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大分から見た日本の在宅医療の課題|連携と教育で高齢化社会を支える|医療法人輝彩理事長・ヒカリノ診療所院長|平山 匡史 先生

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現在の在宅医療業界を支えるトップランナーたちは、これからの在宅医療に対してどのような課題を感じているのか。

今回は、ヒカリノ診療所院長・平山匡史(ひらやま・ただふみ)先生にお話を伺いました。
平山先生は地元大分県で訪問診療クリニックを開業するにあたり、ご自身で大分の在宅医療の診療圏を調査し、患者さんのニーズを分析し、実践されています。超高齢化社会の昨今、地域医療に必要な資源や課題をお話ししていただきました。

医療法人輝彩理事長・ヒカリノ診療所院長
平山 匡史 先生

2006年自治医科大学卒業。大分県立病院で初期臨床研修を修了後、大分県内の地域中核病院やへき地診療所で地域医療に従事。大分大学医学部地域医療学センターを経て、社会医療法人関愛会で家庭医療の教育の場となる診療所の開設に関わる。2022年5月在宅療養支援診療所ヒカリノ診療所を開設。2024年3月医療法人輝彩に法人化、理事長就任。「患者様の幸せな生活に奉仕する」をミッションとし総合診療的な訪問診療行いつつ、診療看護師や管理栄養士等との多職種連携、医学部卒前教育・診療看護師の在宅領域での活用等にも力をいれている。

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地域医療のニーズの高い地域を分析する

ー平山先生が感じられる地域医療の課題を教えてください

日本全国で高齢化は進んでいます。よく学生にも話すのですが、大分市の高齢化率は約27%です。全国が約28%なので、大分市の人口分布は大体全国平均と同じです(令和2年データ)。

引用)高齢者をとりまく現状|大分市ホームページ

大分市の中でも高齢者が多い地域と少ない地域があります。概して高齢者率が高いところには医師・医療資源・介護資源が少なかったりします。
大分市でも全国でもそうですね。私が大分市の西側で開業した理由の1つも高齢者率が高いというのが背景にあります。

もう1つの問題が、一般論として開業医の高齢化です。2020年の時点で、診療所(クリニック)に従事する医師の平均年齢は60.2歳です。
全国の診療所(クリニック)に従事する医師の50%が60歳以上になっています。

参照)統計表|厚生労働省

ー高齢者が多く、ニーズが高い地域に開業されたのですね

開業するからには失敗はできないので、ニーズのあるところでの開業を考えていました。
そこで地域包括支援センターから介護度の高い人達の人数配置などのデータを手に入れて調べ始めました。
地図にこのエリアにはこのくらいの人数がいると書き出してみたんです。そこから厚生局に掲載されている機能強化型在宅療養支援診療所をプロットしていきました。
そうすると結果的に大分市の西側が高齢者の数はそれなりにいるがクリニックの数が少ないということがわかり、このエリアで開業するのは良いのではないかとニーズが見えてきたんです。
以前勤務していたクリニックでの訪問診療の経験で、交通の利便性の良さは非常に重要であるということを感じていました。候補に上がった大分市の西側で、市街地や他のエリアにも抜けやすい場所として現在のクリニックの場所を選びました。
診療圏調査などもやってもらい、参考にはなったのですが、今ひとつピンと来なかったんです。なぜなら調査の指標になっているものが、そのエリアの人口とそこから割り出した有病率。
参考にはなりましたが、結局要介護者の人数が一番在宅医療には直結しますね。

心理的要素・社会的要素を踏まえた連携の必要性

ー現在のクリニックでの病院との連携でどのような患者さんを受け持たれているのですか

私のクリニックでは、大分県内で神経難病の有名な医師がいる病院と連携を取って神経難病の患者さんを受け入れています。そのため、クリニック全体の10~15%はパーキンソン病などの神経難病の患者さんです。がん患者さんは全体の5%くらい、圧迫骨折からの廃用症候群などの整形外科的要因の患者さんが30%、残りは認知症だったり、様々な症状が混在しているような患者さんです。

