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多量介護、多死社会の到来で真の意味での病診連携が求められる時代へ|医療法人おひさま会|荒 隆紀 先生

  • #在宅医療全般
多量介護多死社会 病診連携 在宅医療業界 医療法人おひさま会 荒隆紀

在宅医療業界のオピニオンリーダーへ在宅医療の課題や今後についてお話を伺う「オピニオンリーダーに聞く在宅医療」シリーズ。

今回は医療法人おひさま会 最高人事責任者の荒 隆紀先生へ今の在宅医療が抱える課題やおひさま会で取り組まれていることについてお話しいただきました。

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医療法人おひさま会 最高人事責任者
荒 隆紀 先生

2012年新潟大学卒業。洛和会音羽病院で初期研修後、同病院呼吸器内科後期研修を経て、関西家庭医療学センター家庭医療学専門医コースを修了。家庭医療専門医へ。「医療をシンプルにデザインして、人々の生き方サポーターになる」を志とし、医療介護福祉領域の人材育成パートナーとなるべく起業。その他、関西で在宅医療を展開する医療法人おひさま会の管理医師・人事責任者として法人全体の人材育成/組織開発をしながら、新潟大学総合診療研修センターの非常勤講師として医学生教育にも従事している。著書:「京都ERポケットブック」(医学書院)、「在宅医療コアガイドブック」(中外医学社)

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機能していない「かかりつけ医」制度

日本の医療の現状に関して、いくつか課題と感じていることがあります。

 

まずは、かかりつけ医制度のことです。

病院で定期的にかかりつけの医師に診てもらっていれば安心。そう考えている患者さんは多いと思います。しかし、実際は病院では診療科ごとに体をパーツに分けて診ています。体全体、その人全体を見ている、本当の意味での「かかりつけ医」ではないんですね。

 

日本では開業医も、何らかの専門を経て開業するパターンがほとんどです。そう考えると、開業医の多くが、人をパーツで診ているとも言えます。コロナのとき、かかりつけ医だと思って受診しようとしたら、「自分の専門ではないので診られません」と断られるケースが多発したのもそのせいです。

 

「この医師にかかっていれば安心」というのは、患者さんの幻想と言ってもいい。今の日本の医療の状況に、「かかりつけ医」制度はマッチしていません。初期研修を受けた病院で、定期受診されていた患者さんの末期がんが見落とされたケースを目の当たりにし、それを強く感じました。

 

2018年に総合診療科が19番目の基礎領域となり、総合診療医、家庭医の養成が本格化しました。「かかりつけ医」の役割を担う家庭医は重要です。家庭医は医療システムの入り口で全人的に患者さんを診て、必要に応じて専門医に橋渡しをする役割を持っています。家庭医がゲートキーパーの役割を適切に果たすことができれば、患者さんに真の安心を提供できますし、医療システムも全体として効率的に機能できると思います。

家庭医療のマインドを配信して拡散

といって、優秀な家庭医が増えればそれで良いかというと、そうではありません。医師のみならず家庭医療を機能させていくためには、家庭医の知識やノウハウ、マインドを持った多職種を世の中に増やしていくことが必要です。また患者さんに対して、複雑でわかりにくい医療をシンプルにして示すことで医療にアクセスしやすくするなど、日本の医療分野での課題を少しずつ軽減していくことも大切です。

 

そこで、在宅医療専門クリニックであるおひさま会で、まず始めたのが、多職種が現場で必要な知識を身につけるためのミニレクチャーです。こんな依頼が来ました。情報はこれしかありません。さあ、何に気をつけるか。初診で何を聞くか。みんなで考えよう――そうやって、現場での困りごとを学びによって解決を図る取り組みを進めました。家庭医療、中でも在宅医療は「妄想力」が大切です。事前に様々なシミュレーションをしておけば、現場で慌てずにすみます。

 

最初は医師と看護師、ソーシャルワーカーだけでスタート。それから多職種に拡げていきました。学びになる事例を取り上げたり、デス・カンファレンス(患者逝去後の振り返り)をしたり。次第に定例化していく中で、困難事例をしっかり分析し、あたかも自分がその患者さんを担当しているかのように追体験するグループワークを行って、そこに看護理論など理論的な話もする形式になっていきました。

