「かかりつけ医機能報告制度」から見た外来クリニックの経営戦略|株式会社WorkShift 代表取締役 高木 綾一氏
- #在宅医療全般
2025年に始まった「かかりつけ医機能報告制度」は、単なる新たな報告義務ではありません。この制度は、外来クリニックに対して地域の中で自院がどの役割を担うのかを明確に示すことを求めています。
背景には、高齢化の進行と2040年を見据えた医療提供体制の再設計があります。外来医療はこれまで「治す医療」を中心に発展してきましたが、制度が示す方向性は、通院が困難になった後も含めて患者を支え続ける医療への転換です。
本稿では、かかりつけ医機能報告制度の概要と制度の狙いを整理しながら、外来クリニックが「治す医療」と「支える医療」をどう組み合わせ、生き残っていくべきかを高木綾一氏が解説します。
株式会社WorkShift 代表取締役
高木 綾一 氏
理学療法士、学術修士(大阪教育大学大学院修了)、MBA(関西学院大学大学院修了)。認定理学療法士(管理・運営)、3学会合同呼吸療法認定士、国家資格キャリアコンサルタント。医療法人寿山会で法人本部長を経験後、2014年に株式会社WorkShiftを設立し代表取締役。臨床現場の実務感と経営・人材育成をつなぐ「実装力」を強みに、リハビリテーション技術・マネジメント研修、医療機関・介護事業所の経営コンサルティングを行う。
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(1)かかりつけ医機能報告制度とは何か
かかりつけ医機能報告制度は、医療機関が自院の「かかりつけ医機能」を都道府県へ報告し、公表と地域協議につなげる仕組みです。2025年4月に制度が施行され、医療機関の初回報告は制度整備期間を経た2026年1〜3月が想定されています。
報告対象は原則として病院・診療所(特定機能病院や歯科医療機関等を除く)で、報告・院内掲示・患者説明までが一体で求められます。報告は医療機関等情報支援システム(G-MIS)等のシステムを通じて行い、都道府県は内容を整理して公表します。各医療機関から報告された内容は2026年よりそれぞれの地域にて協議され、地域にとって必要な「かかりつけ医機能」の確保に努めていく予定です。
各医療機関は、患者から求めがあった場合、自院が報告した「かかりつけ医機能」の内容について、おおむね4か月以上の継続的な医療提供が見込まれるケースで説明する必要があります。また、報告した内容の一定部分は院内掲示が必要で、様式を出力して掲示できる仕組みも用意されています1)。
報告の核は二層構造となっています。
第一は慢性疾患を有する高齢者など「継続的な医療を要する人」に対し、対応可能な17診療領域(表1)や保健指導を総合的かつ継続的に行う体制の有無です。さらに、かかりつけ医機能に関する研修の修了、総合診療専門医の有無も報告することになっています。
第二は必要に応じて地域の医療・介護と連携しながら支える体制で、①通常の診療時間外の診療、②入退院時の支援、③在宅医療の提供、④介護サービス等と連携した医療提供の有無となります。
つまり、「どの診療領域・疾患群を日常的に診られるか」「相談に応じられるか」といった対応力も整理され、住民が様々な医療機関と機能の違いを把握し選択できるものとなります。

この制度は、すでに医療機関が定期報告している医療機能情報提供制度にかかりつけ医機能を付加するものです。したがって、単なる制度上の届出ではなく、掲示や説明を通じて「患者さんに伝わる形」に落とし込むことが重要であり、外来医療の役割分担を前に進めるための制度設計だと考えるべきです。また、経営・マーケティングの観点では、これは「自院の提供価値の言語化」を制度が後押しする制度と言えます。自院が担う機能を整理し、院内掲示や説明を通じて示すことは、患者・家族、病院、介護事業者から「頼れる存在」として想起される確率を上げます。
また、この制度では、総合診療専門医の有無を報告します。総合診療専門医が関わることで外来機能だけでなく、医療連携・災害・感染症・在宅まで地域を面で支える体制づくりを促す狙いがあると言えます。これは大変画期的であり、専門医主軸の医療機関だけでは担いにくい領域を、総合診療医と共に設計し実装していく流れが予想されます。
さらに国は、2040年頃を見据えた新たな地域医療構想を掲げ、病床だけでなく入院・外来・在宅、介護連携まで含む医療提供体制全体を再設計する方向を明確にしています2)。その中で、地域協議には市町村の関与を強め、在宅・介護連携を議題として扱うことも示されました。同時に、医師偏在の是正や医療DXの推進(情報連携の標準化、電子処方箋・オンライン資格確認等の基盤整備)を、提供体制改革の「土台」として進める姿勢が示されています。
かかりつけ医機能報告制度は、この大きな流れの外来・在宅側のインフラの可視化と位置づけられ、高齢者救急や在宅医療等連携機能の役割の強化がさらに進みます。
(2)外来医療は「治す医療」から「支える医療」へ
