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訪問診療の現場では、電子カルテの導入が進んだ一方で、「カルテ入力に追われている感覚はあまり変わらない」という声も少なくありません。
そうした中、近年注目を集めているのが「AIによる音声入力機能」です。単なる文字起こしではなく、診療内容を理解し、カルテ形式に整理してくれるAI音声入力は、訪問診療の働き方そのものを変える可能性を秘めています。
本記事では、電子カルテのAI音声入力がもたらすメリットや注意点、ツールの選び方まで詳しく解説します。
訪問診療の現場でカルテ作成に時間がかかる3つの理由
訪問診療は外来診療と比べて、1件あたりに記録すべき情報量が多く、カルテ作成に時間がかかりやすい診療形態です。その背景には、次の3つの理由があります。
① 記録すべき情報量が多く、内容も複雑になりやすい
訪問診療では、診療内容に加えて、患者さんの生活背景や家族構成、介護状況、訪問看護・ケアマネジャーなどとの連携内容なども重要な記録対象となります。外来診療と比べて情報量が多く、カルテの記載内容が複雑化しやすく、作成に時間を要します。
② 移動が多く、まとまった入力時間を確保しにくい
1日に複数の患者宅を訪問するため、移動時間が多く、カルテ入力の時間が細切れになりがちです。その場では簡単なメモにとどめ、詳細な入力は訪問後や帰院後にまとめて行うケースも多く、二度手間が発生します。
③ 患者宅という環境がパソコン作業に向いていない
患者宅では、ノートPCを広げにくい、キーボード入力の音が気になる、入力に集中すると患者さんと向き合った診療ができなくなるなどの制約があります。診療中は患者さん・家族とのコミュニケーションが最優先となるため、電子カルテ入力を同時に行うことが難しく、結果として入力作業が後回しになりやすくなります。
このように、「膨大な情報量」「細切れの時間」「物理的な制約」という3つのハードルが重なることが、訪問診療のカルテ入力の課題となっています。こうした現場特有の課題を根本から解決する手段として、今、キーボード入力に代わる「AI音声入力」という選択肢が大きな注目を集めているのです。
電子カルテのAI音声入力とは|単なる文字起こしとの違い
近年、医療現場で導入が進む「AI音声入力」ですが、一般的なボイスメモの文字起こしとは何が違うのでしょうか。その本質的な違いと、医療現場に特化した進化のポイントを解説します。
「記録」ではなく「カルテ作成」を自動化する
従来の音声入力や文字起こしツールは、発話された言葉をそのままテキスト化するだけのものでした。そのため、後から不要な会話を削ったり、カルテの形式に整えたりする編集作業に結局時間がかかってしまうという課題がありました。
一方、最新のAI音声入力は、「音声を認識する力」に加えて「文脈を理解する力(自然言語処理)」を備えています。 診察中の医師と患者さんとの会話から、カルテに重要な情報を抽出できるのが最大の特徴です。
「SOAP形式」への自動変換
最も革新的な点は、AIが診療内容を解析し、医療記録の標準である「SOAP形式」に沿って下書きを自動生成する点にあります。
AIが会話の中からこれらの要素を自動的に分類して整理するため、医師は診療後に生成されたドラフト(下書き)を確認し、必要に応じて微調整するだけでカルテが完成します。「ゼロからタイピングする」という作業が「AIの記述をチェックする」という作業に置き換わることで、作業時間を大幅に軽減できるのです。
高度な「医療用語」への対応
一般的な音声認識では誤変換されやすい、薬剤名、病名などの医療専門用語も、医療特化型のAIであれば高い精度で認識します。また、略語や独自の言い回しを学習・カスタマイズできる機能を持つツールもあり、使えば使うほど自院のスタイルに馴染んでいくのも、現代のAI音声入力ならではのメリットです。
なぜ「訪問診療」とAI音声入力の相性が良いのか
訪問診療は、外来診療以上に会話量が多い医療です。
患者さんの生活状況や家族の不安、他職種からの申し送りなど、診療に欠かせない情報の多くは会話の中でやり取りされます。
