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連載 かかりつけ医機能と在宅医療④|中央大学ビジネススクール教授・多摩大学MBA特任教授|真野 俊樹 先生

  • #在宅医療全般
連載 かかりつけ医機能と在宅医療④|中央大学ビジネススクール教授・多摩大学MBA特任教授|真野 俊樹 先生

日本の医療の中での在宅医療の位置づけや役割、今後について中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授の真野俊樹先生に解説していただく「連載 かかりつけ医機能と在宅医療」。

第4回目となる今回は技術の進歩がかかりつけ医と在宅医療に与える影響について解説していただきます。

著者

真野 俊樹 先生

中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授

1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

はじめに

今回は、テレメディスン、モバイルヘルスアプリ、遠隔モニタリングツールなど、新しい技術がどのように在宅医療を変革し、かかりつけ医の機能を強化しているかについて探ってみよう。これはもちろん技術の進歩とIT等の最先端技術に国民が馴染んできたため、便利さなどその有用性に焦点が置かれているといった面はある。
ただ医療分野においてはそもそも人が足りないという面が非常に大きくなっていることを忘れてはいけないであろう。医師について具体的に言えば下記のような推計になる。

医師数が減る

厚生労働省は医師数を減らすことを選択肢の一つとして考えている。2024年の医学部定員は9,403人で、約116人に1人が医学部に進学する計算になる。そして、「2024年の18歳人口に占める医師養成数の比率」を固定した場合で医師養成数を算出すると、2030年には9,067人、2035年には8,308人、2040年には7,093人となる(図)。

(引用)厚生労働省|医学部臨時定員と地域枠等の現状について

さらに、臨時定員増員前の2005年の医師養成数の比率を2024年の18歳人口に当てはめて算出すると6,130人となる。当然のように高齢者数の増減と18歳人口の増減は一致しないので医師数が高齢者数に対して不足する局面が想定される。これは介護人材も同様であるし、医師のみならずコメディカルもほぼ同じ状況になると考えて良い。このような状況では人の仕事をどんどん機械あるいはITに置き換えていくことが必要になる。すでに無人のフィットネスセンターや無人のコンビニといったものが増えてきている。
医療分野でも同じように人ではないサービスが求められたりより効率的なサービス提供が求められるわけである。特に在宅医療においては需給が高い医師が患者の居宅に行くという非効率が前提になっているためITの活用が今以上に求められる可能性が高いであろう。

テレメディスン

では順番に期待されるIT技術と在宅医療への応用を考えてみたい。まず、テレメディスンである、テレメディスンというと日本ではオンライン診療のイメージが強い。
まずオンライン診療にかぎってみても、いわゆるdoctor To patient(D to P)だけでなく、医師同士の相談D to D)、あるいは現場にナースを伴ってdoctor to patient with nurse(D to P withN)などといったようにバリエーションがある。
さらに日本では医師が中心のイメージであるが、海外ではチャットなどを通してプラクティショナーのような上級看護師や、栄養士などがさまざまな形でテレメディスンを行っている。
その意味では、テレメディスンの定義は「遠隔地にいる患者と医療提供者間で、情報通信技術を利用して医療サービスを提供すること。これには、診断、治療、予防、患者のモニタリング、教育、健康に関する管理や相談などが含まれる」くらいに考えておいた方が良いであろう。ただ、テレへルスという言葉で、医療以外の分野を分けて使うこともある。
基本的には、テレメディスンは、特に地理的に離れた場所に住む人々や、病院へのアクセスが難しい人々に医療サービスを提供するための有効な手段として、日本では考えられ、便利さを求めるものではない、と考えられがちだ。これは過剰医療につながるという考えが厚生労働省の基本にあると考えられる。今回の診療報酬改定でも簡単な往診治療に対して厳しい評価が下ったところである。
しかし、訪問診療における医師の効率性を高める観点で、同一建物における対応の場合は医師の手間を省く効果もあるので一概に切り捨てる訳にはいかないと考えている。

