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在宅と救急が手を取り合えば患者によりよい選択肢を提供できる|よしき往診クリニック・京都府立医科大学 救急医療学教室|宮本 雄気 先生

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在宅医療キャリア 在宅と救急が手を取り合えば患者によりよい選択肢を提供できる よしき往診クリニック 京都府立医科大学救急医療学教室 宮本雄気

在宅医療と救急医療の2つのフィールドで活躍する医師・宮本雄気

在宅医療と救急医療。一見正反対に見える分野で活動を続ける宮本雄気医師。新型コロナウイルス感染症(※以下、コロナ)が猛威を奮った2020年、京都府内の在宅診療チームを結成するなど、救急と在宅の架け橋となるべく活動しています。

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よしき往診クリニック・京都府立医科大学 救急医療学教室
宮本 雄気 先生

2012年 京都府立医科大学卒業。湘南鎌倉総合病院・京都府立医科大学 救急医療学教室などで救急・集中治療に携わり、2016年より、よしき往診クリニックにて在宅医療にも従事。その後、東京大学 医学系研究科 公共健康医学専攻を経て2021年より現所属。2021年2月より京都府新型コロナウイルス感染症 在宅フォローアップチーム(KISA2隊)を立ち上げ、全国に先駆けて新型コロナウイルス感染症患者に対する在宅医療の提供を行った。現在も「救急医療と在宅医療が手を取り合えば医療はもっと良くなる!」をモットーに臨床から研究、社会実装まで取り組んでいる。

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救急と在宅の両方に携わるようになったきっかけ

宮本医師は現在、京都府立医科大学病院で救急医として働きながら、よしき往診クリニックで在宅医としても活躍されています。医師免許取得後、救急医療分野に身を置くなかで、救急医療における大きな課題に直面し、2017年から二足のわらじを踏むようになったといいます。なぜ、救急医療と在宅医療の両方に携わるようになったのか、そのきっかけに迫っていきましょう。

僕のキャリアは、日本で最も救急搬送が多い湘南鎌倉総合病院病院からスタートしました。アメリカの「ER」という長編ドラマを見て、救急医療は病気を治療するだけでなく、複雑な人間模様や社会背景に携われる場所であることに関心をもち、救急医を志しました。とはいえ、学生時代の僕はほとんど授業に参加せず、不真面目だったんです。

進路をあまり深く考えておらず、「バイトでもして生計を立てられればいいや」と楽観的でしたね。しかし、大学5年生のときに京都府立医科大学病院の太田凡教授と出会い、価値観が一変しました。教授が救急の症例についてあまりにも面白そうに語るので、うっかり救急医療の魅力にハマってしまったのです。

その後、救急医になることを目標に医師免許を無事に取得し、初期臨床研修が終わった頃、同大学病院に戻り救急の教室に所属しました。その教室は設立したばかりでしたが、教授の計らいで全国様々な病院で後期臨床研修を受けられることになりました。3年間のうち2年半は、僻地から都会、救命センター・ICU・PICU、そしてプライマリ・ケアに至るまで、様々な場所で経験を積みました。後期臨床研修を通じて、僕はそれぞれの地域における医療課題を実感したのと同時に、どの地域でも共通して「高齢患者の出口問題」に直面したのです。

「転院、退院が滞り続けると救急医療への負担がどんどん増えていく、どうしたら負担を減らせるのだろう」と、ずっと頭を悩ませていました。病院のリソースが限られているなか、「患者がよりよい結果を迎えられるようにしたい」と、患者、医療者どちらにとっても、望まない入院を減らすことができる方法を模索し始めたのです。

そんなとき、声をかけてくださったのが現在のよしき往診クリニックの院長、守上佳樹医師でした。「在宅クリニックをオープンするから手伝ってくれないか」と言われ、在宅医療ならば、救急医療の負担を減らし出口問題を解決に導けるかもしれないと感じたのです。問題解決のための視野を広げるため、2017年から週に1回、非常勤の在宅医として働き始めました。

高齢者救急の増加に伴う在宅医療の道筋

2020年から猛威を振るい始めたコロナの影響で救急医療がひっ迫するなか、宮本医師は感染対策の指針づくりや京都府をはじめとした在宅診療チーム「KISA2隊」の立ち上げに携わります。この在宅診療チームを結成にあたり、救急医療と在宅医療、両方の理解が役立ったのだとか。

「コロナを在宅で診る」感染対策の指針をつくり、救急の負担を減らす

2020年12月にコロナの第3波が襲い、感染者全員を入院させるのは不可能だと、各都道府県の救急医や保健所の医師が気づき始めました。特に高齢者の場合は、転倒や急変の心配が大きいので、ナースステーションに近い部屋を使用する必要があり、入院数が多いとベッドや人員が足りなくなってしまいます。そこで目をつけたのが在宅のリソースでした。高齢者救急を在宅で診る方向へと舵を切ったのです。

僕は2020年の2月からずっとコロナの論文を読み漁っていました。当時、世界で100本ほど発表されていた論文のなかから、高齢者に対応できる日本版の感染対策を独自にまとめていたのです。この資料をSNSに掲載したところ、なんと3万ダウンロードされるほどの影響力を持ち、その影響もあってか在宅医療連合学会におけるコロナの感染対策・治療指針の作成に携わらせていただくことができました。

