在宅医療のコミュニケーション技法
- #在宅医療全般
在宅医療の需要はますます増加しておりますが、国内の医学教育では在宅医療に関する定まったカリキュラムはなく、各自が個別のケアを実施している状況です。
本セミナーでは、在宅医療で実施すべきコミュニケーションに関して実践的なアプローチを共有します。
※こちらの記事は在宅医療従事者のための動画プラットフォーム「peer study 在宅医療カレッジ」のプレミアムセミナーの内容の一部を公開したものです。
講師
医療法人おひさま会 CHRO
荒 隆紀
チャプター
- なぜ個別のコミュニケーションが必要なのか
- BPSモデルと患者中心の医療の技法とは?
- 困りやすいコミュニケーションケース
なぜ個別のコミュニケーションが必要なのか
みなさん、診療の現場に出ていますと、患者さんあるいはご家族さんとのコミュニケーションで困ったことはないでしょうか?
例えば患者さんから「前回の診察が不満だ」「主治医を替えてほしい」と言われたり、一方でみなさん自身が患者さんやご家族さんとお話ししていて「この患者さん苦手だな」「わかりにくいな」「コミュニケーションどうやって取ったらいいのだろう」と悩むことが結構あるのではないでしょうか。
今回はコミュニケーションでどういったことを学んでいけばいいのか、またコミュニケーションで実際に困るケースを流れとして見ていきたいと思います。
在宅医療は患者さんの生活に入って行って、生活の中で診療をしていくわけですから非常に個別性が高いんですね。
では「個別的なコミュニケーションとは一体何なのか」「どういうことが必要なのか」を最初に押さえてから、患者さんとのコミュニケーションの技法として家庭医療全般でいわれている「患者中心の医療」というものの技法を押さえていきたいと思います。
最後に、比較的よくあるコミュニケーションで困るケースを実際のケースを見ながらみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
では最初は「個別のコミュニケーションとは一体何か」ということです。
WHOが2008年に「これからは患者さんのケアも個別化に基づいた個別ケアが必要だ」という声明を出しました。振り返ってみれば、我々が使っているAmazonのようなリコメンド機能ってありますよね、こうしたそれぞれの人に適応したサービスというのは医療以外もなおのこと、医療でもこれからは個別ケアが非常に大事だと言われています。
しかし「個別ケアって一体何なのか」と言われると、はたと言葉が詰まるとことがあります。たしかに大事なのはわかる、では何が大事でどのようにすればいいのか、悩みながらやっているというのが実情ではないでしょうか。
ここである患者さんに二人登場していただきます。この患者さんについて個別ケアを深めていきたいと思います。
最初の患者さんは45歳女性Aさんです。
新型コロナが流行する前の話で、外来に来られたシーンです。
主訴は微熱と頭痛。特に大きな病気もなく健康に暮らしていた方です。
この方が3日前から微熱・咳・鼻水で外来に来られました。
この方を診察してみると喉が赤いだけで特段リンパ節も腫れていないし肺の音も悪くないし、臨床的には、感冒に矛盾なしということで担当した先生は対処療法として一般的な薬剤を処方して「3~4日でよくならなかったらまた来てくださいね」とお伝えして診察を終了しました。
Aさんは何か言い淀むような雰囲気がありつつも診察室を後にしました。
次の患者さんは48歳男性Bさんです。
Aさんと全く同じ主訴です。今まで大きな病気もありません。担当した先生はAさんと同じような対応をしました。
Bさんは診察終了後、どうも納得がいかなそうな感じで仕方ないなといった様子で診察室を後にしました。
もし仮にこの二人の患者さんに最後「何か言い忘れや伝え忘れはありませんか?」と聞いていたら実際はどうだったか。
お二人はこのように話されました。
このように医学的にはシンプルな「風邪」であっても、患者さんが抱えている背景や取るべき対応は千差万別であるということがこのケースからわかるのではないでしょうか。
このケースについて例えばこんなお返しをしてみるのはどうでしょうか。