ー意外とがん患者さんが少ないのですね

そうですね。現在のクリニックではがん患者さんの緩和ケアは少ないです。しかし、重症の神経難病のALSだったり、非がん患者さんの疼痛コントロールだったり、緩和ケア自体はやはり必要な知識ですね。

ー病院での治療と在宅診療との連携で苦労することはありますか

自分が病院で働いていたときも思っていたし、開業医側で働いていても思いますが、救急事案が発生したときの連携の難しさです。
単純に入院先を探すのが難しいのもそうですが、在宅の事情を病院の先生に理解してもらって診てもらうというのが非常に難しい。在宅医療は患者さんの心理的要因、社会的要因がかなり関わってきますので。
患者さんが病院から訪問診療に切り替えになる際、入院していたときの病気の情報はあるけど家に帰るのに必要な情報はないということは多いですね。また、自宅で介護する体制が整わないまま退院になってしまう。
「この患者さんの痰の吸引は誰がするの?」とか「1日3回服用の薬の管理は誰がするの?」とか。在宅に移行してからそれを調整していくのではなく、入院中に自宅での環境をもう少し考慮していければもっとスムーズなのかなと思います。

ーその問題を解決するにはどのような取り組みが必要だとお考えですか

解決のためには、やはり在宅医療をもっと知ってもらう活動が必要だと思っています。
解決策として連携し合う病院と訪問診療クリニックで勉強会を開催するなどもありますが、私が考えているのは私のクリニックで働きつつ、連携する病院でも働いている先生を増やすということです。例えばクリニックで週4訪問診療をやって週1病院で外来をやるというような。
そんな先生が増えたらお互いに顔が見える関係になって、連携の問題の改善につながるのではないかなと思っています。
医師だけでなく、訪問看護師や地域連携室の看護師、ソーシャルワーカーをもっと早い段階から病院と接触して調整していくということが重要だと思います。

地域医療を目指す後進の育成が必須

ー超高齢化社会に突入している今、地域医療に必要なものは何だと思いますか

超高齢化社会に突入している現在、在宅医療のニーズは増えていく一方です。
地域医療に関わる若い医師や医療従事者を育てていくということは課題だと思います。人材育成のための人的資源などの確保も重要です。
以前働いていた関愛会という法人は、大分大学と協力して家庭医療を教育する場を作っていました。そこで教育には人的コストが非常にかかるということを感じました。
自分でも開業して、教育は非常に大変ということを実感しています。
しかし、地域医療を担う人材を育成することは絶対に必要です。医師もしかり、医療従事者もです。
とくに私は診療看護師(ナース・プラクティショナー:NP)の育成に関わっています。
日本で1番最初に診療看護師の養成コースを設立した大分県立看護科学大学にも関わっているので、若い地域医療の従事者の育成に携わっていきたいです。
医師も診療看護師もその他医療従事者も、地域医療に関わる若手を育てていこうと思ったら、やはりエネルギーもコストも必要です。私ができることは、やはり組織を大きくして余力を持たせ、教育に十分な人員やコストを回せるようにすることだと思っています。

同じ方向を見る仲間を増やしたい

在宅医療・地域医療をやるにあたって、とくに経営者として開業するのであれば「患者さんのニーズを掴む」ということは非常に重要だと思います。より患者さんに興味を持ち、患者さんと周りの家族のニーズを意識していく必要がありますね。
地域医療は非常にやりがいのある分野だと思っています。総合診療も面白い。でもやはりまだまだ仲間が少ないと日々感じています。
地域医療のやりがい、総合診療の面白さを共有できて、同じ方向を見て取り組める仲間が増えたらいいなと思います。

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この記事を書いた人

岡村 奈津子

医療ライター/薬剤師。昭和大学薬学部卒。病院、ドラッグストア、薬局と様々な分野で経験を積み、現在は地域医療、在宅医療に注力。薬剤師として臨床の現場で働きながら、医療ライターを行っている。多くの人へわかりやすい医療の情報と、医療従事者の姿を届けるべく執筆活動中。

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