キャリア/ワークスタイル

患者さんの価値観を大切にして自宅での生活を支える|根幹は全人的医療|医療法人輝彩理事長・ヒカリノ診療所院長|平山 匡史 先生

  • #キャリア
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今回は、ヒカリノ診療所院長・平山匡史(ひらやま・ただふみ)先生にお話を伺いました。

地元大分県で訪問診療クリニックを開業し、精力的に活動されている平山先生。先生が診療で大切にされていること、開業されてみて感じたことや課題、これからの展望についてお話しいただきました。

医療法人輝彩理事長・ヒカリノ診療所院長
平山 匡史 先生

2006年自治医科大学卒業。大分県立病院で初期臨床研修を修了後、大分県内の地域中核病院やへき地診療所で地域医療に従事。大分大学医学部地域医療学センターを経て、社会医療法人関愛会で家庭医療の教育の場となる診療所の開設に関わる。2022年5月在宅療養支援診療所ヒカリノ診療所を開設。2024年3月医療法人輝彩に法人化、理事長就任。「患者様の幸せな生活に奉仕する」をミッションとし総合診療的な訪問診療行いつつ、診療看護師や管理栄養士等との多職種連携、医学部卒前教育・診療看護師の在宅領域での活用等にも力をいれている。

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ジェネラルな働き方が肌に合い地域医療の道へ

ー先生の大学卒業後からの経歴を教えてください

私は大学卒業後、大分県で研修医として勤務し、内視鏡の経験を多く積みました。胃カメラや大腸カメラで、手先を動かしてする細かい作業も楽しかったです。その後、病院で義務年限を過ごす中で、二次救急や夜間当直などを経験して救急の面白さも感じました。しかし、後期研修で1年間救命センターにいる時期に、分単位で動くスピード感についていけず、医師として本格的な救急は難しいなと感じたんです。

その後、僻地の診療所を経験しました。今までの分単位の現場から一気に空気が変わり、時間がゆっくりと流れる中で、患者さんと病気やそれ以外のこともたくさん話しました。
ほかにも僻地の学校医や園医を経験して、楽しかったのを記憶しています。
そんな中で、私は「一つのことを専門的に診療するというより、ジェネラルな感じの方が肌に合うな」と思ったんです。そこから総合診療医を目指すようになりました。医師になって8年目から10年目くらいのタイミングです。

ビジネスへの興味と地域医療の資源不足の課題がマッチし独立

ー独立を考えられたきっかけは何だったのでしょうか

義務年限が終わった後、関愛会という法人で家庭医療・在宅医療を本格的に行いました。
関愛会は大分大学総合診療総合内科学講座とタッグを組んで、家庭医療の勉強の場になるクリニックを作るという取り組みをしており、そこで3年間院長をしたんです。非常に良い経験をさせてもらいました。
そのクリニックの経営がある程度軌道に乗り、自分よりもふさわしいと思っていた先生の院長着任が決まり、仕事が一段落したと感じたのが独立を考えたきっかけです。
自分が仕事をしている中でも、まだまだ訪問診療医の資源が足りないということは感じていたため、在宅医療で独立したいと思ったんです。
昔から独立志望だったというわけではありませんが、研修医になってから本をよく読み、多いときは年間100冊以上読みました。とくにビジネス書やマネジメントの本を多く読み「経営は面白そうだな」というのはずっと思っていました。

ー現在はどのくらいの患者さんがいらっしゃるのですか

現在のクリニックでの外来診療はほとんどありません。そのため1日の多くは、訪問診療や施設在宅です。
現在医師の人数は常勤が私と、非常勤の医師が3名います。私も所属している大学の総合内科医局から週に1日と前の職場の繋がりで月に2回非常勤という形できてもらっています。
訪問する人数は平均すると1日10人強くらいで伸びてきているというところです。

ー実際にご自身で経営されてみて心掛けていることはありますか

スタッフとはしっかりと1対1で話をする時間をとりたいのですが、なかなか取る時間もないのが現状です。
朝や移動時間など、話せる時間があったらなるべくコミュニケーションを取るようにはしています。何か問題があったときに、トップに情報が上がってこないということは避けたいですよね。怒られてしまうから報告しないというような。
なので、普段からなるべく話しやすい雰囲気は作っておくことは心掛けています。
このことはクリニック内だけでなく、多職種連携でも注意していますね。

