在宅の排泄ケアシリーズ|おむつ内スキントラブル!I A D(失禁関連皮膚炎)の「なぜ?」

在宅医療の現場では、排泄ケアが患者さんのQOLを大きく左右する重要なケアのひとつです。しかし、適切なケア方法が分からず、家族や介護者が負担を感じることも少なくありません。
本シリーズでは、排泄ケアの基本から具体的な支援方法、最新の福祉用具やケアの工夫まで、現場で役立つ情報をわかりやすく解説します。在宅医療に関わるすべての方に向けた実践的な内容をお届けします。
今回は東葛クリニック病院 皮膚・排泄ケア認定看護師 浦田克美さんに「失禁関連皮膚炎(IAD)」についてくわしく解説していただきました。
「IAD(失禁関連皮膚炎)」という言葉に馴染みのない方や、褥瘡と同じものとして対応している方も多いかもしれません。しかし、IADは単なる皮膚トラブルではなく、失禁による皮膚の浸軟や化学的刺激が関与する特有の病態です。もちろん、QOLの低下も招きます。
日本における調査では、地域在住の軽尿失禁を有する成人女性のIAD発生率は31.6% という報告もあり1)、寝たきりの高齢者に限定して発生するものではありません。
本記事では、IADの「なぜ?」 に迫りながら、適切な鑑別・予防・管理方法を解説し、臨床でのケアに役立つ知識とヒントを提供します。
なぜIADを発症してしまうのか?
IAD(Incontinence-associated Dermatitis)は、排泄物(尿・便)が皮膚に接触することで生じる皮膚炎を指します。定義として、「尿または便、またはその両方の接触による皮膚炎であり、アレルギー性接触皮膚炎、物理化学皮膚障害、皮膚表在性真菌感染症を含む」2)とされています。
臨床的には、鱗屑を伴う症例の33%に白癬菌が検出された3)との報告もあり、二次感染のリスクが高い病態として注意が必要です。
IADは以下の2つの条件が重なるとリスクが増大します。
1)皮膚のバリア機能の低下
排泄物による皮膚の浸軟が主な要因です。浸軟した皮膚では、角質細胞間の結合が緩み、物理的な耐久性が低下します。「大雨で地盤が緩む」状況をイメージしていただければ、損傷の拡大をイメージできるのではないでしょうか。さらに、細胞の結合が弱いため、その隙間から細菌の侵入を引き起こしやすくなります。
2)排泄物による化学的刺激
皮膚のバリア機能は、皮脂膜(pH 5.0~5.5)による弱酸性の環境で維持されています。一方、便のpHは6.9~7.2と高く、アルカリ性のため皮膚に対して化学的な刺激を与えてしまいます。さらに、水様便では腸液や消化酵素が混入し、刺激性が増大します。尿は初期段階では弱酸性ですが、細菌の作用でアンモニアが生成されるとアルカリ化し刺激性が増します。排泄物が皮膚に付着し時間が経つとピリピリした違和感があるのは、刺激を受けている皮膚からのSOSなのです。
つまり、IADは、排泄物による浸軟とアルカリ刺激が皮膚の防御機能を低下させることで発症します。このため、適切なスキンケアと排泄物管理が重要となるのです。
なぜIADと褥瘡を鑑別するのか?
IAD(失禁関連皮膚炎)と褥瘡は、いずれもおむつ内皮膚に発生し、症状が似ているため混同されやすい疾患です。しかし、それぞれ原因と治療アプローチが異なるため、適切に鑑別することが治癒への近道となります。鑑別ができないと、治療が遅れるだけでなく、再発を繰り返すリスクがあります。
1)鑑別のポイント
①好発部位
IAD:排泄物が接触しやすい陰部、陰嚢後面、肛門周囲、両鼠径部、おむつギャザー部分。
褥瘡:圧迫や摩擦・ずれが集中する尾骨部、仙骨部、坐骨結節部。
②健常皮膚との境界
IAD:境界が不明瞭で段差がなく、真皮レベルのびらんや潰瘍。白色の鱗屑。
褥瘡:健常皮膚との境界が明瞭で、ポケット形成や皮下組織まで進展する深い損傷。
③病変の原因
IAD:排泄物による皮膚の浸軟や化学的刺激。
褥瘡:持続的な圧迫、摩擦、ずれ。
2)鑑別の重要性
IADと褥瘡では、原因に応じたケアが治療の鍵です。IADでは失禁ケアを中心とした皮膚バリアの維持が重要で、褥瘡では圧迫の軽減と体圧分散が求められます。発見時にこれらを鑑別し、適切なケアを行うことで、治癒までの時間を短縮し、再発を防ぐことができます。
なぜ洗浄剤の使用は1〜2回/日が推奨されるのか?
