訪問診療医として、多職種の想いを医師会へ|よつばや在宅クリニック 院長 中尾 充貴先生

訪問診療医として、多職種の想いを医師会へ|よつばや在宅クリニック 院長 中尾 充貴先生

心臓外科医として約10年のキャリアを積む中で、病院での治療だけでなく、自宅で過ごす患者さんの時間や暮らしを支える医療の大切さに気づいた、よつばや在宅クリニック院長・中尾 充貴先生。
現在は足立区に拠点を置き、「患者さんが安心して自宅で過ごせるようにすること」を目指して日々診療にあたっています。
地域に根ざし、一人ひとりの暮らしに寄り添う医療を続ける中、2025年6月28日の足立区医師会の定時会員総会にて、中尾充貴先生が新たに理事に就任されました。
地域の先生方や多職種の方と連携しながら、訪問診療ならではの視点でどのように地域医療に貢献していくのか。
今回は、中尾先生に訪問診療医が医師会で果たす役割や、参加することの意義について、詳しくお話を伺いました。

よつばや在宅クリニック 院長 中尾 充貴先生

2010年東京慈恵会医科大学を卒業し、2012年より同大学の心臓外科へ入局する。
大学および関連病院で心臓の手術に携わりながら、心筋保護液に関する研究も続け、2020年に学位授与。
2024年によつばや在宅クリニックを開設。
2025年より足立区医師会の理事に就任。地域の医療関係者と連携をとりながら、足立区を中心とした都内の訪問診療に携わっている。

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足立区医師会理事就任のご縁とその役割

ーーこの度は足立区医師会理事にご就任おめでとうございます。まずは、ご就任の経緯を教えてください。

特別なきっかけがあったわけではありませんが、医師会の会長が私と同じ慈恵医科大学の出身で、開業の際からご縁があり、ご挨拶させていただいていました。
その流れで理事の枠が空いた時に「やってみないか」と声をかけていただいたのが経緯です。
正直、当初はどのような活動をするのか詳しくは分かっていませんでしたが、「自分が何かお役に立てることがあるなら」と思い、お引き受けしました。
今後、自分にできることを模索しながら取り組んでいきたいと考えています。

ーー医師会理事には主にどのような役割があるのでしょうか?

理事会の基本的な役割は「現場から上がってきた報告を受けて判断すること」です。
医師会から新しい意見が直接生まれるというよりも、各委員会で出された提案を受けて「それは進めましょう」「ここは難しい」と審議し、最終的に決定していく場といえます。

医師会には地域医療を支えるためにさまざまな委員会が設置されており、たとえば住民の健康診断を担当する委員会や、休日・夜間の救急診療に対応する委員会などがあります。
理事はそうした委員会の取り組みを全体としてどう進めるかを整理し、最終的な方向性を示す役割を担っています。

理事としての今後の取り組みと抱負

ーー理事として、どのような取り組みを進めていきたいとお考えですか?今後の抱負をお聞かせください。

まだ就任して間もないので、まずは医師会の仕組みや役割をしっかり理解し、会長や医師会側から任された仕事を丁寧に果たしていきたいと思っています。
そのうえで、地域の皆さんや会員の先生方にとってプラスになるような形で、自分の活動をつなげていければと考えています。
たとえば現在取り組んでいることとしては、地域住民への啓発活動の一環である「区民健康まつり」があります。
各分野の専門の先生が集まり、住民の健康相談に応じることで、地域の健康維持や医療への理解促進に貢献できる機会です。
まずは足立区に住む方々の健康の維持・増進に最大限寄与できる活動をしていくこと。
それに加えて、健康増進に関わる医療従事者の負担を最小限にできるように、理事として関わっていきたいですね。


ーー実際に理事として活動してみて、医師会に対する印象や見え方に変化はありましたか?

