改正医療法の概要と在宅医療への影響
- #在宅医療全般
2025年12月5日に成立した改正医療法について、その概要と在宅医療への影響を中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授の真野俊樹先生に解説いただきました。
真野 俊樹 先生
中央大学ビジネススクール教授 多摩大学MBA特任教授
1987年名古屋大学医学部卒業 医師、医学博士、経済学博士、総合内科専門医、日本医師会認定産業医、MBA。臨床医、製薬企業のマネジメントを経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授 多摩大学大学院特任教授 名古屋大学未来社会創造機構客員教授、藤田医科大学大学院客員教授、東京医療保健大学大学院客員教授など兼務。出版・講演も多く、医療・介護業界にマネジメントやイノベーションの視点で改革を考えている。
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改正医療法は、2040年頃の人口構造や疾病構造の変化を見据え、地域医療提供体制の再構築、医師偏在是正、医療DXやオンライン診療の推進等を柱としている法律改正である。 2025年12月5日に成立した改正医療法の施行は、令和9年(2027年)4月1日が原則であるが、一部の規定は令和8年(2026年)4月1日、令和8年10月1日から施行され、その他公布後1年以内、1年6月以内、2年以内、3年以内に政令で定める日から段階的に施行される。内容は3つの柱からなる。
1. 地域医療構想の見直し
2040年頃を見据えた医療提供体制を確保するため、病床のみならず入院・外来・在宅医療、介護との連携を含む将来の医療提供体制全体の構想へと見直された。地域医療構想調整会議の構成員として市町村を明確化し、医療機関機能(高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能等)を報告する制度が設けられる。都道府県による病床削減支援の規定も追加されており、医療機関の機能分化・連携・再編・集約化を促進する。
2. 医師偏在是正に向けた総合的な対策
外来医師過多区域での開業規制
2026年度からは、特に都市部での診療所開業抑制を可能にする規定が施行され、高齢化に見合った地域医療体制への誘導と病床削減支援が都道府県の権限として強化される。外来医師が多い地域で無床診療所の新規開設について事前届出制を導入し、都道府県知事が在宅医療など地域で不足する機能の提供を求められるようになる。従わない場合は施設名公表や保険医療機関指定期間の短縮(6年→3年)などの措置が可能となる。
重点区域への医師派遣支援等
都道府県が設定する「重点的に医師を確保すべき区域」で働く医師の勤務手当を増やすこととし、医療保険料を原資とし、公布後3年以内に開始予定である。
オンライン診療の法的位置付け
オンライン診療を行う医療機関には届出が必要となり、「オンライン診療受診施設」の規定が新設される。2つの意味が見て取れる。ひとつは、法的根拠が曖昧なまま指針のみで運用されていたため、ルールを守らない医療機関が野放しになっていた状況を是正し、届出制によって適切な管理を行うことが目的に含まれている。
さらに、オンライン診療については、臨時的・特例的な位置づけから一歩進め、医療法上に「オンライン診療受診施設」という新たな類型を設けることで、診療所開設許可を持たない施設でも届け出によりオンライン診療の受診拠点とすることが可能になる方向が示されている。これにより、介護施設等からの受診を可能にすることで、医師の少ない地域でのオンライン診療が行いやすくなるとみられている。
美容医療への対応
美容医療分野でのトラブルや安全性への懸念を踏まえ、広告規制・説明義務・情報提供等のルール整備を強化することが改正案の論点として掲げられている。美容医療を提供する医療機関には、安全管理措置の実施状況、専門医資格の有無、相談窓口の設置状況について都道府県への報告と一般公開が義務付けられる。保険医療機関の管理者には一定期間の保険診療実績が要件化される。これは、近年話題になることが多い、研修を終えてすぐに美容医療に勤務する「直美」医師対策としても機能すると思われる。
