「医師」と「母」の二刀流。どちらも諦めない未来へ|医療法人博仁会・みんなの内科外科クリニック|中村 真季 先生
出産後の現場復帰や仕事と育児の両立は、女性医師が最も悩むポイントのひとつです。
今回は、茨城県ひたちなか市の「みんなの内科外科クリニック」でプライマリ・ケアに従事されている中村 真季(なかむら・まき)先生に、医師の仕事と子育てを両立する苦難や、乗り越える秘訣を伺いました。
医師としての仕事も子育ても諦めず、奮闘される姿に迫ります。
医療法人博仁会・みんなの内科外科クリニック
中村 真季 先生
2012年自治医科大学卒業。秋田や東京の病院で研修・勤務を重ねたのちに、地元茨城県の地域の中核病院で内科医として従事。内科医として働きながら、在宅療養支援診療所で在宅医療を学び、家庭医療専門医・指導医となる。2019年に長男、2022年に次男を出産し、2024年4月よりみんなの内科外科クリニックに勤務。「地域医療を充実させる」という目標のもと、プライマリ・ケアに携わっている。
医師業と子育て、どちらも大切だから難しい
―子育てをしながら医師として働くなかで、課題に感じたことはありますか。
バックアップがないなかで子育てと並行しながら医師として働く難しさを実感しました。元気で保育園へ行っているときは問題ないのですが、子どもは熱を出してしまったり体調を崩してしまったりするものです。やはり子育ては予定通りにはいきません。
私は近くに親などの頼れる存在がいませんでした。また、コロナ禍の最中だったため、感染症の観点から「熱のある子どもを預けるとうつしてしまうのではないか」という不安もあり、なかなか誰かにお願いできませんでした。そのうえ、1人目出産後に住んでいた北茨城市は当時、病児保育をおこなっている施設がない市だったので、私が都合をつけられないときは夫に仕事を休んでもらったり、時には勤務先の人が協力してくれたりしたことも。周囲の理解があったので、とてもありがたかったです。
―産後に医師として復帰することに迷いはありませんでしたか。
1人目の子どもを出産したときは、大学の義務年限(※)内だったので「復帰しない」という選択肢はありませんでした。とはいえ、仮に義務年限の縛りがなかったとしても、復帰を迷うことはなかったと思います。
私には、医学生時代の地域実習でお世話になった静岡市国民健康保険井川診療所の先生がやられたように、現在住んでいる茨城県ひたちなか市で「地域医療を充実させる」という夢があります。フルタイムで復帰しない限り、その夢をかなえることはできません。それに、私は仕事が好きなので「2人目出産後も復帰しない」という道はなかったですね。
だからこそ、2人目出産後は最後の育児休暇と思い、子どもと存分に向き合いました。医師として働き続ける以上「育児休暇中ほど子どもとゆっくり関われる時間はない」と分かっていたので、2人目出産後からフルタイムで復職するまで約1年半と長めのお休みをいただいています。
※義務年限…医学部を卒業した医師が、一定の期間を指定されたへき地等の公的医療機関として勤務する義務
―いざ医師に復帰したとき、なにを感じましたか。
やっぱり仕事はすごく楽しかったです。2人目出産後、現在のクリニックに勤めてからは、やりたかった訪問診療などをメインにできるようになったので、嬉しさはより大きかったですね。ただ、一緒に訪問診療をおこなう十分な数の医師がいなかったため、オンコールの負担が大きかったです。
2人目出産後フルタイムで復帰する前に、少しずつアルバイトをしていたのも、わんぱくな男の子2人の育児をしながらスムーズに復職できた要因かもしれません。以前研修をさせていただいた北茨城市の老健施設から声をかけてもらったり、現在働いているクリニックの訪問診療のアルバイトを週に1回したり。ほかには健診センターのアルバイトも月に1回程度おこなっていました。徐々に現在勤めるクリニックに就職するまでの準備ができたと思っています。
医師業と育児を両立させるために
―中村先生はどのような心持ちで仕事と育児の両立をしていたのでしょうか。
後輩には「あまり無理しないほうが良いよ」と伝えています。というのも、頑張りすぎてしまうと、周りが「これもできるんだ、あれもできるんだ」と思ってしまうからです。前例をつくってしまうと、それ以降の世代は「できて当たり前」とされ、つらい思いをすることもあります。だから、医師と子育ての両立で焦る気持ちもあるかもしれませんが「頑張りすぎない」ことも大切です。
