セミナーレポート

福祉と建築

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福祉と建築 医王寺会 大谷匠

医療福祉事業者が良いケアを行う際の建築の重要性や福祉事業者と建築家の協業の必要性について、事例などを踏まえながらお話しします。

※こちらの記事は在宅医療従事者のための動画プラットフォーム「peer study 在宅医療カレッジ」のプレミアムセミナーの内容の一部を公開したものです。

講師

医療法人医王寺会 地域未来企画室 室長
任意団体福祉と建築 代表  

大谷 匠

チャプター

  • ケアとは
  • 施設空間の影響
  • 建築がケアを支えるとは
  • 住む
  • 開く
  • 福祉と建築 -知る・つながる・やってみる-
  • 事例「かがやきロッジ / かがやきキャンプ」
  • 事例「Good Job!Center KASHIBA」
  • 事例「にちこれ(日日是好日)」

ケアとは

福祉と建築を考える前に、まずケアとは何かということを考えていきます。
そもそも福祉施設というのはケアを行う場なので、その「ケアを行う」というのがどういうことかを理解しないと、 実際に福祉施設を建てる際にどのような空間が必要なのかが分からないと思います。

ケアというのは、人間を対象にした職業です。
いいケアやいい介護を語る上で、生活や個別性について語られることがよくあります。
たとえば、〇〇さんはこういうのが好きだからこういう風にしよう、ということですね。

また、介護やケアというのは非常に形容詞で語られがちなものでもあります。
介護って温かいよね、優しいよね、という言葉が使われがちなのですが、それはあくまでも人間の一側面を見ているに過ぎません。
では私たちが対象としてる人間というものにはどのような側面があるかというと、1つは生物体としての人間、もう1つが生活体としての人間です。

ケアの対象

皆さんに、昨日や一昨日お風呂に入った人、と訊くと、大半の人がイエスと言うと思います。ですが、まずは頭をパンテーンで洗って、その次に体はダヴで洗って、入浴せずにシャワーで流して上がるという人はどれくらいいるでしょうか。 たぶん私だけ、いたとしてももう1人ぐらいだと思います。

今の話から分かるのは、入浴する、皮膚を清潔にするということは、ほぼすべての人間に共通していることである一方、使うシャンプーやボディソープ、洗う順番、お風呂の温度などは、かなり個別性があるということです。
介護の現場はこの個別性に寄り添うことは非常に得意なのですが、そもそも人間がなぜ皮膚を清潔にしなければならないのかということに関しては、あまり語られることがありません。
ケアとは何かということを語る上で、今回は個別性の観点ではなく、共通性を持っている生物体としての人間についてお話しをしていきます。

たとえば、 発熱をしている高齢者に水分補給をしてもらうとき、どのようなものが良いケアと言えるのでしょうか。
アクエリアスがいい、ポカリスエットがいい、というような話になることが多いのですが、それは非常に個別性の高い話です。
人間にとって何がいいのかを考えるときには、そもそも人間が水分を取り込む原理原則というのを理解しておかなければいけません。

まず、細胞内と細胞外の浸透圧は同じであるという大原則があります。
一定の電解質を含む水は人間にとって吸収しやすいので、アクエリアスやポカリスエットがいいという話になるのです。
またH2Oを急速に吸収させるという行為を点滴で再現するには、 殺菌し精製された水を点滴すれば良いのですが、これは禁忌であるとされています。
なぜかというと、浸透圧が同じであるという原理があることから、血管に水を直接入れてしまうことは良くないためです。
また水分補給においては、電解質と温度が重要になります。
つまり、皆さんが訪問診療などで水分補給をしてもらうとき、なんとなくスポーツドリンクがいいんだという認識だけでは良い介護はできないのです。

この原理原則を理解していれば、たとえば高齢者の方がスポーツドリンクを好まないときや家にスポーツドリンクがないときも、水を飲んでもらった上で梅干しを一口かじってもらう、 梅こぶ茶を飲んでもらうということが考えられるようになり、ケアの手数、その人の個別性に寄り添ったケアの幅を広げることができます。 

改めてケアとは何かについて、ナイチンゲールさんの話を引用しながら考えていきましょう。
「看護がなすべきこと、それは、自然が患者に働きかける最もいい状態に患者を置くことである」
「ケアとは、新鮮な空気、良好、温かさ、清潔さ、静けさを適切に整え、 これらを活かして用いること。また、食事の内容を適切に選択し、適切に 与えること。こういったことの全てを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えることを意味すべきである」
これはどういうことなのか、発熱した人へのケアという視点で説明していきます。

これは発熱の仕組みを表した図です。

発熱の仕組みを表した図

37度5分以上の人にはクーリングを行う、などと決まっている施設がよくありますが、果たしてそのケアは正しいのでしょうか。
人はなぜ発熱をするかというと、菌やウイルスが体内に入ってきたときに白血球の活動を高めるためです。
体内に菌が入ってくると、まずセットポイント(点線)が先に上がっていきます。セットポイントとは、体温をここまで上げてくださいという指令です。

この図では、時間経過とともに39度5分あたりの点線が伸びています。
それに伴い実際の体温(実線)も上がっていき、菌やウイルスを実際に倒すことができた後は最初にセットポイントが下がり、その後実際の体温が下がっていきます。 

ここで重要なのは、37度5分や38度になったらクーリングするという対処がどういうことかということです。
38度の部分から横線を引いていくと、体温が上がり始めの38度と、下がり始めの38度の2点の実線と交わります。 

この2点においてクーリングをするということが正しいのかどうか。

それは、実際にこの2点において体がどのような状態になってるのかを考えることで分かってきます。

まず上がっていくときの38度では、セットポイントが39度5分であるのに対し実際の体温は37度なので、体は寒いと感じます。 

寒いと感じると身体はどうなるかというと、震えや血管収縮、顔面蒼白が起こります。

下がっていくときの38度では、セットポイントが37度であるのに対し実際は39度5分あるので、今度は暑いと感じます。そのときは身体では体温を下げるための発汗、血管拡張、顔面紅潮が起こります。

そのため体温が38度のときにクーリングをすると、それが上がり始めの38度であった場合はさらに寒いと感じさせてしまうことになり、それが生命力の消耗につながるのです。

回復しようとする過程

体温の上昇や下降は、身体が菌を倒して回復しようとする過程です。

その過程での体温の上昇に対し、私たちは必要に応じて温める、またはクーリングするといった、生体の原理原則に従ってケアをしてあげることが非常に重要であり、それが生命力の消耗を最小に整えるということになります。

人間の心と体には回復しようという力があります。 

その回復力、生命力が最大に発揮できるような状態に生活を整えること、また回復力、生命力の消耗を最小にするような状態に生活を整えること、それが良いケアであるということです。 

故に良い介護の実現のためには、人間の心と体の仕組み、生理学、解剖学を理解していなければなりません。

続きは peer study 在宅医療カレッジ へ

この記事を書いた人

在宅医療カレッジ編集部

在宅医療に関わる方・これから始めたい方を応援する在宅医療の情報プラットフォーム「在宅医療カレッジ」編集部です。 「学ぶ」「働く」「役立つ」をテーマに在宅医療に関するあらゆる最新情報を配信しています。

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