特集

「ローカルを楽しむ」地域医療✕まちづくりの実践家|一社)くわくわ企画・徳田医院|徳田 嘉仁 先生

「ローカルを楽しむ」地域医療✕まちづくりの実践家

高齢化が進む日本において需要が高まっている在宅医療。しかし、様々な課題が山積しています。
今回は、救命医と在宅医のダブルキャリアで活躍する徳田嘉仁医師に在宅医療の課題や今後のビジョンについてインタビューしました。


徳田医師はまちづくりを通して、医療を身近なものに感じてもらうべく様々な活動を行っています。地域医療✕まちづくりの思いについてもおうかがいしました

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徳田先生へのインタビュー「キャリア編」(「患者さんの生活と人生を豊かにしたい。救急と在宅のダブルキャリア」)はこちら

一社)くわくわ企画代表理事・徳田医院理事
徳田 嘉仁 先生

一社)くわくわ企画代表理事・日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医

2013年大阪医科大学卒。沖縄県立南部医療センター・こども医療センターで初期研修後、同病院救急科後期研修を経て滋賀家庭医療学センター家庭医療学後専門医コースを修了。家庭医療専門医・指導医へ。「"生"について真剣に考える遊び場をつくる」ことを目標に、医療がより生活の導線上に溶け込むための仕掛け作りとして、2023年一般社団法人くわくわ企画を創業。ローカルコミュニティを盛り上げる地域プレーヤーと共に遊びながらイベンターなどを行ない「楽しい場」について模索。2024年度内に父のクリニックを継承予定。「寄り道したくなる診療所」を、つくります。

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在宅医療の課題、病院と在宅の垣根をなくしたい

ー徳田先生が考えられる在宅医療の課題はありますか?

医療業界全体になりますが、やはり医療DXという面ですね。だいぶ進んではきましたけどまだまだです。
例えば患者さんを病院から紹介された時、その患者さんの医療情報、背景だったりとかも紹介状の文面しかないんですよね。
もちろん機密性、秘匿性の問題もありますので、そこがなかなか難しいのですが。
とくに在宅訪問診療をやっていて、最後の1ヶ月を家で過ごしたいって病院から送られてくることがあるじゃないですか。
ずっと病院で癌の治療を受けてきて。でも何の情報も無いってことも実際にあるんです。この情報の分断が課題ですかね。

ー徳田先生は病院の救急でも勤務されているとのことで、どちらの医師の立場もわかるのかなと思います。お互いもっとこうしたらいいなと考えることなどはありますか?

病院の中でも患者さんの生活面や心理社会面の情報収集だったり、価値観の話とか出来なくはないと思います。でもやはり退院前のカンファレンスでされる話って「どういう病気で、どういう治療を何週間やりました」みたいな話が多いですよね。
急性期病院の先生にこそ、少しでもいいから在宅の経験をしてもらいたいなと思います。逆もしかりなんですが。
やはりどちらかの視点に偏ってしまう、寄ってしまうというのはよくないと思います。
そういう意味で僕はずっとダブルキャリアを続けています。
滋賀に戻って自分のクリニックで働くことになっても、絶対週に1回は地元の急性期の病院で働かせてもらおうかなとは思っています。
自分の診療所の患者さんが入院するとなったら、立地的にそこの急性期病院になるんですよ。患者さんが入院しても診療所に戻ってきても患者さんの情報を得られる。
自分のクリニックから自分の外来宛に紹介状を書いて検査などを行って自分のクリニックに戻すということも出来るので、情報の分断はクリアしていけるかなと思います。
でも、これはすごく属人的な問題解決方法なんです。僕が両方やれるからであって。誰しもが出来るかというとそれは難しい。

ーでも、徳田先生の周りで情報共有の大切さをわかってくださる方が増えて少しずつでも広がっていくといいですよね。

そうですね。地域から変えていかないと、なかなか日本全体に広がらない。良いロールモデルが作れるといいなと思います。
ローテーションでもいいと思うんですけど。地域の在宅も、病院もやれますという医師をどんどん増やせるといいですよね。
「在宅医ってこういう情報が欲しいんだよな」
「急性期病院に紹介する時ってこういう情報を載せないと急性期の先生困るんだな」
って、両方の立場の思い、困り事が見えれば変な壁が取っ払われるのにって思いますね。

