「患者が増えて手が回らなくなってきたので、そろそろ一人目の医師を採用したい」 そう考えたとき、多くの院長や事務長が「何から手をつければいいのか分からない」という壁に直面します。
求人票の書き方や給与相場、エージェント選びなど、悩みは尽きません。
今回は、数多くの在宅医療クリニックの採用支援を行ってきた採用コンサルタントに、初めての医師採用で陥りやすい「つまずきポイント」と、採用から定着までを成功させるためのポイントを「5つのステップ」として伺いました。
1. はじめての医師採用で直面する悩み
【このステップのポイント】
- いきなり「求人票作成」から始めると失敗しやすい
- 「採用」とは「入職」+「定着」までを含む活動である
- まずは「採用目的(背景)」の整理から始める
── 初めて医師を採用しようとするクリニックが、最初につまずいてしまうポイントはどこにあるのでしょうか。
採用コンサルタント(以下、コンサルタント): 多くのクリニックが、まず「求人票の作成」からつまずいてしまいます。
具体的には、「採用基準(ペルソナ)」が曖昧なまま、誰でもいいような求人票を作成してしまっていることが多いのです。
また、「採用」と「入職後の定着」を別物と考えてしまい、採用後のサポートや教育体制までを含めた一連の流れを「採用活動」として認識できていないことも、うまくいかない大きな要因です。
そもそも採用の全体像が見えておらず、給与設計やエージェント選びで迷走してしまうケースも少なくありません。
── 訪問診療ならではの採用の難しさはありますか?
コンサルタント: 訪問診療は、求職者である医師にとって仕事内容のイメージがしづらい領域です。
「オンコールの負担が重そう」「経験者じゃないと務まらないのでは」といった懸念を持たれがちです。
こうした誤解や不安を払拭し、具体的な働き方を伝える必要がある点が、訪問診療ならではの難しさと言えます。
例:オンコール頻度は月平均○回、お看取り件数は月○回など
── 「何から手をつければいいのか分からない」という場合、まず何を整理すべきでしょうか。
コンサルタント: まずは「採用の目的」を明確にすることです。 なぜ医師が必要で、何人必要なのか。欠員の補充なのか、増患に伴う増員なのか。この「採用背景」をはっきりさせることが重要です。背景が明確になれば、求職者に対するメッセージの方向性が決まります。
その次に、ターゲットとなる医師像(ペルソナ)を設計します。そこから逆算して、給与設計や勤務内容(オンコールの有無など)を具体的に決定し、求人票に落とし込んでいく。この手順を踏むことが、採用活動の第一歩となります。
2. 採用設計の基本
【このステップのポイント】
- 求める人物像(ペルソナ)は「採用背景」と「価値観」で決める
- 条件設定は経営状況(訪問件数・OC有無)とセットで考える
- 採用は投資対効果を考えるべき「経営課題」である
── 求める医師像(ペルソナ)を決めるうえで、重要な視点は何でしょうか。
コンサルタント: 先ほども触れましたが、「採用背景」が最も重要な視点です。
例えば、増患対応で人手が足りず教育に時間を割けないなら「即戦力」が必要です。
逆に、教育体制が整っていて組織を育てたいなら「若手」でも良いでしょう。
また、クリニックの価値観や患者層、地域特性も考慮する必要があります。
特に在宅医療では、患者様のご自宅で礼儀正しく振る舞えるかといった「人柄・価値観」も重要な要素です。
年齢、キャリア、価値観、そして働き方の希望。これらを複合的に見て、自院に必要な医師像を具体化していく必要があります。
── 常勤・非常勤の区分や、報酬体系などの条件設定はどのように考えればよいですか。
コンサルタント: 経営状況とセットで考える必要があります。
1日の訪問件数やオンコール対応の有無などを踏まえ、地域の競合と比較して見劣りしない条件を設定することが大切です。
もし常勤医師での採用が難しければ、非常勤医師を組み合わせて柔軟に対応するなど、市場の状況に合わせた条件設定が求められます。
── 採用において、経営者が見落としがちな点はありますか?