IAD(失禁関連皮膚炎)の予防には、適切なスキンケアが重要です。特に洗浄剤の使用に関して、頻回の使用や過剰な摩擦は、皮膚のバリア機能を損傷し、予防どころか悪化を招く可能性があります。
おむつ内の皮膚を清潔に保つケアは、IADの予防に繋がります。とはいえ、こびり付いた便のゴシゴシ洗いや、洗浄剤を頻回に使用するのは、間違った清潔ケアです。
ここからは、IAD予防のために重要な「スキンケア」に焦点を当てて述べていきます。
スキンケアの基本は、洗浄、保湿・保護です。
1)洗浄
弱酸性の泡洗浄剤で1回/日擦らずに洗いましょう。
おむつ内の皮膚は、“微温湯と洗浄剤を使用することでIAD保有者が存在する確率が優位に減少する4)”は、一般常識になってきました。しかし、弱酸性の泡洗浄剤でもゴシゴシ擦ったり、頻回に使用することで、バリア機能が低下してしまいます。洗浄剤の界面活性剤の洗浄力で、皮脂の脂成分が溶けてしまいます。
自身の洗顔後に顔の皮膚が突っ張った状態を経験したことがあるでしょうか?その後、保湿剤を付けなくても、肌のツッパリ感がなくなるのは、徐々に皮脂膜が再生されている証拠です。
一方で、特に高齢者や寝たきりの方は、代謝が低下しているため皮脂膜の再生は遅くなります。洗浄剤の使用は1回/日程度にとどめ、微温湯のみで洗い流すようにしましょう。
さらに、ケア提供者の洗浄技術も重要です。皮膚にこびり付いた便を取り除くためにゴシゴシと擦っていませんか?
摩擦刺激で発赤やびらんを生じてしまっては意味がありません。オリーブオイルやベビーオイルなどでクレンジングした後、洗浄剤を使用するとスムーズに優しく除去できます。皮膚に優しい商品を使用しても、ゴシゴシと擦ってしまったら本末転倒です。
2)保湿・保護
撥水皮膜効果の高いスキンケア商品を選びおむつ交換ごとに塗りましょう。
皮膚のバリア機能を維持するためには、角質層に適切な水分が保持されていることが重要です。角質水分量が多すぎる浸軟や少なすぎる乾燥肌ではバリア機能は発揮されません。適切な水分量を保持しつつも、浸軟予防のため撥水を目的とした保湿・保護剤は必需品です。
保護剤は多種類販売されており、ワセリンの濃度が高いほど、おむつへ付着し、吸収率を9.8%まで低下させる5)との報告もあります。おむつ内の失禁量が多い方は成分にも配慮し、非アルコール性の皮膚保護剤を頻回に塗布することをお勧めします。最も手に入れやすい市販商品としては、“サニーナ”(花王(株))があります。
これらをおむつ交換ごとに塗ると、皮膚の上に防水シートをまとったように排泄物から皮膚を守り、便のこびり付きも予防できます。
まとめ
今回は、おむつ内スキントラブル!IAD(失禁関連皮膚炎)の「なぜ?」について解説しました。
IADは、排泄物の接触によって発生する皮膚炎であり、おむつかぶれや表在性真菌感染症を包括します。一方で、褥瘡は圧迫や摩擦・ずれが原因で発生するため、原因に基づいたケアを行うことが治癒への近道です。これを誤ると再発を繰り返し、患者のQOL低下に繋がる可能性があります。
また、日常的に行っているスキンケア方法についても、洗浄頻度や技術を見直すことで、IADの予防効果が向上します。
本記事が、臨床現場でのケア改善の一助となれば幸いです。
引用参考文献:
1)Takesashi M. Association between incontinence-associated dermatitis and reduced quality of life in community-dwelling adult women with light urinary incontinence. 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌. 2024;28(1):79-93.
2)一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会. IADベストプラクティス. 照林社; 2019:6.
3)倉繁祐太. 症例検討: 失禁関連皮膚炎患者における白癬菌の検出率と白癬併発例に対する治療経過. 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌. 2020;24(3):334-337.
4)市川佳映. 介護療養型医療施設におけるIADの有病率及び看護ケア、組織体制との関連. 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌. 2015;19(3):319-326.
5)Zehrer CL, Newman DK, Grove GL, Lutz JB. Assessment of diaper-clogging potential of petrolatum moisture barriers. Ostomy Wound Manage. 2005;51(12):54-58.