その後、特に在宅でコロナ患者を診療したという2本の論文を基に、高齢のコロナ患者に対する在宅での急性期医療提供のプロトコルも作成しました。いずれ、在宅で急性期医療を提供する「Hospital at home」の概念がコロナ禍で必要になるだろうと、入念に準備していたことが身を結んだのです。

僕は救急と在宅の両方を理解しているからこそ、救急医療のリソースの問題に着手でき、高齢のコロナ患者を在宅で診るという日本で初めての試みを実現することができました。

地域包括ケアシステムが在宅医療の要

在宅で高齢者救急、コロナに対応していくにあたり、地域包括ケアシステムが大きな要となりました。感染拡大によって医療にアクセスできない人々が急増し、国民皆保険制度が機能しなくなった時期がありましたが、先人たちが20年かけて作ってくださった仕組みのおかげでコロナの脅威に立ち向かえたのです。

コロナ禍ではほかの医療職や介護職の方々のありがたみをとても実感しました。普段、在宅医の訪問診療の頻度は、2週間に1回程度。1回につき30分から1時間ほどで、医師が患者に関わる時間はごく僅かです。圧倒的にほかの医療職や介護職の方々が関わる時間が多く、彼らが在宅療養を支えています。そのため、彼らの役割や負担、考えを知り、チームとして分かち合うことはコロナ禍においてもとても大切でした。

僕は京都府をはじめとした在宅診療チーム「KISA2隊」を作り、コロナ患者の在宅診療に関わるなかで、一般的に医師が関与しない洗濯や料理などの生活援助にも携わりました。いつもヘルパーの方々が担ってくれている生活援助が自宅療養をどれほど支えてくれているのか、身をもって知ることができたのです。

月並みな言葉ですが、高齢者が増え、医療リソースの問題が深刻化するなかで在宅生活を維持していくには、「職種連携」と「病診連携」の意味をよく理解しておくべきだと思います。職種間、病院と在宅のギャップを埋める努力を怠ってはいけません。

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救急と在宅医療に携わることで見えた自分の役割

コロナ禍において一層、職種連携、病診連携の言葉の重みを感じたという宮本医師。改めて、救急医療と在宅医療の両方に身を置いているからこそ、自分の役割を意識したといいます。また、その役割を続けるなかで、医療が患者に寄与できるものはなんなのか教えていただきました。

救急と在宅の相互理解を深める

高齢者救急が増加している現状、救急と在宅の両方がうまくリソースを活用するためには、相互理解を深めることが大事だと思います。

例えば、在宅医から紹介を受け、患者が救急に送られてくるとき。搬送の背景や在宅の考えを知らなければ、「仕事が増えた」とストレスが貯まる一方です。地域においても、介護リソースを救急医がよく理解しておらず、退院後のフォローアップがうまくいかないケースもあるでしょう。

しかし、相互理解があれば、責任を持って自分の役割を果たせますし、お互いの負担を減らす努力ができるはずです。

救急と在宅、どちらの気持ちも理解できる僕の役割は、お互いの疎通を図り、問題点を打ち明ける機会をつくり、交通整理していくことだと思っています。僕のような救急と在宅の気持ちを理解している人が、橋渡し役となって、両者が手を取り合うことができれば、医療リソースの問題だけでなく、患者にとってもよりよい医療の選択肢を提供できるでしょう。

患者のよりよい「生」を支えるのは

救急と在宅が手を取り合うことは、我々の中に複数の手札を用意しておくことができ、患者のよりよい「生の選択」にもつながると思っています。患者には病院医療、施設の入所、在宅医療の継続と、大きく分けて3つの選択肢があります。しかし、「酸素吸入が必要だから在宅生活は続けられません」だと、手札が少なすぎますよね。

在宅に限らず、その人にあった場所や方法の選択が用意されていることは、間違いなく患者にとってよい状態でしょう。選択肢が多くて悩ませてしまう場合は、医療者が一緒に考えればよいのです。看取りになるまでずっと選択肢が減らない状態を作っておくことは、よりよい生命の質につながると思います。

さらに、選択肢を多く提供できるということは、よりよい「生」について考える機会を設けられると考えています。家族や地域コミュニティなど、さまざまな在宅医療のリソースを巻き込んだ人生会議も促進するでしょう。

在宅医療は社会的セーフティネットとして寄与する

僕は、救急と在宅の両方に携わっていて、よく正反対の分野じゃないかと言われますが、実は似ているところがたくさんあると考えています。最初にお伝えしたように、救急、特にER(救急外来)は、複雑な人間模様や社会背景のるつぼです。例えば、DVを受けた人が頼る場所がなく、駆け込み寺のようにやってくることもあります。

一方で、在宅医療においてもさまざまなヘルプサインが存在します。介護疲れによって虐待につながるような困難事例もその一つ。異変にいち早く気づき、適切な橋渡しをすることも医療の大事な仕事なのです。医療は社会のセーフティーネットとしての役割を持っており、救急または在宅、どちらに身を置いていても多くの手札を持っているに越したことはありません。

在宅医療に身を置いていながら、救急の勘所を知っていれば、在宅で救急医療を提供できたり、社会のセーフティーネットとしての機能も果たせる。医療という門を通して困っている人の力になれるのであれば、在宅医療も救急医療もよい方法だと僕は考えています。

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この記事を書いた人

桑村 美里

理学療法士/ライター/広報。療養型病院、回復期リハビリテーション病院で理学療法士として約4年間勤めた後、ライターや広報に転身。住民が地域医療や福祉を身近に感じられるような情報発信を行う。

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