ー印象に残る患者さんのエピソードを教えてください

私が独立する前に働いていたクリニックからの患者さんですが、高齢でも認知機能も保たれていたので、自分の意思を最期まで示せる方だったのが印象です。
こちらも希望通りの穏やかな最期が迎えられるように対応をしていきました。
入退院を繰り返したりはしたのですが、101歳を迎えたときにお花を持っていったんです。そしたらすごく喜んでくれて。
102歳の誕生日を迎えるあたりで体調が悪化してしまい、予後が1週間くらいかなという状況の中誕生日を迎えました。その日もお花を持っていって。もう声がはっきり出る状態ではなかったですが、息子さんと一緒に過ごしました。
その1週間後の往診のとき、息子さんもいて、私が到着する直前に呼吸が止まったんですよね。最期まで自らの意思を示して、家族が周りにいて私が到着するタイミングで亡くなる。
最期まできちんとされていた方だなって。そんな方の最期を看取れて、本当にありがたい経験をさせてもらったなと思いました。

全人的医療で患者さんの価値観を大切にする

ー先生が診療で大切にされていることは何ですか

普段スタッフにもよく言っているのですが「患者さんの価値観を大切にする」ということです。
もちろん年齢的にまだ「手術をした方があなたの人生元気に過ごせるよ」と思えば説得はします。しかし基本的には本人の思っている方向性、価値観を重視した診療をやっていくということを1番大事にしています。
医学的な部分はエビデンスがあり、ある程度答えがある。しかし人間は合理的ではない選択をすることも多々あります。でもそれは否定できない。プライマリ・ケア医をやっていると色々と考える要因が増えるので、一般的ではない選択肢を選ばざるを得ないこともでてきます。

BPSモデル(バイオ・サイコ・ソーシャルモデル:生物心理社会モデル)というものがあります。患者さんの病気を診るときに、生物学的側面、心理学的側面、社会学的側面から包括的に評価するというモデルです。

BPSモデル
B:Biology(生物的要素)・・・健康状態や病状、ADLの状況など
P:Psychological(心理的要素)・・・心理状態や医師、志向、宗教など
S:Social(社会的要素)・・・家族や親族、友人などの関係、金銭面、生活環境など
生物、心理、社会的要素は、それぞれ別の問題ではなく、総合的に理解して問題に介入する【全人的医療】であるという考え。
参照)名古屋大学|Bio-Psycho-Social model

やはり病院だとB(生物的要素)の部分が中心の話になるのは当然です。しかし、プライマリ・ケア医、家庭医療専門医になると、この3点の様々な面から問題を捉える必要があると思います。
プライマリ・ケア医は色々な側面からその人の人生を支えることができて、場合によっては最期を一緒に過ごす。それがやりがいであり、1番面白いところなんだと思っています。

組織を大きくすれば患者さん・スタッフの幸せに貢献できる

ー平山先生のクリニックの課題は現在何だと思いますか

一応私はワークライフバランス推進派なのですが、現状は私が365日オンコール対応をしています。
昨日は職場の歓送迎会で、今日は子どもにせがまれて大分のテーマパークに連れて行ったのですが、やはりそのようなときは電話が鳴らないように祈るという状況です。よくないとは思いつつこれが現状ですね。
私が学会などで土日不在などになるときは、知り合いの先生などにお願いしてオンコール待機してもらったりしています。
なので、今後は最低でも常勤の医師を3~4人以上にしてオンコールを分散する必要があると考えています。

ー先生の今後の目標を教えてください

ワークライフバランスを取れるような職場作りをするためにも、自身のクリニックを大きくしていきたいですね。
医師の人数も増やして、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所も作る。看護師を増員してケアマネージャーも入れて、患者さんを包括的に診れるような組織作りが最低限必要です。
さきほどお話した課題についても、クリニックを大きくすることによって解決することは多いでしょう。

私たちのミッションは患者さんの幸せに貢献するということです。
訪問診療は1つの手段でありますが、今後もっと広く関わっていきたいなと思っています。
実際に訪問診療で働いていて感じるのが、医療と介護サービスの中で賄えない部分があるということです。
医療依存度が高く重症な状態で今以上にサービスが必要だけれどもサービスの枠がない方や、軽症でサービス枠自体が少ない人など。でもサービスが必要というときに、そこを支える組織を作っていきたいです。
他には、管理栄養士や看護師が在駐して、嚥下機能が低下していたり、食事に制限があったりする人でも家族と一緒に外食ができる場所が作れたら楽しそうだと考えています。

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この記事を書いた人

岡村 奈津子

医療ライター/薬剤師。昭和大学薬学部卒。病院、ドラッグストア、薬局と様々な分野で経験を積み、現在は地域医療、在宅医療に注力。薬剤師として臨床の現場で働きながら、医療ライターを行っている。多くの人へわかりやすい医療の情報と、医療従事者の姿を届けるべく執筆活動中。

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