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厚生労働省は7月1日に第7回「医療DX令和ビジョン2030」を開催し、日本の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるための新たな方針を打ち出しました。特に、普及が課題となっている電子処方箋については、これまでの目標を大きく見直し、電子カルテの導入と一体で推進する新戦略へと舵を切ります。この動きは、地域包括ケアシステムの要である在宅医療の質の向上にも大きく寄与するものと期待されています。
【電子処方箋の新目標】普及の鍵は電子カルテとの一体導入
これまで、厚労省は「2025年3月までに概ね全国の医療機関・薬局に電子処方箋を普及させる」という目標を掲げてきました。しかし、2025年6月時点で、薬局での導入率は8割を超えていますが、医療機関側の導入は約1割と低迷していました。
この状況を受け、厚労省は「医療機関において電子処方箋の導入を進めるには、電子カルテの導入が重要である」と判断。新たな目標として「患者の医療情報を共有するための電子カルテを整備するすべての医療機関への導入を目指す」ことを決定しました。
【電子カルテの普及策】2030年目標に向け「標準型」を推進
電子カルテについては、「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関で導入を目指す」という既存の目標達成に向け、具体的な普及策が示されました。
この目標達成に向け、オンプレ型の電子カルテから、いわゆるクラウドネイティブを基本とする廉価なものへと移行することを図りつつ、電子カルテの導入状況別に以下の対応を進めていくこととしています。
電子カルテ導入済の医療機関:次回更改時に、共有サービス/電子処方箋に対応するシステム改修等の実施を進める。
電子カルテ未導入の医療機関:共有サービス/電子処方箋に対応できる標準化された電子カルテの導入を進める。
そして、鍵となるのが、デジタル庁が開発を進める「標準型電子カルテ」です。本格運用の具体的内容を2025年度中に示した上で、2026年度中の完成を目指すとしています。
合わせて、2025年度中に診療所向けの電子カルテが最低限備えるべき機能や性能を定めた「標準仕様(基本ルール)」が国によって策定されます。
これは、小規模な医療機関でもコストや手間の心配なく導入できる「標準型電子カルテ」の考え方を参考にしており、主に以下の要件が盛り込まれる予定です。
①共有サービス・電子処方箋管理サービスに対応していること
②安価なクラウド型(SaaS型)であること
③関係システムへの標準APIを搭載していること
④データ引き継ぎが可能な互換性が確保できていること など
国が主導して安価で使いやすい「標準モデル」の道筋を示すことで、電子カルテの普及を一気に加速させる狙いです。
在宅医療の「情報共有の壁」を打ち破る一手へ
今回の方針は、特に多職種連携が不可欠な在宅医療の現場に大きな変革をもたらす可能性があります。
医師、訪問看護師、薬剤師、ケアマネージャーなどが異なる場所から一人の患者を支える在宅医療では、リアルタイムな情報共有が長年の課題でした。今回の改革で電子カルテ情報共有サービスの利用が広がれば、関係者が場所や時間を問わずに最新の患者情報にアクセスできるようになります。
これにより、
- より質の高い、安全な医療・ケアの提供
- 電話やFAXなどによる伝達ミスや業務負担の軽減
- 緊急時の迅速な対応
などが実現しやすくなります。また、廉価な「標準型電子カルテ」の登場は、在宅医療を担うことの多い中小規模の診療所にとって、デジタル化への大きな後押しとなるでしょう。
今後の展望:2026年夏までに具体的な普及計画策定へ
厚労省は、今回の方針に基づき、2026年夏までに電子カルテおよび共有サービスの具体的な普及計画を策定するとしています。
今回の戦略転換は、単にツールの導入を促すだけでなく、医療機関の業務フローやコスト構造にまで踏み込んだ、より現実的なアプローチと言えます。在宅医療を支える事業者にとっても、日本の医療DXの未来を左右する重要な動向として、引き続き注目が集まります。
参考)厚生労働省|電子処方箋・電子カルテの目標設定等について(令和7年7月1日)