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グリーフケアに関するアンケート調査結果|在宅医療従事者の8割がグリーフケア実施経験を持つも、知識・不安を抱える課題が浮き彫りに

  • #家族ケア
  • #メンタルケア
グリーフケアに関するアンケート調査結果 家庭医療専門医のコメント付き

在宅医療カレッジでは、在宅医療に従事する医療従事者を対象としてグリーフケアの現状と課題を把握することを目的にアンケート調査を実施しました。

今回の記事では調査結果のまとめと医療法人おひさま会 荒 隆紀医師からのコメントをご紹介します。

著者

森 優太

医療法人松徳会 花の丘病院
千葉大学客員研究員
国立長寿医療研究センター 老年学評価研究部外来研究員

調査結果トピックス

  • 回答者75名のうち、約8割がグリーフケアの実施経験があると回答。

  • グリーフケア実施者60名の中で、5名以上の経験を持つと回答したものは約3割

  • グリーフケアの実施場所は約7割以上が自宅訪問であった。

  • グリーフケアの実施内容は、健康状態の把握と死別後の新たな問題点の確認がそれぞれ6割を占めた。

  • 約6割以上がグリーフケアに関する知識・不安があると回答。

  • これらより、医師・看護師・コメディカル含めて安心してグリーフケアを実施できるような教育プログラムや体制づくりの必要性が示唆された。

アンケート調査概要

実施時期   :  2024年3月21日(木)~2024年4月30日(火)
調査方法   :  Webアンケート
調査対象者  :  在宅医療カレッジ会員・在宅医療カレッジメルマガ登録者・在宅医療カレッジWEBサイト閲覧者・SNS利用者等
有効回答数  :  75名

グリーフケアとは

グリーフケアとは、死別をはじめとする「喪失」体験によって生じる悲しみや痛み、様々な感情に寄り添い、その人が自分なりのペースで立ち直り、再び人生を歩んでいくためのサポートを行うケアのことを指します。従来は「死別ケア」や「遺族ケア」などと呼ばれていましたが、近年では「グリーフ」という概念が広く認知されるようになり、あらゆる形の喪失に適用されるケアとして「グリーフケア」という呼称が定着しつつあります。

今回は、我が国のグリーフケアの現状と課題を把握することを目的に、グリーフケアに関するアンケート調査を実施しました。

調査結果

回答者の属性

有効回答数が75名のうち、職種は上位は54.7%が看護師、17.3%が医師でした。
所属機関では上位は訪問看護ステーション32%、訪問診療専門クリニック13.3%、外来・訪問診療併用クリニック12%でした。

グリーフケアの経験

75名のうち60名(80%)がグリーフケアの実施経験があると回答し、60名のうちグリーフケアの経験人数5名以上と回答したものは約5割程度との結果になりました。グリーフケアの経験人数について、現状では先行研究では十分なデータに基づいた知見は乏しいようです。しかし、今後、調査体制の整備や支援機関の充実により、より正確なデータが得られることが期待されます。今回は、職種は看護師、勤務先は訪問診療専門クリニックが多く、訪問看護師がグリーフケアに関わる機会は比較的多いことが推測できます。

Q.グリーフケアを行ったことがありますか?

Q.昨年(2023年1月〜12月)におけるグリーフケアを実施したおおよその人数を教えてください。
(お1人の患者さんに対してご遺族が複数名の場合も「1」としてカウントしてください)

グリーフケアの主な方法

60名のグリーフケアの経験者に対して、主な方法として(複数回答可)、自宅訪問44名(73.3%)、来院・来所相談10名(16.7%)、電話14名(23.3%)でした。訪問看護師165名を対象とした先行研究では、グリーフケアの実施方法を複数回答で求めたところ、遺族訪問が最も多く141名(85.5%)、電話連絡51名(30.9%)が続いており今回の結果を支持しました。グリーフケアが自宅で実施される理由は、以下のような要因が考えられます。