生活の導線に医療を。医師が地域のまちづくりに参画

ー徳田先生はまちづくりにも参画されていらっしゃるんですよね。始められたきっかけを教えて下さい。

在宅医療を始めて地域医療に軸足を置くようになったのですが、やはり医療業界にいると、そもそも医療に興味がある人しか近寄って来ないんですよね。
病院に行く時って、辛いとか苦しいとかネガティブな感情が積もって、更に日常生活を半日とか1日潰して行かなければならない場所みたいなイメージを変えたかった。
その入口を変えたいと思ったんです。ポジティブな感情、つまり、おいしいとか楽しいとか居心地が良いとか。そういうポジティブな感情で人が集まる場所を作って、その場所がたまたま診療所だったという風にしたかったんです。
それで町のイベンターや自営業の人達と仲良くなって活動をしています。色々な要素を自分の診療所の中に落とし込んでいきたいと思っています。

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ーちょっと遊びに来たついでに健康の相談が出来るようなイメージですか?

はい。でも本当にやりたいのは、実は出口のデザインなんです。出口のデザインとは何かって言うと「人が死ぬ」ということ。
人が死ぬということをよりオープンにする、日常生活で当たり前に考えられるということをやっていきたいんです。
在宅訪問診療で診ていて、自分の死生観の話をする時に「そんなこと考えたこともなかった」って本人も家族もすごく多いです。
まずそこを解決したいなと思ったのですが「死について考えましょう」って言っても、既に死について興味がある人しか集まってこないんですよね。
日常の生活で当たり前にそういう死生観とかを紡ぐ作業をするには、まず入口を広く作らないといけない。まずはあまり医療とかを全面に出さずに、ポジティブな感情で気軽に入れるような入口を作ろうと思っています。生活の導線上に医療を配置して溶け込んでいけるようなイメージです。

ーホームページを拝見しました。新しい診療所のイメージ動画がありますが、犬の散歩したり、お子さんを連れて遊びに来たり、日向ぼっこしたり、毎日寄れる居心地の良い場所という雰囲気で素敵です。

例えば中学生とかが毎日のように来て勉強してたりとかゲームしたりとか。その場所で年に1回ワクチン打つなら、年に1回しか行かない病院でワクチン打つよりハードルが下がると思うんですよね。
日常の生活導線に、当たり前のようにある場所にしたいんです。

ワクワク発生装置でポジティブな感情をたくさん発生させたい

ー今行っている活動を教えてください。

今はポジティブな感情の人が集まるというのはどういうことなのかっていう社会実験を沢山やっています。
キッチンカーでプチイベントをしたり、日常の中にちょっとしたポジティブなイレギュラーを起こすようなことを行っています。
自分達はポジティブな感情、ワクワク発生装置と言っているのですが、それを一緒に作ってくれるプレイヤーとの繋がりを構築しています。
人が集まりやすいコンテンツって公園だったり図書館だったり、行政が行っている公共事業があると思うんですけど。でも行政がやっている公共性は、公共にし過ぎたせいで面白くないんですよね。
なので僕達は、いかに面白い状況のままで人が集まりやすいコンテンツを作れるかというのが今後の課題です。

ローカルを楽しめる医療従事者のロールモデルに

ー何より先生がワクワクしながらやっているんですね。最後に地元への思いなどありましたらお願いします。

医者の傍ら、こんなまちづくりまでやって大変って言われるけれど、全然大変とか忙しいとか思ったことはないんです。なんでって自分が楽しいから。
自分が暮らしている町が自分が楽しいと思えるもので溢れたら、自分の人生は豊かになっていく一方じゃないですか。
僕は暮らすことも、生きることも、生活することも、医者をすることも、まちづくりをすることも全部1つの自分のローカルの地域の中でやっていく、人生として楽しいと思えることで溢れさせたいんです。
ローカルを楽しめる医療従事者が沢山増えれば医療っていうのはより活性化するんじゃないかと思いますし、ローカルで暮らす人々の暮らしはより安泰なものになっていくんじゃないかと思っています。
結局僕が楽しいものを集めているだけなので、自分が楽しいって思える生き方をこれからもしていきたいです。

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この記事を書いた人

岡村 奈津子

医療ライター/薬剤師。昭和大学薬学部卒。病院、ドラッグストア、薬局と様々な分野で経験を積み、現在は地域医療、在宅医療に注力。薬剤師として臨床の現場で働きながら、医療ライターを行っている。多くの人へわかりやすい医療の情報と、医療従事者の姿を届けるべく執筆活動中。

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