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変わらずにそばに。移行期医療を在宅医療で支える|にじのわクリニック院長|角田知之先生

変わらずにそばに。移行期医療を在宅医療で支える|にじのわクリニック院長|角田知之先生

医療的ケア児とは、医学の進歩を背景とし、NICU(新生児特定集中治療室)等に長期入院後、人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子どもたちのこと。日本の医療的ケア児は、現在約2万人(推計・2021年時点)といわれています。
今回は、医療的ケア児とその家族を在宅医療で支えている、にじのわクリニックの院長、角田知之先生にお話を伺いました。
現在の日本における小児在宅医療の背景や課題、にじのわクリニックにおける取り組みについて教えていただきました。

にじのわクリニック 院長
角田 知之 先生

2007年に東京医科歯科大学医学部医学科卒業。湘南鎌倉総合病院、済生会横浜市東部病院、同院重症心身障害児者施設での勤務を経て、2021年4月からはるたか会あおぞら診療所で訪問診療に従事。2023年11月横浜市に「にじのわクリニック」を開設。0歳から高齢者までの全年齢を対象とした訪問診療を展開。小児在宅医療や成人移行症例を中心としつつ、高齢者の在宅見取りにまで対応した、全世代に向けた24時間体制の在宅医療を提供している。

近年ニーズが高まる小児在宅医療

ー最初に、小児在宅医療をとりまく背景について教えてください。

現在、当院で在宅医療を受けている子どもの疾患は、脳性麻痺と先天性神経疾患、遺伝子・染色体異常症でそれぞれ約20%、後天性神経疾患が約10%、その他に自閉症や固形腫瘍、血液悪性腫瘍といった割合です。在宅医療を受けている子どもの多くが「医療的ケア児」と呼ばれる、人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子どもたちです。

医療的ケア児の数は、直近15年間で約2倍増加。そして、人工呼吸器装着児は直近15年で約20倍に増加しています。その背景としては、本邦の新生児・小児医療体制の整備、人工呼吸器などの医療機器や技術の進歩により、小児の生存率が向上したことが挙げられます。
医療的ケア児の増加により、小児在宅医療のニーズはここ数年で急速に増しているのです。

小児在宅医が小児期医療と成人期医療を繋ぐ「架け橋」に

ー現在ニーズが高まるなか、小児在宅医療の分野ではどういったことが課題になっているのでしょうか?

一つは「移行期医療(トランジション)」だと考えています。

移行期医療(トランジション)とは、小児期に発症した疾患を継続的に診療していくなかで、小児医療から成人医療へシームレスに移行することを目指す医療の形です。診療科が小児科から一般内科などに移行するというだけでなく、医療サポート体制が大きく変わるため、患者さんとその家族に対して移行に際して必要な支援をしていくことが求められます。

医療的ケア児の場合、小児期は複数の診療科で手厚く診る傾向のなか、成人期に移行すると継続して管理しなければならない診療科以外は終診となったり、在宅医に一本化されてしまい病院への定期通院が途絶え、緊急時の受け入れ先病院が決まらないといった場合もあることから、親御さんが不安になってしまうことがあります。くわえて、患者さんの状態的な理由により親御さんが一般成人診療科へ連れて行くという形になじめず、診療がうまくいかなくなるケースもあります。

また、医療的ケア児に対する小児領域の看護は、成人に対する看護とまったくアプローチが異なります。小児領域では概して“個別性が高い点”が特徴で、出生後にNICUから在宅に移行するために、看護師が親御さんと「その子に合ったケアの仕方」を共に考えたり、教育したりしていきます。
そのため親御さんは、個別性の高いケアが当たり前だと思い、成人になっても継続する傾向にあるのです。しかし、18歳を迎えた段階で緊急で一般内科へ入院となったときに、小児期と成人期の看護やケアのギャップについていけず、不信感が生まれて病院とトラブルになるケースがあります。


ー小児医療と成人医療の考え方の違いに、患者さんとその家族がついていけず取り残されてしまうことで起きている問題だといえますね。解決策はあるのでしょうか?