3. 医療DXの推進
ナショナルデータベース(NDB)について、研究などに適した「仮名化」を施したデータの提供が可能になる。匿名化(Anonymous data)とは、個人を特定できる情報を完全に削除または加工し、元の個人に戻すことが不可能な状態にしたデータである。安全性は高いが、複数のデータベース間での連結や追跡調査が困難になる。一方、仮名化(Pseudonymized data)は、個人を直接特定できる情報(氏名、生年月日等)を仮の識別子(ID番号等)に置き換えたデータである。適切な管理下では元の個人への紐付けや、複数のデータベース間での連結が可能である。つまり、これまで匿名化で利用されてきた医療・介護関連データベースについて、仮名加工情報として利用・提供を可能とする枠組みが設けられた。例えば、NDB、DPCデータベース、介護データベースなどを仮名化情報で連結できれば、同一患者の医療・介護の流れを追跡でき、より精緻な医療政策の効果検証や疾病の実態把握が可能になる。さらに、レセプト分析を担う社会保険診療報酬支払基金を医療DXの中核的主体と位置付けるため名称・目的・組織の見直しが行われる予定である。
また、厚生労働大臣が「医療情報化推進方針」を策定し、2030年末までに電子カルテの普及率約100%を目指す方針が衆院での修正によって盛り込まれた。さらに、電子カルテ情報の共有基盤の整備や、感染症発生届を電子カルテ情報共有サービス経由で提出可能とする仕組みが盛り込まれている。
医療法改正と在宅医療
在宅医療については、附帯決議で「医療計画における在宅医療確保の目標設定と取組の推進」を求めるなど、運用面での強化要請として位置づけられており、条文よりも決議・通知・ガイドラインで厚みを持たせる構造になっている。
そのため、在宅医療の実質的な強化は、今後の医療計画の改定作業(都道府県)や診療報酬・介護報酬改定、ガイドライン整備を通じて進めることが前提となっており、「医療法そのものに在宅医療が色濃く書き込まれている」という形ではないと言える。ここから付帯決議とは何か、またそのポイントをのべる。
附帯決議と在宅医療
改正医療法には、衆議院厚生労働委員会と参議院厚生労働委員会で、それぞれ複数項目から成る附帯決議が付されており、政府に対して施行段階での運用上の配慮や追加措置を求めている。法律本文は、公布・施行されることで国民や行政を直接拘束する「法的効力をもつルールそのもの」なのに対し、付帯決議は、その法律をどう運用してほしいかを国会が政府に示す「要望・注文」であり、法的拘束力はない点が決定的に異なる。とはいえ、付帯決議は法的拘束力を持たないが、「立法府がその法律をどう使ってほしいか」という意思表示として、行政実務や裁判所の解釈に一定の影響を与え得ると整理されている。
例としては、医師手当事業について「保険料負担の過度な増大を避けること」「本来目的以外への流用をしないこと」、同様に、「病床削減ありきにしない」「地域の実情を踏まえた調整会議運営」といった文言があり、行き過ぎをけん制している。
厚労省はこれを踏まえて政省令・通知・事業実施要領を設計せざるを得ないため、条文上認められる裁量の範囲が実務上は絞り込まれる。
そこで、在宅医療はどうかといえば、附帯決議には、在宅医療に直接言及する項目が含まれている。特に、医療計画や新たな地域医療構想を通じて在宅医療の確保・強化を図るよう政府に求める文言が明記されており、地域の実情に応じた入院・外来・在宅医療と介護の連携を重視すること、が読み取れる。
さらに、衆院厚労委の附帯決議では、医療計画における「在宅医療の確保の目標設定」と、その達成のための実効性ある取組と効果評価を総合的に推進するよう厚生労働大臣に助言等を求めることが検討事項として掲げられている。
法案の「新たな地域医療構想」自体が入院だけでなく外来・在宅医療・介護との連携を含む将来の医療提供体制全体を対象とすることとされており、その方向性を後押しする形で、在宅医療の充実や地域の実情を踏まえた体制整備を求める決議がなされている、といえよう。