とはいえ、私自身は「頑張りすぎてしまった身」なんです。子どもをクリニックでみてもらい、往診に行ったこともありました。
―「頑張りすぎてしまう」状況のなかで、どのようにして難関を乗り越えたのですか。
1人目出産後に勤めていた病院では、夜間オンコールや夜間の当直は避け、土日の日中のオンコール担当をしていました。また、午後の救急外来を担当してしまうと、子どもの保育園のお迎えに間に合わなくなってしまいます。そのため、救急外来は午前中を担当するなど、調整させてもらっていました。
ただ、どうしても他の医師よりも自分の負担が軽くなっているように感じていたので、他の医師が「ちょっと面倒だな」と思うような、当直表の作成や研修医のスケジュール調整などは積極的に引き受けるようにしていました。どうしても突然休むとなると周囲に迷惑をかけてしまいますが、そこはお願いをし、自分ができる仕事を見つけて進んでやることでバランスをとっていたつもりです……。
また、普段の家事についてはあまり力を入れていません。仕事も家事も育児もすべてを完璧にしようと思うと疲弊してしまうので、自分のなかでもバランスをとっています。
―医師の仕事と育児を両立するために、医療機関に求めることはありますか。
医療機関には医師の仕事と育児を男女関係なく両立できるよう「人材を確保してほしい」という思いが最も強いです。私が働いているクリニックでは、スタッフの子どもを預けられる保育園ができる予定です。
私の勤務先のクリニックを含めた医療法人内で働いている人が優先的に子どもを預けられるシステムなので、共働き夫婦が抱えがちな「保育園に受からなければ復職できないかもしれない」といった不安を取り除けます。このような取り組みを医療機関がおこなってくれると、医師に限らず他の医療職も働きやすいですし、産後復帰の後押しとなるのではないでしょうか。
―医師の働きやすい環境をつくるためには、医療機関の体制づくりが欠かせないのですね。
個人的には医療機関だけでなく、患者さんのマインド変化も重要だと思っています。患者さん自身が「自分の健康は自分で守る」という意識を持ち、受診の仕方や救急車の利用方法といった「医師や救急隊の負担を軽減するための教育」も、地域医療に携わる身としてやりたいことのひとつです。
私自身も市民講座の講師として登壇することがあるので、患者さんのマインドを変えられるように、わかりやすく伝えたいと思います。
在宅医療も子育ても諦めない未来
―在宅医療に興味があるものの、ライフイベントを考えると踏み出せないという医師もいるかと思います。どちらも諦めずに働くためのコツを教えてください。
24時間365日の在宅医療と育児を並行するのであれば、自分以外にオンコール担当者が複数名いる環境で働くことが大切です。いくら患者さんの数が少なかったとしても、自分ひとりでオンコールをしていてはいつ呼び出されるか分からないため、子育てと両立するのは難しいです。やはり、長く医師として仕事を続けたいならば「ひとりで頑張りすぎない」ことも重要だと思います。
また、先人の知恵を借りることも効果的です。先輩医師たちがどのようにして苦難を乗り越えてきたのか、生の声ほど参考になるものはありません。私自身も、子育てをしながら医師を続けている先輩から「うまくやっていくためのアドバイス」をたくさんいただいています。今はオンラインやSNSで全国の医師とつながれるので、困ったら意見交換をすると安心して働けるのではないでしょうか。
―最後に、プライマリ・ケア医として働かれている方、働き方に悩まれている方にメッセージをお願いします。
プライマリ・ケアはとても面白い分野で、たくさんのドラマがあります。ですが、患者さんのことを考えて対応しなければならない範囲が広いのも事実です。だからこそ、自分ひとりだけでなく、いろいろな人を巻き込んで実践していくことが重要だと思っています。対応する範囲が広いため、プライマリ・ケアに携わる医師は「あれも、これもやらなくては……」と抱え込みがちです。しかし、疲れ果ててしまわないように、「医師ではない自分」の気持ちや心の声も大切にしてあげてください。いつかみなさんと一緒に働けることを楽しみにしています。