私のような小児科医が、在宅医療という形で介入することで、こうしたケースを小児期から成人期までシームレスに診られると考えています。「変わらずに傍にいてくれる医療者」がいることでサポートできることは多くあると感じています。

また、現在の医療体制にも課題はありますが、患者さんやそのご家族側の「認識」を年齢とともに変えていくことも必要ですね。私たち小児在宅医が小児期から長く寄り添い、一緒に移行期の準備をしていく、意思決定を一緒におこなっていくことで安心して、成人期を迎えるようにお手伝いしたいと思っています。

看取ったあとも視野に、在宅での関わりかた

ー移行期医療のほかに、考えられる課題はあるのでしょうか?

横浜市ではまだ終末期の小児を在宅で看取るという例が少ないのではと感じています。当然さまざまなケースがあるため、自宅で看取ることが最善というわけではありませんが、病院や家族にとってもまだ選択肢の一つとして考えられる状況にないのであれば課題だと考えています。

ーにじのわクリニックでは、「在宅看取り」に対して、どのような取り組みを進めているのでしょうか?

小児の在宅看取りが行われている地域では、白血病や脳腫瘍などの疾患で治療不応や予後不良が予想されると、病院から在宅クリニックへ早めに連携できる体制があります。早期に情報交換をおこない、スムーズに在宅移行ができるようになっているのです。

これまで横浜市内では小児の在宅看取りの“土壌”がなかったため、病院の先生方にとっても、あまりイメージが湧かないのが現状だと思います。まずは在宅クリニック側が終末期の子どもを受けられる体制を作り、そのうえで病院の先生方と連携できるシステムの構築が必要と考えています。

ー成人の在宅看取りの場合とは連携の体制が異なる印象です。なぜ小児と成人で在宅看取りに違いがあるのでしょうか?

小児の場合には、“治療をあきらめる”という決断が困難で、在宅移行後もできる限りの在宅治療・管理をおこなうケースが少なくない印象です。例えば、輸液ポンプやシリンジポンプを何台も自宅に置いたり、人工呼吸器も導入して最期まで呼吸補助をおこなったりすることもあります。

最期までできる限りの治療をする、ご家族のそういった気持ちに応えていく――。

成人の看取りのように、在宅移行後は緩和ケア一本としない理由です。患者さんが亡くなった後、残される親御さんや家族のことを想えば、その気持ちに寄り添うことも大切だと思っています。
そのため、にじのわクリニックでは緩和医療や中心静脈栄養管理をはじめとし、人工呼吸器管理や輸血にも対応できるようにしています。

また、患者さんだけでなく、不安な気持ちでいる家族をサポートするためにも、看護ステーションなどの連携施設と綿密にコミュニケーションをとることも不可欠ですね。

ーありがとうございます。最後に小児在宅医療に従事してみたい方へメッセージいただけますでしょうか?

はい。障害や病気をかかえながらも、その子なりのペースで成長発達するのをサポートできることは、高齢者医療とは違った意味でとてもやりがいのある領域です。

小児在宅では、珍しい病気の子どもも多いため「少し特殊」という印象を持つ方も多いと思います。実際に、私も初めて聞く病名に遭遇することは多々あります(笑)少し慣れてくるとそれぞれの病気で考えるのではなく、病態に応じてパターン化した対応を考えられるようになり、診療の幅を広げられるので安心してください。

また、ある意味では在宅医が一人で抱え込まなくても大丈夫な領域でもあります。医療的ケア児の場合は、基本的に病院と一緒に「ダブル主治医制」をとっているので、必要な治療の程度に応じて高度医療実施医療機関・地域医療機関・在宅クリニックで分業しています。そのため、在宅クリニックでは手に負えない場合には、すぐに病院での主治医と連携できる体制があることがほとんどです。一人で抱え込まずに他の医療機関の医師に相談するといいですね。

現在、小児在宅のニーズが高まり、小児在宅医の手が本当に足りません。在宅で気管カニューレや胃ろうを交換できるだけでも大変助かります。できることから始めてもらえればと思います。

この記事を書いた人

塩見 友香

薬剤師/ライター。大学卒業後、総合病院に勤務し、内科・泌尿器科・透析科・循環器科での服薬指導を経験。日本糖尿病指導療法士、栄養サポートチーム専門療法士、心不全指導療法士の資格を有する。現在は未就学児2人を子育てしながら病院薬剤師として従事、現場経験をもとに医療ライターを行う。

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