コンサルタント: 「採用活動は、内定を出して終わりではない」という点です。 採用とは「採用決定」+「定着」であって初めて投資対効果が生まれます。採用活動は求人票作成から面接、条件交渉、入職後のフォローと多岐にわたり、片手間でできる業務ではありません。採用活動そのものがクリニックのブランディングにも関わるため、経営課題として捉え、丁寧な設計と運用が求められます。
3. 集客・求人戦略
【このステップのポイント】
- 条件の羅列ではなく「働くイメージ」が湧く内容にする
- 訪問診療への誤解(激務・OC負担など)を払拭する情報を出す
- 紹介会社任せにせず、自院サイトでも積極的に発信する
── 応募が集まりやすい求人票や発信には、どのような特徴がありますか。
コンサルタント: 医師に伝わる「働く魅力」を表現できているかどうかがポイントです。
単に条件を羅列するのではなく、整理した「採用背景」や「自院の強み」を求人票に反映させます。
訪問診療に対する誤解(激務、オンコール負担など)を解くために、実際の1日のスケジュールやオンコール体制の詳細、教育体制などを具体的に記載することで、医師は働くイメージを持ちやすくなります。
まずはしっかりと作り込んだ求人票を作成し、紹介会社に展開すること。
そして、自社サイトがある場合は求人情報をきちんと更新し、採用に積極的であることを発信し続けることが基本かつ効果的です。
4. 面談から入職、そして定着へ
【このステップのポイント】
- 「現場同行」でミスマッチを防ぎ、魅力を伝える
- 内定後は「家族ブロック」対策とこまめな連絡が鍵
- 入職後は「放置しない」伴走体制をつくる
── 面談ではどのようなことを確認し、伝えるべきでしょうか。
コンサルタント: 確認すべき点は、転職理由、これまでのキャリア、そして訪問診療に対する理解度や不安点です。
伝えるべきこととしては、クリニックの理念や具体的な仕事内容はもちろんですが、可能であれば「現場同行」を前提としてご案内することをお勧めします。実際の現場を体験していただくことで、訪問診療への理解が深まり、入職後のミスマッチを防ぐことができます。
── 条件交渉や内定後のフォローで注意すべき点はありますか。
コンサルタント: 医師は他院とも比較検討していることを前提に動く必要があります。
他社の条件を把握した上で、自院の提示条件を検討することはもちろんですが、内定後も放置せず、こまめにコンタクトを取り続けることが重要です。
また、もう一つ重要なのが「ご家族の同意(いわゆる“家族ブロック”の回避)」です。
医師本人が転職に前向きでも、ご家族が「訪問診療は大変そう」と反対するケースは少なくありません。
平均残業時間やオンコールの実働回数などを数字で示し、ご家族にも安心してもらえる材料を提供することが、採用担当者の腕の見せ所です。
── 採用後すぐの離職を防ぐためのフォロー体制について、事例があれば教えてください。
コンサルタント: 入職後1ヶ月程度は院長が伴走しながら引き継ぎを行う、最初から一人で患者様を任せず段階的に引き継ぐ、といった手厚いフォローが必要です。
特に看取りなどは一人に任せず、常勤医師と連携して行うなどの配慮も大切です。
また、ITツール(チャットなど)や電話を活用し、困ったときにすぐ相談できる体制を構築しておくことも、定着率を高めるために非常に効果的です。
5. 専門家の支援を活かす
【このステップのポイント】
- 採用から定着まで、自院に合った「採用の型」が作れる
- 院長が診療・経営に専念できる環境が整う
- 初めてだからこそ、ゼロから手探りではなくプロの知見を借りる
── 最後に、採用コンサルタントなどの外部支援を活用するメリットについて教えてください。
コンサルタント: 外部支援を入れる最大のメリットは、単に求人票が作られるだけでなく、「採用設計」そのものが整うことです。
採用から定着、教育までを含めた「採用の型」を法人ごとに構築することができます。
また、第三者の視点が入ることで、なぜ採用がうまくいかないのか、その原因が明確になります。
採用業務にかかる工数を減らし、院長先生やスタッフの方々が診療やコア業務に専念できる環境を作るという意味でも、ゼロから手探りで始めるより、プロの知見を活用する価値は大きいと考えます。
── 「初めての採用を成功させるための第一歩」として、メッセージをお願いします。
コンサルタント: 初めて採用活動を行うクリニックほど、外部の専門家を使う価値は大きいと思います。
最初から正しい「型」で採用活動をスタートさせることで、その後の採用や組織作りがスムーズに進みます。
まずは採用の目的を明確にし、プロのサポートを得ながら、自院に合った採用戦略を構築していくことをお勧めします。