開業して診療しているだけでは分からなかったのですが、医師会は会員の先生方をしっかりと支え、地域医療を守るためにさまざまな活動をしているのだと気づきました。
会員の立場からはなかなか見えにくい部分ですが、医師会が水面下で動いていることが多くあるのだと、この2か月で実感しました。

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訪問診療医の視点で考える、医師会への貢献

ーー訪問診療は地域に密着した活動かと思いますが、これまでの経験を理事としての活動にどのように活かしていけそうでしょうか?

訪問診療はまさに地域に密着した医療で、訪問看護師さん、ケアマネージャーさん、地域包括支援センターの方など、本当に多くの職種の方々と関わります。
そうした幅広い方々の意見や思いを、医師会の場でも拾い上げていける可能性があるのではないかと感じています。
まだ具体的な取り組みとして形にはなっていませんが、これまでの経験を活かしながら、訪問診療医として診療を続けつつ、理事として地域にどう貢献できるかを模索していきたいと考えています。

ーー訪問診療医として、医師会の活動にどのように貢献していきたいか教えてください。

訪問診療ならではの視点から、医師会の活動に役立つ意見を出していければと思っています。
具体的には、訪問診療の現場で感じる課題や地域の状況を理事会や委員会に伝え、会員の先生方の理解や地域医療の充実に役立てることです。
足立区医師会の中でも訪問診療を専門的に行っている先生はほとんどいません。
私は病院経営や外来・入院診療には詳しくありませんが、逆に訪問診療に詳しくない先生方には現場の状況が分かりにくいため、その観点から意見を伝えていければと思っています。

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診療現場から地域全体へ――医師会活動に参加する意義

ーー普段の診療と並行して、医師会理事としての活動を続けることに難しさはありますか?

やはり時間的な拘束は少なからずあります。
ほかの理事の皆さんも、普段はそれぞれの病院やクリニックで診療をしていて、会は夜8時頃から始まることが多いため、その時間的制約はありますね。
大学病院でいうと、夜に突然開かれるカンファレンスのような感覚でしょうか。
ただ、診療とは全く別の場所で行われるので、日中の診療に支障が出ることはありません。

ーー訪問診療医として活動している先生方にとって、医師会に参加する意義はどのような点にあるとお考えですか?

理事会そのものも大切ですが、どちらかと言うと医師会が行っている各分野の委員会に参加することが大切だと思っています。
委員会に入らなければ自分の意見はなかなか届きませんし、そこで発言して初めて、自分の考えが地域医療の取り組みに反映されるのだと感じます。
地域医療をより良くしたい、解決したい課題があるなど、声を上げたい時には、委員会に入って活動することが一つの有効な方法だと思っています。

私自身も委員会には積極的に参加し、現場から上がってくる意見を拾い上げたり、自分の考えを伝えたりして、最終的に足立区全体のためになるような活動につなげていきたいと考えています。

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医師会参加は「人脈づくり」の大きなきっかけに

ーー最後に、これから医師会活動への参加を考えている訪問診療医に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。

医師会に参加することで、会員同士の関係づくりや人脈の形成ができます。
検診や休日診療といった制度面の利点もありますが、それ以上に、地域で活動している先生方と出会い、相談できる仲間ができることが大きな魅力です。
訪問診療をしていると、病院のように一人の患者さんを複数の科の先生が診る機会はほとんどないため、他の訪問診療医と出会うことはなかなかありません。
だからこそ、同じ地域で訪問診療に取り組む先生方と交流できる場があるといいなと思っています。

医師会の先生方は一見厳しそうに見えるかもしれませんが、実際は接しやすく、相談もしやすい方ばかりです。
もし医師会の活動や地域医療のことで困ったことがあれば、気軽に声をかけてもらえればと思います。

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この記事を書いた人

一坊寺 唯

医療ライター・コンテンツディレクター/Cuddle Writing(カドルライティング)代表。大学卒業後、ヘルスケア関連企業にて企画職に従事。2019年にフリーランスWebライターとして独立し、医療・健康ジャンルを中心に多数メディアの記事制作を手がける。「信頼できる医療・健康情報を通じて、ヘルスリテラシーを向上させる」というミッションのもと、医療系記事制作チームCuddle Writingを運営。

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