのかどうかがポイントになる。単なる出来高払いではなく住民を登録し、言葉は必ずしも適切ではないが管理し面倒みていることによる費用が与えられるということになる。
最後にこのような制度がとられていないまでもかかりつけ医の機能の議論がはじまっているか否かということがある。述べてきたように医学の歴史は専門分化の歴史であるのでかかりつけ医の機能が評価されるには何らかの背景が必要になる。その背景が生まれてきているかどうかという点がポイントである。
もちろん日本はまさに今この段階にあるのである。登録制は日本でとられておらず、なじみがないのでもう少し詳しく述べておこう。

日本の教育における学区制のような感じで、あるエリアに住んでいることでかかる医師が決まってしまうタイプがある。医師の側から見れば患者が割り当てられる形になるタイプがある。これは主に、北欧の国とかイギリスでみられるタイプのものである。専門的に言えばゲートキーパーとしてのかかりつけ医の位置づけとなる。ゲートキーパーとは門番という意味であるが、要するにいきなり病院や専門の医師を受診することができない、かかりつけ医が門番のようになっているタイプである。

都会では学区制がある意味崩れてしまい、私立の学校に生徒が流れたごとく、行政が割り振るという考え方に満足できないというのが消費者主権の考え方の中から生まれてきた。日本の例でいえば、介護保険の導入がそうである。

介護保険が導入されることになって、それまで行政が措置という形で入所などのサービス提供を割り当てていたのであるが、顧客である要介護者や要支援者が自らの意思でサービスを選ぶことになったのである。

このことからもわかるように、保険制度には義務だけではなく権利性が強いので、被保険者の意思が重要になる。このような社会保険制度で医療を提供しているのはドイツとかフランスであるが、こういった国ではかかりつけ医制度はあるが、英国や北欧の国のようなゲートキーパー制にはなっていない。住民はかかりつけ医を登録はする。しかし、支払う金額が異なったりするかもしれないがそこに行かねば公的保険で償還されるサービスを受けることができないということにはならない。

実は、国が行う公的な皆保険制度はないが、米国も同じような仕組みであり、ある医療保険に加入している住民は、ゲートキーパーのような医師を選ばねばならない。また別のタイプの保険に加入している住民は登録だけする医師を作る仕組みに加入することができる。この場合には登録していない医師にも受診できるが、もちろん、後者の方が高額である。

こういった先進国の状況を聞くと、ゲートキーパーも何もないのが日本だとの印象が強くなるかもしれない。改めて、各国の状況を見てみよう。

まとめると、デンマーク、英国は厳密な、かかりつけ医制度、フランスやドイツは緩やかな制度、オランダはその中間、米国とシンガポールは異なったタイプで、中国では萌芽さえないという感じになる。

まとめ

今回は、在宅医療の重要な役割であるかかりつけ医の役割について考えてきた。次回は在宅医療との関連について考察したい。

参考文献
1)Primary Care Physician (PCP): Role, Education, Average Salary & Where to Find (clevelandclinic.org)
2)真野俊樹 こんな医者ならかかりたい 最高のかかりつけ医の見つけ方 朝日新書 2015年

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この記事を書いた人

真野 俊樹

中央大学ビジネススクール教授/多摩大学MBA特任教授。1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。 臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

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