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連載 かかりつけ医機能と在宅医療③|中央大学ビジネススクール教授・多摩大学MBA特任教授|真野 俊樹 先生

  • #在宅医療全般
かかりつけ医機能と在宅医療 第3回かかりつけ医とこれからの在宅医療 中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授 真野俊樹

日本の医療の中での在宅医療の位置づけや役割、今後について中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授の真野俊樹先生に解説していただく「連載 かかりつけ医機能と在宅医療」。

第3回目となる今回はかかりつけ医の役割と在宅医療との関係や主治医の考え方について解説していただきます。

著者

真野 俊樹 先生

中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授

1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

はじめに

前回は、この連載の2回目としてかかりつけ医の役割について国際比較を行ないながら議論してきた。今回はこのかかりつけの役割と在宅医療との関係、さらには主治医という考え方をどうとらえるかについて論じてみたいと思っている。

在宅医療の展開

この原稿を読まれている方に在宅医療について語るのはおこがましいが、現在の大きな流れは在宅医療である。これは人生の最終終着点である終末期を患者がどのように過ごすのが最も生活の質が高いのであろうかという議論からはじまっている。

日本においては病院においての入院の期間が長く、病院自体が生活の一部になり、病院自体で終末期を迎えるという傾向があったのも事実である。1976年以降を病院での死亡は在宅での死亡を上回っている。

しかし厚生労働省などの調査によれば、病院で死ぬより、在宅で住み慣れた家で死にたいという人が多い。もちろんこれが実現できるかどうかには多くのハードルがあると考えられる。そのハードルについての議論はこの後で紹介するが、重要な事は医療が生活の一部となった今、なるだけ生活側に医療が寄り添っていくことが必要であるということである。となれば入院と言う非日常的空間にいる時間を少しでも短くしてあげようという話になるのは、当然である。そのために入院医療から在宅医療という動きが出てきているわけである。在宅医療に積極的に取り組む病院や診療所も増えてきている。

全国在宅療養支援連絡会のHPによれば、
「在宅医療とは、地域の住まいに住む通院困難な対象者に対し、人生の最終段階も視野に入れ、医師を含めた多職種などが行う医療介護を通ずる包括的な支援です。在宅医療、入院医療、外来医療を含めて治し支える医療の評価軸は生命、生活の充実、人生の満足ということが適用とされる総合的視点が必要です。」とある。

在宅医療のポイントのひとつは、継続性である。若いときと違って歳をとれば、新たにチャレンジするのが面倒くさいものである。また今までのその人の長い歴史を一から説明するのも大変なことである。こういった時にかかりつけ医は、その人の生活、家族の歴史、行われた医療等々も知っているというのが前提になる。

実は在宅医療も同じことである。在宅医療ならば当然相手の家に行くわけであるからそこに住む人の生活や価値観といったものを見ることができる。

そういったわけで在宅医療が推奨されているわけであるが、かかりつけ医との関連でいえばもうひとつポイントがあるのではないか。それが先程述べた在宅医療の継続性という問題である。患者が、かかりつけ医を経由せずにいきなり在宅医療を受けるケースは少ない。
もちろん病院から直接退院するときに家(在宅)に戻ったり、あるいはサービス付き高齢専用住宅などに退院し、直に在宅医療を受けることも行われる。今後こういったケースが増加すると思われる。

しかし多くの患者が、もともとかかりつけ医がいてその人が病院に入院し在宅医療を受けるということになると、本書でもふれた主治医という考えでいけば主治医が3人入れ替わることになる。つまりかかりつけ医が外来の主治医、病院での主治医、在宅医療での主治医で3人ということになる。

かかりつけ医が在宅医療を行うということにすればこの継続性がかなりの部分で担保されるわけである。本書でも何度も述べているようにかかりつけ医は単なる外来の主治医ではなく、病院においてもある程度主治医機能をサポートするという点に於いて言えば、かかりつけ医が外来、入院、在宅医療において主治医であるということが可能になるというのが、かかりつけ医が在宅医療をおこなう場合の大きなメリットなのである。