●プライバシーと安心感: 自宅でのグリーフケアは、悲嘆を抱える人々にとってプライバシーが保たれ、安心感が得られる環境です。家庭内では身近な場所であり、日常生活が維持されるため、よりリラックスして自分の感情を表現できる場合があります。

●ファミリーサポート: 家庭では、家族や親しい人たちが直接的なサポートを提供できます。グリーフケアを受ける人が家族や親しい人たちに支えられることで、回復や受容のプロセスが促進される場合があります。

●生活アセスメント: 自宅でのグリーフケアにおける生活アセスメントは、単なる表面的な情報収集にとどまらず、深い悲嘆への架け橋となる重要な役割を担います。自宅での様子を観察することで、日常生活における悲嘆の影響をより具体的に把握することができます。例えば、睡眠や食事、家事などの様子を伺うことで、悲嘆が心身に与える具体的な影響を理解することができます。これは、より個別具体的なサポートを行う上で重要となります。

Q.グリーフケアの主な方法を選択してください。(複数選択可)

(その他回答は省略)

グリーフケアの内容

60名のグリーフケアの経験者に対して、グリーフケアの内容 (複数回答可)で上位は、健康状態を把握する40名(66.7%)、死別後新たな健康および心理上の問題点がないか確認する40名(66.7%)、支えになる人がいるか確認する39名(65.0%)でした。特に、死別後、健康および心理上の問題点を確認することは重要です。

日本グリーフケア協会によれば、死別によって心理的な反応、身体的な反応、日常生活や行動の変化が生じる可能性があります。心理的な反応では、喪失感や深い悲しみに加えて、対処困難なストレスや不安が現れることがあります。これは、亡くなった人との絆や未解決の感情に起因することがあります。身体的な反応としては、睡眠障害や食欲の変化、疲労感、頭痛などの身体的症状が現れることがあります。これらは心の状態と密接に関連し、悲嘆のプロセスによる身体への影響が反映される可能性があります。日常生活や行動の変化では、社会的な孤立感や興味や活力の低下、日常活動の減少などが見られることがあります。これは、喪失による生活の大きな変化や調整困難さによって引き起こされることがあります。これらに対して、医師や専門職がチームとなってそれぞれの専門性を引き出しながらサポートすることが求められています。

Q.グリーフケアの内容を選択してください。(複数選択可)

(その他回答は省略)

死亡確認の際の、ご家族への言葉かけ

死亡確認の際の、ご家族への言葉かけを普段どのように実施しているか、自由記述で記載をしてもらいました。代表的なコメントを数点紹介します。

例1:その時々で言葉だけでなく、手を互いに繋いだり生き抜いた本人の力と気持ち、それを支えてくれた家族がいたからこその今があることは必ず伝えている。
例2:個人が頑張りましたね。お顔の表情で素敵なお顔で旅立たれましたね。など
例3:何も言わない、見守る。ご家族の会話に会わせながら少し話す程度。
例4:在宅介護への労いの言葉。
例5:患者さんが苦痛から解放されたことを伝え、看取りまでを労うようにしている。
例6 :これまでの関わりでみてきた故人の思い出を話すことが多いです。

紹介された例1~6はいずれも、ご家族の悲しみや苦しみに寄り添い、共感を示そうとする温かい言葉かけが印象的です。
特に、以下の3つのポイントが重要だと考えられます。

● 故人への敬意と感謝を伝える
例2や例6のように、故人の人柄や功績を具体的に話したり、感謝の気持ちを伝えたりすることは、ご家族にとって大きな慰めとなります。

● ご家族の気持ちに寄り添う
例1や例3のように、ご家族の表情や様子を見ながら、言葉だけでなく、握手や見守りなど、非言語的なコミュニケーションも大切です。

●今後のサポートを伝える
例4や例5のように、在宅介護の労いや、看取りまでの感謝の言葉を伝えるだけでなく、今後のサポートについても言及することで、ご家族は心強く感じるでしょう。


