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地域包括ケア×まちづくり 「地域診断とフレイルになりにくいまち」

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  • #症状別
地域包括ケア×まちづくり 「地域診断とフレイルになりにくいまち」

地域包括ケアをまちづくりの視点から考える「地域包括ケア×まちづくり」シリーズ。
今回は「地域診断とフレイルになりにくいまち」をテーマに、地域診断の必要性と方法や実践例を紹介していきます。

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著者

森 優太

医療法人松徳会 花の丘病院
千葉大学客員研究員
国立長寿医療研究センター 老年学評価研究部外来研究員

 (1) 地域診断の必要性について

暮らすまちによって、要介護リスク者やフレイル該当者が多いまちがあります1)
例えば、図1のように同じ市内でも、小地域別で比較するとフレイル該当率に約2.0倍の差があることがわかっています。
このように地域の課題に対して、公衆衛生を担う専門家が、地区活動を通して地域課題を明らかにし、地区活動を通して個人のケアに留まらず、集団あるいは地域を対象にケアを行い、地域課題を軽減・解消していく一連のプロセスを「地域診断」とよびます2)
多くの保健医療福祉サービス提供者は個人(患者さん)を対象に介入しています。
これまで、要介護リスクや予防に関する研究の多くは、運動・身体活動、栄養、社会参加など、個人のライフスタイルに着目した研究が大半でした。
しかし、対象者である個⼈(患者さん)は、家族、組織、地域、社会とのつながりの中で⽣活しています。小地域別でフレイル該当率に約2.0倍差といった市町村格差があるのであれば、地域・環境要因の課題を地域診断を用いて解決していく必要があります。
後述には、地域診断に必要な2つの評価法について説明します。また、著者自身が実施したフレイルになりにくいまちについての研究内容を紹介して、実際に地域課題に対して関与した実例についても紹介します。

図1. 各小地域別でみたフレイル該当割合例

フレイル該当割合の図

(2) 地域診断に必要な2つの評価方法

地域診断の進め方として、5つのステップに分けることができます3)
1) 優先課題を選ぶ、2) 優先すべき地域や集団を選ぶ、3) 目標を設定する、4) 評価する、5) データを公表する、これらの流れで進めていきます。
今回は地域の課題をどのように抽出すべきかを2つの評価方法を用いて紹介していきます。
地域診断に必要な2つの評価方法として、量的データと質的データに分けて評価することができます。例えば、量的データであれば各医療・介護・保健統計情報(人口動態統計等)を用いて、他の地域(全国、県、市町村等)と比較したり、経年的な変化による比較をすることで各地域の強みや課題が明らかにすることができます。
近年では、自治体によっては各市町村のホームページからクリニックやスポーツグループ、通いの場といった地域資源情報が「見える化」されていたりします。これらの情報を用いて「A市のB小地域にはクリニック等の医療資源が多いが、同市C小地域ではクリニックが少ないため、C小地域集団全体の健康状態が不良である」といった仮説を立てることができます。
一方で、質的データではフィールドワークを通して地域に出向き、医療職が自ら五感を使って得られる情報を示しています。地域を歩き、地域住民の声をヒアリングしたり、地域活動に参加したり実践しながら把握することが可能です。例えば、「A市のB包括圏域の駅前には整備された歩道・公園が確認ができ、駅周辺はクリニックやコンビニ等あり発達している。一方でC包括圏域では団地が多く、団地施設内では公園があるも雑草が生い茂っており未整備である。高齢者生活相談所は閉鎖しており、騒音トラブルのチラシが路上に貼ってある」等の実情を確認できます。
これらは量的なデータのみでは把握することが困難であり、質的データを含む2つの情報を組み合わせることで、より優先課題を選び、優先すべき地域や集団を選ぶことが可能となります。

1. 地域診断に必要な2つの評価方法

 地域診断に必要な2つの評価方法

(3) フレイルになりにくいまち

このように、地域診断の考え方や地域診断に必要な2つの情報を紹介しました。ここでは、地域環境に着目して具体的にどのような地域環境ではフレイルが少ないのかを明らかにした研究を2つ紹介します。
1つ目は、「暮らしているだけでフレイルになりにくい街」は実在するのかを明らかにした研究となります。地域環境とフレイル予防に資する知見を得ることを目的に、良好・不良な地域環境が近くにあるかどうか個人の回答(徒歩圏内)と、同じ小~中学校区に暮らす者の回答を集計した校区レベルの地域環境を考慮してフレイル発症との関連を検証しました。全国22市町562地域(小~中学校区)に住む38,829人を3年間追跡し、フレイル発生と地域環境の関連を調べました。その結果、公園や歩道、魅力的な景色など、良い環境が多いと感じている人ではフレイル発生の危険性が12~22%低い結果でした。また、「坂や段差が多い」と感じる高齢者が地域で10人に1人(1割)多い場合、環境への自身の感じ方に関わらずフレイル発生の危険性が3%低いことがわかりました。このような地域環境を整えることが、フレイル予防に効果がありそうです。

