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地域が独自にもつ課題の解決が少子高齢化の日本を支える|国民健康保険深浦診療所 |平野貴大 先生

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今回は、国民健康保険深浦診療所の平野貴大先生にお話を伺いました。

地域医療は、日本全体が抱える課題の最先端にあるとのこと。地域が独自にもつ小さな課題を一つずつ解決していけば、国の課題解決に近づくとお話しいただきました。

国民健康保険深浦診療所 医員
平野 貴大 先生

自治医科大学を卒業後、総合診療医として地域医療に従事し、少子高齢化対策としての「地域づくり」に貢献。この経験から、認定 NPO 法人ムラのミライに加わり、メタファシリテーションの講師、研修事業の企画・運営を手がける一方で、総合診療医としても地域医療に貢献を続ける。また、へき地において現場で継続的に利用される遠隔医療の実装を目指し活動中。青森県庁において保健医療政策アドバイザー、へき地オンライン診療支援アドバイザーも併任。

医師の周りにおける人手不足が深刻化してきている

―へき地の地域医療や在宅医療に関する課題について教えてください

少子高齢化によって医療と介護の需要が増えていますが「需要に対して供給(人的資本)が同時に減っていること」が課題かと思っています。少子高齢化が進んでいくと、2050年くらいには、労働人口にも関係する生産年齢人口が25%程度減少すると言われています。この数値は日本全体の推計のため、自治体によっては生産年齢人口がより減少することも予想されます。

たとえば、今10人で業務を行っている部署が7〜8人のスタッフで対応しないといけなくなると考えれば、かなり大変だと思いませんか?医療・介護の需要が増えていくのに、一緒に働いてくれる人がどんどん減っていきます。部署のスタッフが2~3割減ったときに、今の業務が継続できるのだろうか?という現実を突きつけられるようになるのです。

ー青森県独自の特徴や課題はありますか

青森県は以前から医師不足と言われ続けてきました。医師が少ないことで、中核病院と他の医療機関との役割分担がはっきりしている印象を臨床をしていて感じます。そういった意味で、かえって地域連携がとれているのが特徴でしょうか。

課題は、医師不足に加えて他の医療・介護従事者の不足が深刻になってきていることです。たとえば、看護師不足により病棟が閉鎖するという話を耳にすることがあります。あとは、ケアマネジャーさんも私が知っている限りでは、若い担い手が減少しているように感じます。最近は介護・福祉分野よりも、工場勤務など資格をとらなくてもできる給与の条件がよい就職先も増えてきたことで、介護に携わる方から、採用に苦慮しているという話も耳にします。

人手不足を人数で解決するのは困難

―人手不足を解決するためには、単純に人材の確保を考えればよいのでしょうか?

短期的な方法としては、人材の流動性を上げることが重要だと思います。医師に関してはすでに初期研修における地域研修、後期研修における実習など短期間の雇用が受け入れられる状況があると思っています。同様に、看護師さんが短期間でも青森に行きやすいような体制をつくることです。へき地の傾向として、その地域出身の看護師さんしかいないことがあります。そこに短期的にでもいいので、研修で半年~1年くらい外部から看護師さんが来てくれる仕組みがあればいいと考えています。

発展途上国での医療支援を行っている「ジャパンハート」が運営しているRIKAjobという離島・へき地医療の看護師を支援する取り組みがあり、実際に大間病院に勤務していたときに、看護師をご紹介していただきました。外部の方の新鮮な視点が入ることで、今まで言語化されてなかった仕事方法が言語化されるきっかけになり、マニュアルが洗練されたりしました。しかしながら、日本全体の人口が減少していく中で、これから先も遠方から人が来てくれるとは限りません。

そこで、中長期的な方法としては、看護師さんの仕事をタスクシェア・ICT・業務の見直しなどの方法で効率化していくことです。例えば大間病院の時の話ですが、同僚の医師と看護師さんの残業を減らすために、医師の働き方を見直し、入院患者さんへの指示出しの時間を早めることで、残業を減らす取り組みなどを実施しました。

ーオンライン診療は解決策になりそうでしょうか?

