プライマリ・ケアにおけるケア移行
- #地域連携
- #在宅医療全般
本レクチャーは、包括的ケアを継続的に提供する家庭医療診療所の視点からみたケア移行に関する諸問題について概説します。
総合的な視点で患者ケアを提供することを目指すすべての医療者、ケアプロバイダーを対象とします。
※こちらの記事は在宅医療従事者のための動画プラットフォーム「peer study 在宅医療カレッジ」のプレミアムセミナーの内容の一部を公開したものです。
講師
健生会 大福診療所 所長
FDMIなら総合診療/家庭医療レジデンシープログラム プログラム責任者
朝倉 健太郎
チャプター
- プライマリ・ケアの現場において
- Patient journey
- ケア移行を考える
- ケア移行:診療所から病院
- ケア移行:病院から在宅
- ケア移行がスムーズに行われていくための視点
- 療養場所に関する希望とその変化
- ACPに継続的に取り組む
- プライマリ・ケアにおける家庭医/総合診療医の役割
プライマリ・ケアの現場において
まずはプライマリ・ケアにおける現場の諸問題から始めたいと思います。
昨今の日本は超高齢社会となり高齢化率は28%超、2070年には39%が高齢者になります。
1億2000万人の人口がその頃には9000万人にまで減ると言われてます。
その中で高齢者はどのような状況かというと、非常に安定性の乏しい状態で生活していたり、
マルチモビディティという、その人自身もさまざまな複雑な問題を抱えた状態で生活していたりします。
またケアに関しては、いろいろな医療機関にかかる中でケアがどんどん断片化していってしまったり、ポリファーマシーのような問題を抱えたりしている現状があります。
私たちはこのような状況の中で医療をやっているので、
皆さんも普段からいろいろな問題を感じたり、モヤモヤする思いがたくさんあるのではないかと思います。
そのような状況を生み出しているあるいは加速させている問題として、
医療の高度化や細分化、家族の分散による人間関係の希薄化や核家族化というような状況が日本の津々浦々で見られると思います。
さらに、今まで医療はいろいろなことの中でも一番優先されるべき、あるいは医師が言うことに関しては皆さん納得して聞いてくれた状況だったかもしれませんが、
この時代は医療神話の崩壊が起こり、なかなかそのようにはいかなくなっています。
さまざまな価値観やダイバーシティが受け入れられるようになり、
社会全体としては幅広い社会になりつつありますが、いろんな価値観が受け入れられるようになると、それぞれがそれぞれの価値観を持つ中で医療を考えていくようになり、なかなか取りまとめが難しい状況になるかもしれません。
いろいろなガイドラインやクリティカルパスがあると思いますが、少なくともそういったもので問題が解決できるような状況ではなくなっているというのが現状です。
また、経済格差がそのまま健康格差に繋がっている状況も見られるというのも、昨今の問題の一つではないでしょうか。
医療や介護に対する期待だけがどんどん上がっていき、一方では問題が非常に複雑化していく状況があるため、こういう中で医療や介護を提供する我々の抱える問題というのは非常に大きくなっていくでしょう。
少なくとも、一つの医療機関問題を解決できるというのは非常に難しい話になっており、その地域におけるさまざまな医療機関や介護施設と上手く連携することにより医療や介護を提供していくことが必要になります。
たとえば5歳児が肺炎になった場合、発症から病気が治っていくまでの間というのはシンプルな過程を経ていきます。
発熱と咳があり、レントゲンを撮って肺炎と診断がついたとしても、治療をすればだんだん治っていって問題なく退院できるという一連の流れがあります。原因をはっきり定め、その原因に対してアプローチをし、病気が治り、めでたしめでたしで帰って行くというこの一連の流れが私たちが医療に求める形だと思います。
一方で、認知症の患者さんを考えたときにどのような問題があるかというと、この認知症のスパン自体が、そもそも10年、あるいは10数年の経過になっています。
初めは短期記憶の問題だったのが、実行力がなくなっていき、生活にさまざまな影響が出るようになり、いろんな見守りや支援が必要な状況になり、ますます問題が複雑になっていきます。
仮に認知症という診断がついたとしても、その認知症を解決するために何か手を打てば治る、薬を飲めば治るというものではないということは、皆さん日々感じていることだと思います。
どんどん問題が複雑化し、いろいろな人が巻き込まれ、家族が大変になっていく中で、本人も徐々に体が動かなくなり、最終的には食べれなくなり亡くなっていくというプロセスを踏みますが、その中で医療者あるいは介護者は、さまざまな方向から問題を少しでも安定化させるように解決していかなければなりません。
そうなると、先ほどお話した5歳児の肺炎の話と高齢者の認知症の経過というのはまったく違ったものになっていくと思います。
今のプライマリ・ケアでは、このような問題が認知症に限らず本当にたくさんあり、そこにどういった形でアプローチしていけばいいかということを、それぞれ悩みながら日々の臨床と向き合っているのではないかなと思います。