モバイルヘルスアプリ

後述するようなモニターをするものもあるが、ここでは患者や健康維持するために行動変容が必要な人のためのアプリ、あるいは病気を治すためのアプリといったものが普及していることを考えてみたい。その意味ではモバイルヘルスではなく、医療の一部を担っている。大きく言えば、治療用アプリは患者の意識や生活習慣を変えて病気の治療を目指すのだが、医薬品と比べて開発費が数十分の1に抑えられ、副作用のリスクが少ない点から新たな治療手段として注目されている。

  • 糖尿病治療用アプリ: アステラス製薬が米ウェルドックの糖尿病治療アプリ「ブルースター」の開発をもくろんでいる。https://www.astellas.com/jp/news/27531。これは、過去の治療データから人工知能(AI)が患者個人に合った生活改善を助言するもので、米食品医薬品局(FDA)が2010年に世界初の治療用アプリとして承認した。アステラスはウェルドックと提携し、日本や一部アジアで共同開発を進めている。開発した糖尿病治療用アプリは、患者が血糖値などのデータを入力すると、食事や運動プログラムをアドバイスして病気を改善するといわれる。 
     
  • ニコチン依存症治療アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」:日本初の保険適用された禁煙治療用アプリで、ニコチン依存症を治療するために行動変容によるアプローチを採用している。患者アプリ、医師アプリ、COチェッカーの3つから成り、患者さんの呼気中のCO濃度を測定し、個々の患者に合わせた治療ガイダンスを提供する。

  • 高血圧症治療用アプリ「CureApp HT 高血圧治療アプリ」:高血圧症に対する治療用アプリで、血圧モニタリングと生活習慣のログから、個々の患者に合わせた食事や運動、睡眠などに関する知識や行動改善を提供することで、正しい生活習慣の獲得をサポートし、治療効果をもたらすことが期待されている。

遠隔モニタリングツール

遠隔モニタリングツールは、上記の2つに比して普及しやすいものだと考えられる。これには下記のようなものがある。

  • 心拍数モニター: 患者の心拍数やリズムを監視し、異常があれば警告を発するデバイス。
    使われる医療用のみならず後述するFitbitやAppleウォッチのようにsmartwatchとしてモニターするケースも生まれてきており、中には心電図をある程度判断する場合もある。

  • 血圧モニター: 家庭用の血圧計で測定されたデータを医療提供者と共有することができる。日本のオムロンヘルスケアなどが老舗であるが、データを外部と共有できるようになってきている。

  • 血糖値モニター: 糖尿病患者が自宅で定期的に血糖値を測定し、そのデータを医療提供者に送信するデバイス。

  • ウェアラブルデバイス: 活動量、睡眠パターン、心拍数などの健康関連データを追跡し、医療提供者に情報を提供するスマートウォッチやフィットネストラッカーといわれるものである。上述したFitbitやAppleウォッチのように精度はともかくも、歩数、心拍数、睡眠の質などの追跡が可能で、これらのデータは健康管理や医療提供者との共有に役立つ。そもそも数値など正常値というのは、あくまで統計的なものであるので、同じ正常範囲内でも変化が起きている、すなわち個人個人での変動を察知することができるので非常に有用であると思われる。

  • 呼吸モニター: 慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などの呼吸器疾患を持つ患者の呼吸パターンや酸素飽和度を監視するデバイス。

  • 転倒検知システム: 身につけるセンサーや部屋に設置するセンサーを通じて、転倒を検知し、即座に家族や介護施設のスタッフに警告を送信する。これにより、迅速な対応が可能になる。

  • 屋内位置情報システム: GPSトラッカーやRFIDタグを用いて、施設内での高齢者の位置を追跡することができる。これは、徘徊する傾向のある高齢者の安全確保に役立つ。

  • ビデオ監視システム: 病室や介護施設の部屋に配置したカメラを通じて、遠隔地からでも高齢者の様子を見守ることができる。プライバシーに配慮しつつ、必要に応じて介入やサポートを行うことが可能。

  • コミュニケーションツール: 遠隔会話デバイスやアプリを使って、高齢者が家族や介護者と容易にコミュニケーションを取れるようにするシステム。かわいらしい人型ロボットなどを使うことにより、孤立感を減らし、精神的なサポートを提供する。

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この記事を書いた人

真野 俊樹

中央大学ビジネススクール教授/多摩大学MBA特任教授。1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。 臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。

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