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連載 かかりつけ医機能と在宅医療⑤|中央大学ビジネススクール教授・多摩大学MBA特任教授|真野 俊樹 先生

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連載 かかりつけ医機能と在宅医療⑤|中央大学ビジネススクール教授・多摩大学MBA特任教授|真野 俊樹 先生

日本の医療の中での在宅医療の位置づけや役割、今後について中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授の真野俊樹先生に解説していただく「連載 かかりつけ医機能と在宅医療」。

第5回目となる今回は地域の中での在宅医療と在宅医療の今後について解説していただきます。

著者

真野 俊樹 先生

中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授

1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

地域包括ケア

平成26年度の診療報酬改定においても200床以下の病院ではかかりつけ医機能を持つことが可能である。在宅医療がかかりつけ医機能の重要な1部分であるわけであるから、病院がこの分野に積極的に進出していくことが望ましい姿であるし、さらに言えば地域包括ケアという形で、介護も取りこんだ形での参入がより望ましいと言えるであろう。
地域包括ケアとはなんであろうか? これもかかりつけ医と並んで、超高齢社会日本をささえようとする厚生労働省の大きな戦略のひとつになる。このシステム構築の目標は、「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」という点である。
実はこの考え方は、介護保険の延長にあった。2000年に介護保険法が施工されたときから、医療と介護は切り分けられ、急性期のキュアは医療、介護は「自立した日常生活の支援のための施策を、医療及び居住に関する施策との有機的な連携を図りつつ包括的に推進する」(介護保険法 第5条第3項)とされたのである。
しかし、本書でも述べてきたように、一人の患者にとって医療と介護は切り分けられるものではなく、さらに高齢化によって介護を受ける原因である医療そのものへの対応が重要になった。認知症などがその例であるが、介護も必要であるが医療も必要なのである。実際、オランダのような高齢化先進国でも医療保健と介護保険は切り分けられておらず、長期の医療保険の中に介護の部分が包含されているのが現状である。
医療と介護の連携と誰かによるコーデネートが必須で、言い換えればチーム医療の拡大版ともいえる。医療の場合には供給者がカギになる。ここでもカギになるのはかかりつけ医である。かかりつけ医が地域包括ケアのかなめとして、介護も含めた全体をコーデネートしなければならない。そこまで理解すると、冒頭に述べたスーパーマン的なかかりつけ医の役割がなぜ出てきたのかを理解することができるであろう。もちろん一人のかかりつけ医でこれができるとも限らない、その意味でグループ診療も含め、かかりつけ医の携帯も変わっていく必要があろう。
また、かかりつけ医は、機能であったり役割であったりするのであるから、またさまざまなチーム医療のかなめなのであるから、かかりつけ医が病院にいたとしてもまったくおかしくないのである。

医療介護の連携のむずかしさ

もう一つの問題点は医療と介護の連携の難しさである。日本は2000年に介護保険制度施行以来、医療から介護に財源およびサービスのシフトが起きた。しかし問題は1人の患者が医療サービスと介護サービスを同時に必要とするという点である。特に後期高齢者が増加し、医療必要度が高い要介護患者が増えている点が問題である。教育年限から想像されるように、医療者と介護者の知識は同じではない。医療者にとっては介護および生活を支えるという視点や教育が介護者にとっては医療の知識が不足していると考えられる。
ただ医療必要度の高い要介護者が増えているという点からすると、介護者に医療の知識が必要であるということの方が大きな問題になる。実際に、福祉先進国とされる北欧諸国においても、施設(施設と呼ぶかは別にして)においても、看護師の役割が増大している。
 もちろんこれは介護者の役割を否定しているものではない。日本が、スエーデンなどの福祉先進国と違う点は、公的介護の薄さである。要介護者にとっては、生活をいかに支えてもらうかが重要になる。特に日本のように人口減少に伴い労働力不足が顕在化してくる国にとっては、ある程度の介護が必要な人であっても、何らかの職に就くことが必要になる可能性もある。また身近な人の介護のために仕事をやめたり休んだりすることが必要な若い人が増えることも、国の生産性の視点からは問題になる。

医師側の問題

医師側の問題もある。かつて医師は聖職と呼ばれ、我々が時期では医師を労働者と思っていた人は少なかった。 今では過重労働とされるような労働条件も、労働者ではないのだから当然、患者のために医師はいるという価値観であったと思われる。ただ、患者のためであれば何でもしていいという価値観はバター ナリズムに繋がり、他職種との連携を阻害していたと思うので、必ずしもいいことばかりではなかったが、医師の診療科の偏在という点では悪くなかった部分もあると思われる。
 すなわち内科や外科のように多くの人材を必要とし、かつ研修や勤務がハードな診療科が聖職としての観点では優先順位が高くなり、多くの若手医師が内科外科などを選んでいた。
 しかし 働き方改革により、医師が労働者であるということが明確化されるのに伴い状況は変わった。もちろん、それ以前から若手医師の感覚がある意味正常化してきており、 自らの QOL を患者救済より大事にするといった価値観になってきていたので、医師の働き方改革も若い人は好まれて受け入れられた。
問題はそれによる医師の偏在でどうしてもQOLがいい診療科に若い医師が固まってしまうようになる。

引用:https://www.jmari.med.or.jp/wp-content/uploads/2022/05/RR126.pdf

なぜこのようなことを在宅医療をテーマにした原稿でつらつら述べているのかというと、在宅医療に対しても、決してQOL が高い診療科ではないが若くて稼げるという俗説があり、若い医師が続々と在宅医療に乗り出した時期があったからである。しかし 時代は変わり、産業医とか美容整形といった診療科が QOL がよくさらに稼ぐこともできるという観点で選ばれるようになってきてしまった。
一方では、いわゆる通常の開業医は、診療報酬改定により人気が落ちている。

まとめ

しかし、在宅医療をかかりつけ医の機能として規定すれば、状況はかなり変わるのではないだろうか。もちろんこれは2方向である。つまり、旧来の地域の開業医はもちろん、上述したような病院の医師もかかりつけ医になれば在宅医療を行ってもいいのではないか。逆に、在宅医療を専門的に行っている医師がかかりつけ医になることを否定する話ではない。在宅医療の医師は定期的の患者宅を訪問しているのだから、かかりつけ医足りえる。また、もともと地域医療に関心が高い医師が多いし、もともと訪問介護などと連携している場合が多いので、上述した連携の問題も少ないであろう。
こういった、形に前回述べたような先端技術が使われることで、地域医療、ひいては地域包括ケアも変貌していくのではないだろうか。

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この記事を書いた人

真野 俊樹

中央大学ビジネススクール教授/多摩大学MBA特任教授。1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。 臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

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