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2024年度の診療報酬改定では、在宅医療分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が大きく前進しました。「在宅医療DX情報活用加算」が新設され、オンライン資格確認や電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスといったICTインフラの活用が初めて評価の対象となりました。
そして2025年6月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)」を閣議決定。2026年度の次期診療報酬改定を含む医療政策の大枠を定める内容となっています。
本記事では、2026年度改定に向けた在宅医療・訪問診療の動向を、「医療DX」「アウトカム評価への転換」「処遇改善」の観点から予測します。
1|医療DXの評価は「導入」から「活用と成果」へ進化
2024年度に新設された「在宅医療DX情報活用加算」は、ICT環境を整備していること自体が評価対象でしたが、2026年度にはその一歩先、「どのように活用したか」「どのような成果が出たか(=アウトカム)」が問われるフェーズに移行する可能性が高いと見られます。
中医協(中央社会保険医療協議会)では、2026年度診療報酬改定について、これまでの「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカム(成果)を重視した診療報酬評価」へ段階的に移行すべきだという議論がなされています。
たとえば、疾患の悪化予防、再入院の回避、看取りの質向上など、患者や家族にとっての「結果」に基づいた診療報酬評価が導入される可能性があります。今後は「何を提供したか」ではなく、「何をもたらしたか」が評価される時代に入るといえるでしょう。
2|多職種連携の“質”が加算評価の対象に
在宅医療において、医師や看護師、ケアマネジャーといった多職種間の連携は不可欠です。
2026年度の改定では、ICTの活用に加え、特に専門的なケアにおける連携の「質」が評価の対象になると考えられます。2024年度改定で栄養サポートや認知症ケアにおける連携体制が重視されたように 、今後はさらに一歩進み、具体的な介入実績が問われるでしょう。
例えば、低栄養リスクのある患者に対し、管理栄養士を含む栄養サポートチームが共同で策定した計画に基づき状態改善を達成したケースや、認知症の周辺症状(BPSD)に対し、専門医や精神保健福祉士と連携して具体的なケア方針を立て、症状を緩和させた実績などが、新たな加算評価の対象として想定されます。
3|オンライン診療・遠隔看護の普及拡大も後押し
コロナ禍を機に外来で普及したオンライン診療ですが、その活用場面が大きく広がりつつあります。
例えば、へき地医療における看護師との連携(D to P with N)や、難病患者の専門医への相談(D to P with D)、ICTを活用した在宅での看取り(遠隔死亡診断の補助)など、より専門的なニーズに応えられるような評価が広がっています。
2026年度にはこの流れがさらに加速し、単なる診察の代替にとどまらず、多様な医療シーンでオンライン活用を標準とするための評価が拡充されると予想されます。訪問看護ステーションと連携した遠隔モニタリングや特定の疾患に特化した専門家チームによる遠隔カンファレンスなど、質の高い医療を効率的に提供するための具体的な活用方法が、新たな加算として評価されていくでしょう。
4|骨太方針2025が示す「処遇改善」への本格転換
2025年6月に閣議決定された「骨太方針2025」では、医療・介護・福祉職の処遇改善と賃上げを明確に打ち出しました。
これまでの「自然増抑制方針」から転換し、物価・人件費の上昇を考慮した報酬改定を行う方針です。
在宅医療に携わる職員に対しても、何らかの処遇改善策や加算の見直しが進められることが期待されます。
5|「コストカット型」から「質と成果の重視」へ
骨太方針は「公定価格制度の見直し」も掲げています。これは、医療・介護・福祉などの「公定価格」によってサービス価格が固定されている分野において、過度なコスト抑制を見直し、質の高いサービスを提供するための適正な価格設定を行うという意味です。
この流れを受け、2026年度診療報酬改定では、「安く抑える」から「質と成果に見合った報酬」へと明確な転換が進むと予想されます。
まとめ|医療DXとアウトカム評価が中核に。「成果で報われる」在宅医療へ
2026年度の診療報酬改定では、在宅医療分野における医療DXの推進は「導入」から「活用」へ、そして報酬評価は「アウトカム」重視へと本格的に転換すると考えられます。
加えて、「骨太方針2025」が示した処遇改善や物価対応の方針も追い風となり、在宅医療機関の経営と人材確保に大きな意味を持つ改定となるでしょう。
在宅医療機関においては、今のうちからICT環境の整備と、アウトカムを意識したケアの運用体制を構築することが、次期改定を乗り越えるための最大の備えとなります。