大切なのは、画一的な言葉ではなく、ご家族一人ひとりの状況や気持ちに寄り添い、心を込めて言葉をかけることです。ご自身の経験や知識を活かしつつ、誠意を持って接することが求められます。

死亡診断はどのような医師が担当しているか

58名の医師による死亡診断に関わった回答者の結果として、往診・当直日の医師が行う34名(58.6%)、必ず主治医が行うようにしている20名(34.5%)でした。これは、医療機関や患者の状況によって死亡診断担当医師が異なることを示唆しています。

Q.死亡診断を行うのはどのような医師が対応していますか?



●往診・当直医が担当する場合
・緊急死や自宅での死亡など、主治医が不在の場合
・夜間や休日など、主治医が勤務していない場合
・複数の医療機関を受診している場合


●主治医が担当する場合
・長期療養中の患者
・原疾患が明確な場合
・患者の家族が希望する場合

このように、死亡診断は患者の状況や医療体制によって、担当医師が異なることが一般的です。医療機関によっては、明確な基準を設けて担当医師を決めている場合もあります。死亡診断は、死因を確定し、死亡届を提出するための重要な手続きです。死因を正確に診断することは、公衆衛生上の観点からも重要です。今後は、医療体制の整備や医師教育の充実などを通して、迅速かつ適切な死亡診断が行われる体制を構築していくことが求められます。

グリーフケアに関する知識・技術の不安

回答者75名のうちで、54名(72%)がグリーフケアに関する知識・技術に不安ありと回答しました。この数字は、グリーフケアへのニーズの高さと、同時に現場における課題の大きさを浮き彫りにしています。

近年、家族構成の変化、死生観の多様化、高齢化社会の進展などにより、グリーフケアに対するニーズはますます多様化しています。例えば、複雑な家族関係、宗教や文化の違い、LGBTQ+の方の喪失など、従来の枠組みでは対応が難しいケースも増えています。多様なニーズに対応できる知識やスキル不足への不安が、グリーフケア従事者の自信を揺るがせているのかもしれません。

また、グリーフケアの必要性を認識している医療機関や自治体も増えつつありますが、体制や制度が十分に整備されていないケースも少なくありません。適切な人材配置や研修機会の提供、情報共有システムの構築など、グリーフケアを推進するための土台が整っていない状況は、現場における不安を増幅させている可能性があります。

Q.グリーフケアに関する知識・技術に不安はありますか?



●職種別で見た不安の違い
 グリーフケアのアンケートに回答した医師13名、看護師41名の2グループに分けて不安の程度を確認しました。医師13名では不安ありと回答したものは10名(77%)、看護師41名では不安ありと回答したものは29名(71%)みられました。今回の結果で双方で不安の割合に違いはみられませんでした。しかし医師は、患者さんの病状診断や治療方針決定など、医療的な責任を担います。一方、看護師は、患者さんの日常生活のサポートや心のケアなど、より患者さんに寄り添ったケアを行います。この役割の違いが、不安の内容や程度に影響を与えている可能性があります。

●グリーフケアの経験人数で見た不安の違い
グリーフケアの経験人数を5人未満・5人以上の2グループで分けた際の不安の程度を確認しました。5人未満31名では不安ありと回答したものは22名(71%)、5人以上29名では不安ありと回答したものは20名(69%)みられました。グリーフケア経験年数と不安の関係について、興味深い結果が出ました。5年未満と5年以上で不安の程度に大きな差が見られないという点、一見矛盾しているように見える結果ですが、以下の点から考察することで、より深く理解することができます。5人未満の経験者にとって、グリーフケアは未知の領域であり、知識やスキル不足への不安を感じる可能性があります。一方、5人以上経験者であれば、ある程度の知識やスキルを身につけていると考えられますが、より複雑なケースへの対応など、新たな不安が生じる可能性もあります。また、職場環境やサポート体制も、不安に影響を与える可能性があります。上司や先輩からの指導やサポートが充実している職場では、経験人数に関わらず不安を感じにくい傾向があります。一方、孤立感や孤独感を抱えている場合、不安が大きくなる可能性があります。