やり方によっては、へき地における医師の人手不足解消につながる可能性はあると考えていますが、へき地でのオンライン診療はなかなか普及していないのが現状です。その理由として2つあると考えています。

1つは今普及し始めているオンライン診療、いわゆる「D to P」と言われる医師と患者さんを直接通信機器でつないで診療を行う方法がありますが、へき地の患者さんは高齢者の割合が多いです。実際に、深浦診療所の患者層を見ると、一番多い層が80~90歳です。この年代の方がご自身でPCやスマートフォンを使ってオンライン診療を実施するのは難しく、なかなかへき地においてはオンライン診療が進んでいません。

もう1つの理由は、へき地の医療機関がオンライン診療を始めるために医師や事務の業務内容を大幅に変更する必要があるということがあげられます。オンライン診療を外来の合間に行うのか、それともオンライン診療を行うために医師に待機してもらうのか、会計の仕組みの調整、薬がうまく患者さんに届くかなど、運用の調整も必要です。オンライン診療を行うための運用を整備する時間的な余裕がとれない医療機関も多いのではないかと思います。

へき地医療において、もしオンライン診療を役立てるのであれば、現在行っている業務の中でオンライン診療を部分的に導入していくという方法が考えられます。たとえば訪問看護師さんが患者さんを診て、何かおかしいと思ったときにその場で医師とオンラインでつなぐなどの形です。こういった医師と患者さんの間に看護師さんが介在するオンライン診療はD to Pに対して「D to P with N」と呼ばれます。

看護師さんが在宅の現場から必要に応じて医師に連絡をとるので、医師は病院の仕事をしながらオンライン診療ができます。現在国では巡回診療やへき地診療所での医師の支援にオンライン診療を使っていく方向で動きがありますが、今後へき地医療においてオンライン診療をどのようにうまく取り入れていくかは、しっかり考えていく必要があると思っています。
今はへき地医療機関の外来に通院している患者さんは、公共の交通機関を使ったり、家族に送り迎えしてもらったりして来院していただいています。そういった手段がさまざまな理由で使えなくなったときに、集落単位でD to P with Nのようなオンライン診療システムが役に立つかもしれません。

地域が独自にもつ課題の解決が少子高齢化の日本を支える

ーこれからの地域医療がどのように発展していけばよいと思いますか

地域ごとに抱える独自の問題を掘り下げて、小さな解決の積み重ねをしていくことが重要だと考えています。というのも、何か一つの発明や、制度の変更で今抱えている少子高齢化に関連する課題が一気によくなることは難しいのではないかと考えているからです。たとえば診療報酬において、何かの点数が増えたからといって、少子高齢化における医療需給が改善したり、医療問題が解決したりするということは想像しづらいのではないかと思います。

大切なのは、その地域独自の小さな課題解決の積み重ねです。日本全体の傾向として少子高齢化に伴う、人材不足という大きな課題はありますが、地域ごとにどのような形で表出するかは地域ごとに異なることが予想されます。そのため、今その地域でおきている事例を集め、掘り下げて課題を見つけ、解決していく必要があると思います。

地域ごとの取り組みを紹介した事例集などもありますが、どこかの地域でうまくいった取り組みというものは、その地域での今までの積み重ねがあって初めて実施できるもので、形だけ他の地域で真似てもなかなかうまくいかないのが現状です。
地域医療が、そこに住む方と地域の個別課題を丁寧に解決できるようなものになっていくとよいと思います。

―地域ごとの課題を明確にするためには、メタファシリテーションが有効なのでしょうか

一つの手段として有効だと考えています。いろいろなやり方があるとは思いますが、そのやり方の一つとして、事実ベースで確認していき、地域における合意形成をもとに課題を解決するプロセスを経ていくことは非常に大切です。

地域住民の生活実態について、医師はわからないことが多いと思います。たとえば、農業や漁業をしている方の暮らしを体験したことがなければ、その地域の方のことはわからないと思うのです。住民がどういう人生を歩んできたのか、一つずつ事実ベースで聞くと、過去にうまくいっていたやり方が現在の状況に合っていないなど、課題として出てくることがあります。

このプロセスを住民の方々と一緒に行っていくことで、地域に対しての課題が住民の方々の自分ごとになり、積極的な課題解決に結びついていくのではないかという期待があります。

今後、地域医療に携わる方へのメッセージをお願いいたします

ニュースで取り上げられるような社会課題は、みなさんの地域の身近な困りごとと、どこかでつながっているのではないかと思っています。日々そういった地域の困りごとに業務として関わる地域医療は、日本の課題解決の最先端の現場だと思っています。真摯に地域医療に取り組むことが、日本の課題解決の一助になるというところに私はやりがいを感じています。ぜひみなさんの身近な地域で、地域医療に携わっていただき、このやりがいを共有できたら嬉しいです。

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この記事を書いた人

すずや

医療・介護ライター/理学療法士。2008年理学療法士免許取得。介護老人保健施設に勤務し、入所・通所・訪問リハビリに携わる。理学療法士として働くかたわら、ライター業を行う。保険制度や医療・介護系職種のキャリア、疾患やリハビリについての記事作成を専門とする。

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