 

それが現在開催している、誰でも参加できる多職種連携推進のウェブセミナー「おひさまナビ」です。「おひさまナビ」は、多くの方に参加していただける学びの場として、これまで60回以上開催してきました。参加者は、医師や看護師だけでなくケアマネジャー、介護職、一般市民まで。こうした学びとマインドを、在宅医療に関わる人たちに広く発信すべきだと考え、開催しています。

密室化、属人化しやすい在宅医療

在宅医になって感じている課題は、密室化しやすいということです。

患者さんから不満が出なければそれでいい、自分のやっていることが全部正しいなど、在宅は密室医療になりやすい。周囲から見えにくいため、実は意図せずとんでもない医療を行っていることがあるかもしれません。

 

これを避けるための方策として考えられるのは、1つにはDX(デジタル・トランスフォーメーション)を活用することです。在宅医療に関する膨大なデータを集約、分析し、例えば熟練の家庭医、在宅医の患者さんへの関わり方のモデルを示したらどうでしょうか。訪問したら何を見て、患者さんにどう声をかけて、どういう情報を引き出すのか。それはとてつもない学びのプラットフォームになると思います。

 

総合診療の研修では、患者さんの許可を得た上で、外来診療の様子を撮ったビデオを見ながら指導医とディスカッションする時間がありました。これを在宅でもやるべきではないかと考えています。

 

もう一つの課題は、属人化しやすいということです。

在宅医療のクリニックはたくさんの医療機器を導入する必要はなく、新規参入しやすいという特徴があります。開業して一人で走り回る在宅医は、患者さんからすれば、いつも同じ先生が訪問してくれて、電話すれば答えてくれる。それが安心材料になるとは思います。しかし、その医師が倒れたら医療が中断してしまうという継続性の問題があります。そして、そのことに患者さんは気づいていません。

 

実は、これが在宅医療の一番の課題ではないかと考えています。病気になったときにしっかり休めるなど、地域での在宅医サポート体制を作る必要があります。そのためには、患者さんの医療情報共有の仕組みづくりも必要です。医師の中には、カルテを第三者と共有することを想定せず、自分の備忘録のように書いている人も少なくありません。それをチェックしてフィードバックするような仕組みをつくれば、医師も安心して活躍できます。同時に、地域の医療の継続性も担保されるのではないかと思います。

在宅と病院の分断を変えていく

これから日本はさらに高齢化が進み、2030年には人口の約3割が高齢者になります。多量介護、多死社会になるわけです。在宅で最期を迎えたい人は増えると思いますが、施設や病院で亡くなる人もやはり多数いるでしょう。しかし家と施設にいる人は診るけれど、入院したら病院にお任せしますという在宅医療。入院したら診るけれど、退院したら在宅にお任せという病院医療。この分断を変えていくということも必要です。

 

新型コロナの流行時に実際に起きたことですが、入院が必要な病態の患者さんなのに、病院がキャパオーバーで受け入れられないと、やむなく在宅に返されることになります。在宅と病院で押し付け合いのようになり、患者さんは納得して在宅か病院かを選択することができません。そうして、医療側の都合で患者さんのニーズが捻じ曲げられてしまうことが、今後、増える恐れがあります。これを避けるためには、在宅と病院が一体として動けるようにしていく必要があると考えています。

 

例えば、おひさま会で取り組んでいる、「退院支援プロジェクト」。これは、在宅側から病院側にアプローチし、退院させやすい環境を整える取り組みです。在宅側の要因で退院できないケースをゼロにするために行っています。早期退院を実現するだけでなく、患者さんとのやりとりの中で、「次は入院しないで在宅で療養したい」という話になれば、余計な入院を減らすことにもつながります。

 

これからの時代、このような取り組みによる本当の意味での病診連携がより求められていくのではないかと思っています。

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この記事を書いた人

宮下 公美子

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士 早稲田大学卒業後、求人広告制作に携わり、その後フリーに。介護保険制度創設前後より介護分野で取材活動を行いつつ、社会福祉士、臨床心理士、公認心理師の資格を取得。取材執筆と並行して、成年後見人、クリニック心理士としても活動している。著書は『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)など

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