【後編】看取りのいろは~在宅医療での看取り・死亡診断を多職種で振り返る~|医療法人おひさま会|荒 隆紀先生
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在宅医療における看取りについて、医師の立ち居振る舞いは遺族の悲観の回復に大きな影響を及ぼすと言われています。しかし、医学教育において看取りの作法を学ぶ機会は非常に少なく、十分なシミュレーションができないまま看取りに立ち会うケースは稀ではありません。「死亡を確認したことを家族へどのように伝えたら良いのだろう?」「自分なりに配慮してみたが、家族に寄り添った対応ができたのだろうか?」と悩む若手医師も多いでしょう。
今回は、在宅医療の動画配信プラットフォーム「PeerStudy」の人気コンテンツ「おひさまナビ」(医療法人おひさま会のケースカンファレンス)で、「看取りの立ち振る舞いと死亡診断のいろは」について医療法人おひさま会の荒隆紀先生に解説いただきました。
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看取りの立ち振る舞いや死亡診断の作法について少しでも不安や懸念がある方は、ご参考になさってください。
では、動画の後半に解説された死亡診断書の書き方について説明していきます。
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講師
荒 隆紀先生
2012年新潟大学卒業。洛和会音羽病院で初期研修後、同病院呼吸器内科後期研修を経て、関西家庭医療学センター家庭医療学専門医コースを修了。家庭医療専門医へ。「医療をシンプルにデザインして、人々の生き方サポーターになる」を志とし、医療介護福祉領域の人材育成パートナーとなるべく起業。その他、関西で在宅医療を展開する医療法人おひさま会のCLO(Chief Learning Officer)として法人全体の人材育成/組織開発をしながら、新潟大学総合診療研修センターの非常勤講師として医学生教育にも従事している。著書:「京都ERポケットブック」(医学書院)、「在宅医療コアガイドブック」(中外医学社)
死亡診断書作成のポイント
さて、死亡診断書は看取り後に発行する書類を指しますが、なんのために必要なのでしょうか?
その目的は大きく2つあります。それは、①人間の死亡を医学的、法律的に証明すること。もう一つは、②死因統計の資料にするためです。
もともと、死亡診断書の歴史は明治時代にさかのぼり、最初は戸籍管理として扱われていました。時代が進むにつれ、例えば犯罪性の除外や公衆衛生を考慮し、法的な要請書類として整備されていったのです。
そのような経緯を踏まえつつ、まず看取りの際はご遺体の状況によって、死亡診断書または死体検案書を発行するのか判断する必要があります。その使い分けの基準については、以下のフローチャートを確認していきましょう。
まず確認すべきは、「亡くなった方が病気や傷病で診療中だったかどうか」です。
もし、死因が傷病だとはっきり言い切れない以下のような場合は、「異状死体」と判断されます。
- 死因が病死・自然死以外の死亡死体で、事故、災害、中毒、自殺・他殺などの事件性がある場合
- 病死と診断されていても、その原因が不詳の場合
- 手術中や検査診療中に合併症等で予期せず亡くなった場合
- 乳幼児突然死症候群のような乳幼児の突然の死亡した場合
上記の異状死体に関しては、死亡から24時間以内に所轄警察署に届け出る必要があり、監察医制度があれば監察医が死亡検案書を発行のプロセスを踏みます。つまり、医学管理中の方であっても、異状死体であれば、所轄警察署に届ける必要性があることを押さえておいてください。
死亡診断書・死亡検案書のQ&A
では、よくある質問についてQ&A方式で説明していきます。
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Q
死亡前、24時間以内に診察しないと死亡診断書は発行できないのか?
A「死亡前日に医学管理中の患者さんを診療していなければ、死体検案書の発行になるのでは?」と思われがちですが、必ずしもそうではありません。その人が病気で亡くなったことが、これまでの経過から判断できれば、24時間を超えていても、死亡診断書を発行できます。
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Q
死亡時刻は医師が確認した時間でよいか?