訪問看護の活用

どのように改善していったらいいのだろうか。

一つには訪問看護師の活用がある。 北欧でもそうであるが医師は高コストである。また生活を支えるという視点において、医師はパーフェクトの存在とは限らない。病院でもそうであるがごとく看護師の方が生活を支える能力は高いかもしれない。そういったことで、オランダや北欧の福祉先進国では、在宅医療において訪問看護師の役割が重視されている。

患者7名に看護師1名という手厚い看護師の配置基準である7対1の病床削減に伴い、病院をやめる看護師がふえるだろう。このような病院に勤めていた看護師は急性期の医療を経験している。こういった経験は医療必要度が高くなっている在宅の患者にとって非常に重要なものになる。訪問看護の利用者と在宅死亡者数に関連がありそうなデータもある。

訪問だけではない在宅医療

このように議論してくると、在宅医療を専門にされてきている先生はどうするのかという話になるであろう。一つはかかりつけ医機能を在宅医療の医師たちも持つという話で、一時期在宅医療の医師も外来診療をやるようにといった方向性が議論されたことがある。ただ現実的には、やはり日本において、いわゆる街の開業医が大半を占めるかかりつけ医が、在宅医療を本格的に行うことは難しく、実際には在宅医療の専門家が在宅医療の大半を行っている。

述べてきたように、諸外国では訪問看護というものをかなり活用しており、日本でも訪問看護の活用は伸びてきているが、諸外国のようにかかりつけ医が制度化されていないのでやはり、縦割りになってしまっている感は否めない。
かといって今からかかりつけ医を制度化するのは難しいと思われる。そこで出てくるのが次回にも述べるIT技術の活用になる。詳しくは次回に述べるが、さわりだけ述べておけば、仮に医師が変わったとしてもデータが共有されていれば、あまり問題はないのではないかという話である。

もちろん患者心理からして見れば、同じ先生にずっと見てほしいという気持ちはあるが、これは主治医とかかりつけ医が違うといった議論にもつながってくる話で、逆に言えば日本は主治医という考えが強すぎるために、過重労働や夜間の緊急の呼び出しが多くなり、現在でも働き方改革の困難さにつながっている。

このような文脈で考えると、やはり主治医機能を徹底するのではなく、データの共有化で乗り切っていくという方向がこれからの在宅医療にも相応しいのではなかろうか。


「セコム健康クラブKENKO」
https://medical.secom.co.jp/prevent/kenko/column/kenko_c16.htmlより引用

主治医とは

ここで、働き方改革の議論にも少し関係するので、主治医というものについて少し考えておこう。厚生労働省によると、主治医とはある患者の病気や怪我の治療に関して主たる責任を負う医師を指す。

主治医が行う主な行為は、病気や怪我の人に対して適切な治療を行うこと、継続的かつ全面的にサポートを行うことであり、病気の予防や再発防止、健康管理まで担当するケースもありえる。(厚生労働省. 「外来医療(その3)<主治医機能について>」 )

もちろん、かかりつけ医が主治医の場合もあるが、かかりつけ医がいても入院した場合に別の主治医ができるかごとく、かかりつけ医がいても在宅医療においては別の主治医ができるといったような捉え方がいいのかもしれない。実はこの点アメリカにおいては少し変わっており、厳密には保険の種類によるが、外来で診察している主治医が病院と直接契約していて主治医を継続していくケースもわけではない。

しかし繰り返しになるが、働き改革において一人の主治医が全部の責任を持つという考え方ではなく役、割に応じてデータを共有しながら主治医が変わっていくというのが最近の考え方であり、在宅医療もこれに当てはまると考えられる。

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この記事を書いた人

真野 俊樹

中央大学ビジネススクール教授/多摩大学MBA特任教授。1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。 臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

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