2. 地域環境とフレイル発症の関連

地域環境とフレイル発症の関連の図

2つ目の研究は、先述で紹介した望ましい地域環境では、なぜフレイルになりにくいのか、このメカニズムを解明することを目的に、地域在住高齢者の地域環境によるフレイル発症抑制の関連と、歩行時間・うつ・近隣や友人との助け合いが媒介しているか検証しました。本研究ではそのメカニズムを探るため、全国22市町に住む33,174人を3年間追跡し、望ましい地域環境とフレイル抑制の間に、どのような要因が介在しているのかを調べました。その結果、公園や歩道、魅力的な景色、立ち寄れる施設など、望ましい地域環境が多いと感じている人では、歩行時間・うつ・近隣や友人との助け合いの状態が良好であることを介して、フレイル発症が抑制されていることが確認されました。なお、それらの身体・心理・社会的な要因によって、地域環境とフレイル抑制の関連の4%〜42%が説明されました。暮らしているだけでフレイルになりにくい地域づくりで、歩行時間・うつ・助け合いがメカニズムとして関係している可能性があります。

3. 地域環境とフレイル発症の関連とそのメカニズム

地域環境とフレイル発症の関連とそのメカニズムの図

(4) 自治体での実践例

実際に地域診断を実施してその課題をもとに医療専門職がどのように連携を行い関与したかを実例を用いて紹介していきます。
A県B市では、量的データより健診受診者で血糖コントロールの指標である、HbA1c5.6以上割合がA県全体と比べて2倍不良であることがわかりました。また、質的データより「HbA1c5.6以上の割合について、 40歳代は男性は60%台、女性50%台であるが、50歳代から70%台になり、以降の年齢でかなり高値である。HbA1cについて、健康カルテを作り、地区データを住民にも返却している。レセプト分析ができれば良いが、業務の枠を超えておりそこまでは難しい。」といった意見が健康福祉部健康づくり課 保健師よりありました。
このような課題に対して、健康福祉部健康づくり課と共同して「健康づくり計画策定に向けたワークショップ」を開催しました。HbA1c県下最下位も含めてどのように健康的なまちづくりをすべきか地域の一般市民、ボランティア団体、スポーツグループ (歩こう会)、企業、医療専門職地域全体で課題解決を検討しました。ワークの中で地域ぐるみ・市ぐるみでできることとして、階段に消費カロリー表示やトイレに、ながら運動の紹介ポスター掲示、行政無線で日時を決めてラジオ体操放送する、スポーツ大会、グランドゴルフ大会などの機会を作る等の意見が挙げられました。このように、地域全体で課題に対して意見を共有することで健康づくり計画に取り入れることはまさしく健康になれる地域づくり・まちづくりの一助になることが期待されます。

3. 健康づくり計画策定に向けたワークショップの成果物

健康づくり計画策定に向けたワークショップの成果物の表

(5) ポイント・まとめ

  • 地域診断とは集団あるいは地域を対象にケアを行い、地域課題を軽減・解消していく一連のプロセスである。
  • 医療専門職が地域を評価し課題を知る必要がある。
  • 病院や施設勤務の医療専門職だからこそ地域課題を把握する必要性がある。
  • 地域診断から地域活動への参加に結び付けることが可能である。

1)日経BP PPPまちづくり 公民連携最前線 第2回 要介護状態やフレイルになりにくいまち
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/022100041/032800004/

2) 地域診断に基づく保健活動の推進 - 茨城県
https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/yobo/zukuri/yobo/documents/8yonsyouiti.pdf

3) 「データに基づき地域づくりによる介護予防対策を推進するための研究」研究班
介護予防のための地域診断データの活用と組織連携ガイド
https://www.jages.net/library/regional-medical/?action=common_download_main&upload_id=4709

4) Mori Y, Tsuji T, Watanabe R, Hanazato M, Miyazawa T, Kondo K. Built environments and frailty in older adults: A
three-year longitudinal JAGES study. Arch Gerontol Geriatr. 2022 Jul 8;103:104773. doi:
10.1016/j.archger.2022.104773.

5) Mori Y, Tsuji T, Watanabe R, Hanazato M, Chen YR, Kondo K. Built Environments and Frailty in Older Adults: The JAGES Longitudinal Study Using Mediation Analysis [published online ahead of print, 2023 Aug 1]. J Am Med Dir Assoc. 2023;S1525-8610(23)00614-X.

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この記事を書いた人

森 優太

医療法人松徳会 花の丘病院 理学療法士として臨床業務・管理業務に従事する中で、介護予防・社会疫学に関する研究を実施。2022年度、千葉大学大学院にて医学博士を取得。2023年度より千葉大学予防医学センター客員研究員、国立長寿医療研究センター老年学評価研究部外来研究員として介護予防・社会疫学に関する研究活動を実施している。自治体とともに介護予防事業・地域づくりに関与。また、フレイルに関する和文・英文は多数執筆。

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