調査のまとめ

当調査では、回答者の約8割がグリーフケアの実施経験がありました。また、グリーフケア実施者のうち約3割以上が5名以上のグリーフケア経験があり、実施場所は約7割以上が自宅訪問を行っています。また、グリーフケアの実施内容は健康状態を把握する、死別後新たな健康および心理上の問題点がないか確認するといった回答がそれぞれ6割を占めました。一方で、回答者の約6割以上がグリーフケアに関する知識や不安を抱えていることが明らかになりました。
これらの結果から、医師や看護師を含む医療スタッフが安心してグリーフケアを提供できるような教育プログラムや体制が必要であることが示唆されました。医療従事者全体の意識向上とスキルの向上が求められる中、グリーフケアの実施にはより高度な専門知識と対応力が求められることが分かりました。今後は、より充実した教育プログラムと体制づくりが重要であり、医療従事者の教育と支援体制の強化が必要です。

参考

日本グリーフケア協会:https://www.grief-care.org/beginner.html
渡邊朱美; 富田早苗. 訪問看護師が行うグリーフケアの困難感と教育課題. 川崎医療福祉学会誌, 2021, 30.2: 475-482

医療法人おひさま会 荒 隆紀医師からコメント

今回のアンケートは、在宅医療に関わる職種に対してグリーフケアの実態を調査したものとして、多くの示唆を与えてくれるものと思います。

特に、グリーフケアの実践者は多いものの、その多くが経験人数や年数に関わらず知識や技術に不安を感じているという点は興味深いものでした。日本グリーフケア協会を中心に様々な研修会がありますが、いつの時代においても、死別後の喪失悲嘆に相対し、伴走することの難しさを反映しているのかもしれません。

個人的には下記の2点を意識しながらグリーフケアの自宅訪問を行ってきました。
1つ目は「複雑性悲嘆の拾い上げ」です。複雑性悲嘆とは「死別の急性期にみられる強い悲嘆反応が長期的に持続し、社会生活や精神健康など、重要な機能の障害をきたしている状態」(NEJM 372:153-160,2015)を指しますが、日本では、一般人口における死別後10年以内の有病率が2.4%と言われています。(J Affect Disord 127:352-358,2010)複雑性悲嘆は、高血圧やがん、心疾患、自殺の危険性を高めるという報告もあり、適切な専門家へ繋げる必要があります。
もう一つは、訪問時に「喜怒哀楽の感情が遺族から表出されるかどうか」です。遺族の考えや思いを傾聴しつつ、亡くなった人への複雑な感情を感じることは自然な反応であることを保証するほどに、遺族は泣いたり、笑ったり、悔しがったりと様々な表情をされます。その全てが「死別へのコーピング」の大切なプロセスとして必要なものと考えています。また、こうした関わりをできるのも、病棟や在宅に関わらず緩和ケアに関わる医療従事者の醍醐味と思います。

今後ますます、国内においてグリーフケアの価値が見出され、それに対する研究などが蓄積されることを願っています。

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この記事を書いた人

森 優太

医療法人松徳会 花の丘病院 理学療法士として臨床業務・管理業務に従事する中で、介護予防・社会疫学に関する研究を実施。2022年度、千葉大学大学院にて医学博士を取得。2023年度より千葉大学予防医学センター客員研究員、国立長寿医療研究センター老年学評価研究部外来研究員として介護予防・社会疫学に関する研究活動を実施している。自治体とともに介護予防事業・地域づくりに関与。また、フレイルに関する和文・英文は多数執筆。

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