他職種を雇用しても経営が成り立つ在宅診療クリニックを作る|ファミリーケアクリニック吉祥寺|中西貴大先生
ファミリーケアクリニック吉祥寺は、医師・看護師・管理栄養士・放射線技師・アシスタント・事務員・ドライバーと多職種が在籍する在宅診療クリニックです。
院長を務める中西貴大先生は、クリニック立ち上げ当初から多職種を採用し、チームで武蔵野市の在宅医療を支えています。
中西先生に在宅診療所に多職種を在籍させる想いや経営についてお伺いしました。
ファミリーケアクリニック吉祥寺 院長
中西 貴大 先生
2015年三重大学医学部卒業。湘南鎌倉総合病院で初期研修を修了後、練馬光が丘病院、東京都立多摩総合医療センター等で勤務し、救急・集中治療から東京や鹿児島、沖縄の離島・地域診療、在宅・緩和ケアにも従事していた。また学生時代よりラオスでの診療所建設を行い、その後もアジア・アフリカで医療支援活動を行ってきた。コロナ禍を経て、地域の困りごとに応え、在宅でも断らない医療の重要性を痛感し、2022年に東京都の吉祥寺で開業。現在ファミリーケアクリニック吉祥寺の院長として、安心して暮らせる地域を目指してスタッフ一丸となり診療や地域活動を行っている。
さまざまな職種や立場の意見や考えがあるクリニック作り
ー中西先生のクリニックについて紹介してください。
ファミリーケアクリニック吉祥寺は、医師・看護師・管理栄養士・社会福祉士など、さまざまな資格を持ったスタッフが在籍しています。
また、当クリニックではコーディネーターとよばれるアシスタントと事務員も在籍しています。
さまざまな職種や立場のスタッフがいますが、職種間の垣根は非常に低いです。フラットに意見を出し合いながら、患者さんのために活動しています。
クリニックとしても「患者さんを断らない」という精神のもとに、0歳児から100歳超えまで、多くの患者さんを診察しています。
ー多職種が在籍する在宅診療クリニックを立ち上げた中西先生の想いをお聞かせください。
地域の中で在宅診療をする医師、訪問看護師、ケアマネージャーがそれぞれの事業所に在籍し、それぞれ患者さんの自宅へ訪問する施設が多いと思います。
そのような場合でも、多職種連携ツールなどを使用して情報のやり取りは問題なくできます。しかし、細かいやり取りやスピーディなやり取りは、事業所が変わるとハードルが高くなるのは事実です。
私は、クリニック内で多職種が話せる、密なコミュニケーションがとれることが非常に重要だと考えています。密なコミュニケーションを取り、多職種で話し合うからこそ意見の偏りを回避できる。
その考えのもと、ファミリーケアクリニック吉祥寺は立ち上げ当初から多職種を採用しています。
医師や看護師からは病気や治療に関する意見が主に出るでしょう。管理栄養士は食事という比較的日常に近い部分からの意見を出すことができます。
コーディネーターは資格がないからこそ、フラットに患者さんの目線に立った意見を出せることがある。
それぞれの職種・立場の考えや意見がグラデーションの様に存在するのが、クリニックのためにも患者さんのためにも非常に良いと考えています。
チーム編成でお互いリンクしながら在宅医療に取り組む
ー多職種で密にコミュニケーションがとれるのはとても良いですね。それぞれの
活動やクリニック内での交流などがあれば教えてください。
私たちのクリニックでは医師チームの他に、看護師・管理栄養士・コーディネーターで「コーディネーターチーム」を編成しています。その中でさらに看護師チームと、管理栄養士とコーディネーターで編成するコーディネーターチームに枝分かれしています。
私たちのクリニックでは、各職種が別々に仕事をするというよりは、それぞれの専門性の高い仕事を行いつつ、仕事内容がオーバーラップしたりリンクしたりすることも多いです。スタッフ全員が自分のスペシャリストとしての仕事をしつつ、クリニック全体の仕事もしたり、それぞれの仕事をフォローしたりして、臨機応変に動いています。
院内では勉強会や症例報告なども行っています。スタッフの年齢も近く、密にコミュニケーションをとれて、風通しも良い雰囲気なので、ありがたいことに人間関係で困ることはありません。
管理栄養士が介入することで細やかなフォローアップが可能に
ーファミリーケアクリニック吉祥寺では常勤の管理栄養士が在籍していることが非常に大きな特徴だと思います。活動やメリットについて教えてください。
管理栄養士は、糖尿病や生活習慣病、腎臓病などの疾患に介入するイメージがあると思います。
しかし在宅医療の現場では、食事摂取自体が難しくなってきているという方も非常に多いです。その下り坂のところを支えるというのは、訪問栄養指導の特徴かなと思います。