直視すべき現実は、医療的に中重度の人ほど外来に来ない(来られない)ということです。通院できているのは、本人の体力や家族の支援がまだ機能している層であり、病状進行や介護負担の増大で通院は困難となります。外来で患者を待つモデルでは、最も医療が必要な中重度層ほど診療所から離れていきます。その結果、患者が離れることで機会損失が生じ、売上が削られます。通院不能になった瞬間に関係が切れ、診療・検査・指導・処方の機会が途切れます。これが積み重なると、外来数の減少として表面化します。新患獲得コストが高くなる中で既存患者が離れるのは経営的に非常に厳しい出来事です。というのも、今後は人口減少や物価上昇により「患者の絶対数の低下」や「軽症の場合における様子見」が生じ、新患そのものが増えにくくなるため、新患獲得が難しくなるからです。
外来患者が減る時代、競争力の鍵は「治す」だけでなく、重症化後も生活を見守り、急変を防ぎ、薬・栄養・フレイル等まで支える医療を備えることです。その具現化として、先述した「かかりつけ医機能報告制度」が実施され、地域で継続的に支える体制づくりを後押ししています。この制度をクリニックの負担増と捉えるより、自院の提供価値を見える化し、在宅・介護との連携を強め、収益源を分散するチャンスとして前向きに活用するべきです。活用により外来・在宅の継続的な関わりが実現し、患者の救急受診や入退院の反復を減らして、経営の安定につながります。外来診療だけに収益を依存すると、機会損失が大きいため、外来と在宅医療の両方に収益源を分散し、リスクを下げることが重要です。
今後の外来の競争力は、「治す医療」だけでなく「支える医療」も提供できるかで決まります。言い換えれば、治すと支える医療の役割を明示できる外来こそが、患者に選ばれ続ける外来の一つの形となります。
(3)外来クリニックに突きつけられる役割の明確化
既に外来には機能分化の圧力が高まっています。2022年に施行された外来機能報告を基に、手術・化学療法・放射線治療などの医療資源を重点的に活用する外来を担う「紹介受診重点医療機関」を地域で明確化し、患者の流れを円滑化する仕組みが進みつつあります。ただし、現状では、求められる体制や医療資源の観点から、クリニックが「紹介受診重点医療機関」の要件を満たすことは容易ではありません。
しかし、だからといって外来が従来のように不明確な役割のまま診療を続けることは不適切です。外来は今後、地域の中で担う役割や専門性が整理・可視化され、紹介・逆紹介を含む連携の形がより明確になる方向へ確実に進んでいくと考えられます。この局面で外来が生き残るためのフレームワークを説明します(図1)。
- 専門外来で治す医療を強化:疾患・症状ごとの強みを明確にし、患者の自己選択だけでなく紹介も集める。
- 慢性期疾患の対応と在宅医療で支える医療を強化:慢性期疾患に対応しながら、通院困難者に対しては訪問診療・訪問看護・訪問リハビリによる継続支援を行う。
- 治す医療と支える医療をバランスよく備えるハイブリッド:専門外来で「治す」を磨きつつ、在宅医療で「支える」を接続し、患者の状態変化に合わせて外来・在宅を切れ目なく行き来できる体制をつくる。
- 治す・支えるとも不十分な医療で、患者や地域から選ばれない役割不明:患者に価値が伝わらず選ばれにくく、将来の機会損失が大きい。

(4)診療報酬改定やかかりつけ医登録制度等の制度は規制ではなく外部環境変化と捉える
制度改定は、医療機関を縛る鎖ではなく、国が望む医療提供体制という環境変化です。国が外来に期待しているのは、診察室で完結する医療だけではなく、地域の入口として、在宅や介護につなぐハブ機能を担うことです。このとき在宅医療を「別事業」と捉えると失速します。在宅は外来の延長線上のサービス設計です。通院が難しくなった患者を途切れさせずに診続ける。ケアマネジャーや介護事業者と連携し、生活課題を医療と一緒に整える。こうした関わりが、地域の信頼を積み上げ、紹介の循環を生みます。報告制度は、その連携力を見える形に整えるためのツールと言えるでしょう。
さらに長期のマーケティングの視点が不可欠です。短期の外来数や当月の売上だけを追う近視眼的な運営では、人口構造と制度の流れに押し流されます。一方で、①かかりつけ医機能を明確にした上で患者や地域への説明、②連携(病院・訪問看護・訪問リハビリ・介護)を前提とした在宅医療の展開、③医療DXを使った情報共有と業務の標準化を積み上げるほど、数年単位で地域からの信頼が向上し紹介が強くなります。このように広告で作る集客ではなく、地域から選ばれ続ける仕組みが必要です。
■参考文献
1)厚生労働省.かかりつけ医機能報告制度.厚生労働省ホームページ,
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123022_00007.html
(2026年1月4日閲覧)
2)厚生労働省 医政局.「医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告)」『第122回社会保障審議会医療部会 資料4』令和7年12月8日.