A救急搬送中の死亡を除き、原則、死亡時刻を記載する必要があります。死体検案書の場合は法医学の知識を用いて死亡時刻を判断し、必要に応じて「推定」「不詳」と記載します。
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Q
亡くなった場所はどのように記載するのか?
Aよく迷うのが、住民登録は自宅なのに、本人が住んでいた入所中の施設で亡くなった場合です。この場合はそれぞれ施設の種類に合わせて記載が必要です。しかし、老人ホームやグループホーム、サービス付き高齢者住宅などは施設のなかに自宅があるという扱いなので、亡くなった場所は自宅に該当します。
死因欄の書き方
死亡の原因はⅠ欄またはⅡ欄に分かれています。Ⅰ欄が直接死因、Ⅱ欄が直接死因には関係しないが、影響を及ぼした疾患を書きます。
死亡診断書の「死亡の原因」欄
厚生労働省 令和6年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルより抜粋
Ⅰ欄の(ア)〜(エ)の項目に最も死亡に影響を及ぼした順に傷病名を記載します。原則、1項目にひとつの病名を書き、それぞれ(エ)〜(ア)の順に因果関係がわかるように記す必要があります。
この記載方法は統計学的に重要で、例えば、直接原因が感染症であれば、その病原体まで記載します。また、腫瘍の良性・悪性はもちろん、悪性リンパ腫と書くだけではなく、腫瘍の細胞型やその病巣も記載すべきです。また、死亡の原因として急性心不全と記載することは可能ですが、最期の状態を単なる「心不全」とするのはできるだけ避けてください。
死因に「老衰」と書いてもよいのか、という質問もよくありますが、可能です。ただし、死因としての「老衰」は高齢者で他に明かな死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合にのみ用います。
では、ここで簡単なワークをしてみましょう。
7年前に認知症を起こし、ADLが下がり寝たきりになった。嚥下障害で窒息し、亡くなった。
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Q
この場合はどのように記載すれば良いでしょうか?
A死因のⅠ欄に(ア)嚥下性肺炎、(イ)アルツハイマー型認知症と記載します
老衰に近い方が食事介助中に窒息して亡くなった
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Q
この場合はどのように記載すれば良いでしょうか?
A通常窒息して亡くなった場合、異状死体なのか、事件性はあるのか判断に迷うところです。窒息は外因子にあたりますが、死亡診断書の記入マニュアルには、疾病・外因子ともに死亡に影響してる場合、最も死亡に近い原因から、医学的因果関係がある限りさかのぼって判断するよう記載されています。老衰と窒息死は相互関係があるため、直接死因として老衰で亡くなったと記しても問題ありません。しかし、遺族が納得できない場合は異状死体として警察に相談する場合もあります。
てんかん発作が起きて浴槽で亡くなった
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Q
この場合はどのように記載すれば良いでしょうか?
Aてんかん発作は外因子ではなく病死として扱うように死亡診断書のマニュアルに記載されています。外因子が溺死にあたるので死体検案が必要ですが、てんかん発作として死亡診断書が発行される可能性があります。
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そのほか、より実践的なワークを配信動画内で解説していますので、
気になる方は在宅医療の動画配信プラットフォームpeer study「おひさまナビ」へ
死に至るまでの歴史に責任を持って立ち会う
ここまで、前編・後編に分けて、「看取りの振る舞いと死亡診断のいろは」について解説してきました。死亡診断書または死体検案書には、亡くなった人の死に至るまでの歴史がその1枚に封じ込められていると言えます。我々はご遺族の気持ちを考え、この大切な書類を責任感を持って扱うべきです。看取りの振る舞いと死亡診断書の作成のポイントをしっかり押さえ、真摯に患者さん、ご遺族に向き合っていただきたいと思います。
ぜひ、前編の看取りの振る舞いについても併せてご覧ください。
参考文献
・えんじぇる班.地域の多職種でつくった『死亡診断時の医師の立ち居振る舞い』についてのガイドブック.2014.(※1)
・厚生労働省 令和5年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル
・勇美記念財団 在宅医療を推進するための会 編 実践 在宅看取り 死亡診断書マニュアル