訪問栄養指導は月に2回算定可能です。精神的に不安定、不安感が強い、こまめにチェックしたいというような方に、訪問栄養と在宅診療が隔週で入ると、毎週患者さんの状況をスタッフが確認できます。
管理栄養士は在宅診療にも同行するため、管理栄養士は患者さんに毎週会います。さらに訪問栄養指導は1回30分以上と決められているので、患者さんとゆっくり話すことが出来る。それだけで患者さんからの信頼を得られ、患者さんの安心感が増えて気持ちが落ち着くことも多いのです。そうしたことがきっかけで実際に抗不安薬が減量できた方もいらっしゃいました。
実際にあったケースです。私たちが在宅診療に行く度に「生協が頼んでない物を持ってくる」と言う認知症の患者さんがいました。
しかしそれは本人が間違った番号で頼んでおり、本人もそれを覚えていない。医師や看護師はそれがわかっても見てあげられる余裕はありません。
そのような患者さんに、訪問栄養指導が入るタイミングで管理栄養士が患者さんの注文をお手伝いさせていただきました。本人は非常に喜び、一緒に関わっていたケアマネジャーさんやヘルパーさんにも感謝していただけました。患者さんの尊厳を保持しつつ、介入できた例です。
診療や治療でカバーしきれない部分を、管理栄養士が患者さんと良い関係性を築いて埋められることに大きな可能性を感じています。
働き方を工夫して他職種雇用でも人件費の効率を下げない
訪問栄養指導は介護保険の区分支給限度額に含まれないため、訪問介護や訪問看護で単位がいっぱいな方でも、訪問栄養指導は追加で介入することが可能です。
本来であれば2週間に1回、居宅療養管理指導と訪問栄養指導を同日に算定した方が人件費の効率化も図れるのですが、ファミリーケアクリニック吉祥寺では敢えて算定をずらしています。
- 2週間に1回医師の訪問診療に管理栄養士はアシスタントとして同行する
- 医師の訪問診療がない日に管理栄養士が訪問栄養指導をする
管理栄養士が毎週患者さんのお宅を訪問することによる、患者さんが安心したり、信頼したりする効果を考えてです。
今後「訪問栄養に入ってもらいたいからこのクリニックにした」「訪問栄養をしてもらいたいからこのクリニックに紹介したい」というケースが十分考えられますし、そうなるような活動をしていきたいです。
ー経営者としては多職種の雇用や経営面のメリットやデメリットをどうお考えですか?
多職種を採用することで、経営の難しさが生じる場合もあります。
しかし、それぞれの職種でスペシャリストの業務とスタンダートの業務をうまく組み合わせることにより、無駄な人件費を増やすこともありません。雇用もしやすくなって経営面でのデメリットも軽減できると考えています。
例えば管理栄養士の業務でも、訪問栄養指導のスペシャリストの業務を行ってもらいつつ、その他の時間は診療の同行をアシスタントとして行う。
服薬状況に懸念がある方の場合は、訪問栄養指導に行ったタイミングで、服薬状況をチェックしてきてもらうこともあります。
スペシャリストとしての仕事もしながら、クリニックとしての業務や多職種の仕事もリンクしながら、より患者さんのためになるように動いています。
[多職種がリンクして在宅診療するイメージ]
他職種がいることで、患者さんにもクリニックにもメリットを
ー中西先生を中心に、みなさんが患者さんのためにオールラウンダーとして動かれているのですね。これから増やしていきたいと考えているスペシャリストはいらっしゃいますか?
臨床心理士さんに入ってもらえるとより充実するのではないかと考えています。癌末期の方、それもお若い方と関わらせていただくケースもあるため、そうした方やそのご家族、お亡くなりになった後でもサポートできるような環境を築いていきたいと考えています。
現在臨床心理士さんを採用している施設も、おそらく週1回の非常勤などが多いのではないでしょうか。それをファミリーケアクリニック吉祥寺の勤務体系と同様に、臨床心理士の高い専門性が常にある中で、空いている時間はアシスタントの業務をしてもらうような形で常勤採用できたら面白いかなと思っているんです。
ーこれからどんどん進化していきそうですね。今後クリニックはどのようにしていきたいですか?
地域医療を行うにあたり、患者さんにアプローチする手段は病気や医学の分野だけではありません。
他職種がいるクリニックだからこそ、患者さんにさまざまな手段でアプローチしていきたい。
地域にあるクリニックとして患者さんに受け入れられるため、そして自分たちが高まっていけるため、多職種の連携や地域との交流をより深めていけたらと思っています。
現在も地域事業所向けの勉強会や懇親会を定期的に開催しているのですが、日々の診療に加えて、そうしたつながりの中で、地域医療の拠りどころになっていきたいと考えています。