AI音声入力は、こうした会話情報をリアルタイムで記録に反映できるため、診療の質を落とすことなくカルテ作成の負担を軽減できる点が、訪問診療とAI音声入力の親和性が高い理由と言えるでしょう。
AI音声入力の4つのメリットと活用法
訪問診療におけるAI音声入力の導入は、単なる「事務作業のデジタル化」に留まりません。それは、医師の働き方、患者さんとの向き合い方、さらには地域医療の質そのものをアップデートするメリットがあります。
具体的にどのような変化がもたらされるのか、導入によって得られる4つの大きなメリットを詳しく見ていきましょう。
メリット1:カルテ作成時間を大幅に短縮し、残業を削減
AI音声入力を活用することで、カルテ作成時間が30〜50%以上削減されるケースも珍しくありません。
訪問中に音声で記録が進むため、帰院後は確認作業が中心となり、残業時間の大幅削減につながります。
メリット2:患者・家族との対話に集中でき、診療の質が向上
キーボード入力から解放されることで、医師は患者の表情や反応に集中できます。
「しっかり話を聞いてもらえた」という印象は、患者満足度や信頼関係の向上にも直結します。
メリット3:入力ミスや記録漏れを防ぎ、医療安全を強化
記憶に頼った後入力では、どうしても抜け漏れが発生します。
AI音声入力では診療中の情報をそのまま記録するため、記録の網羅性が高まり、医療安全の観点でも有効です。
メリット4:多職種連携をスムーズにし、チーム医療を促進
正確で情報量の多いカルテは、連携する他職種との情報共有にも役立ち、チーム全体の業務効率と連携の質が向上します。
このように、AI音声入力のメリットは、単なる「時間の短縮」に留まらず、診療の質や組織全体の連携にまで波及します。
医師が本来の専門性を発揮すべき「対話」や「診断」に集中でき、それ以外の記録作業をテクノロジーに委ねる。この仕組みを取り入れることが、毎日の診療をよりスムーズに進めるための第一歩となります。
AI音声入力導入時の注意点
AI音声入力は多くのメリットがありますが、導入すればすぐに全てが自動化されるわけではありません。
医療情報の正確性を担保し、患者さんとの信頼関係を維持しながら運用するためには、導入前に注意しておくべきポイントがあります。スムーズな定着のために、以下の4つのポイントに留意しましょう。
必ず医師が最終確認を行う
AIの精度は飛躍的に向上していますが、専門用語の聞き間違いや、患者さんの独特な言い回し、方言などにより、誤変換が発生することがあります。AIが生成したテキストは必ず医師が目を通し、最終的な内容の正確性を担保する必要があります。あくまで「ゼロから書く手間を省くアシスタント」として捉えるのが現実的です。
患者さんへの「事前説明」と「配慮」が必要
診察中に録音を行う場合、患者さんやご家族に対して「正確な記録のためにAIによる音声記録を行っています」といった事前説明が必要です。中には録音に対して抵抗を感じる方もいらっしゃるため、信頼関係を損なわないよう配慮し、必要に応じて同意を得る運用ルールを定めておきましょう。
また、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づき、データの暗号化や適切な破棄などのセキュリティ対策を徹底しましょう。
通信環境の影響を受ける可能性がある
多くのAI音声入力システムはクラウド型であるため、インターネット環境に依存します。電波の入りにくいエリアや場所では、リアルタイムの処理が遅れたり、エラーが出たりすることがあります。オフラインでの一時保存機能があるかなど、訪問エリアの電波状況を考慮した選定が重要です。
現場のオペレーション変更に伴う「慣れ」が必要
これまでの「診察後にメモを取る」という習慣から、「診察中に音声を意識する」という新しいスタイルへの移行には、多少の慣れが必要です。最初は「独り言のように診察内容を声に出して確認する」などの工夫が必要になることもあります。導入初期は少し手間を感じるかもしれませんが、運用の定着まで継続して取り組む姿勢が欠かせません。
AI音声入力のリスクや限界を正しく理解したうえで、自院の運用に最適なシステムを検討することが、導入を成功させるための重要なステップとなります。
訪問診療向けAI音声入力システムの選び方4つのポイント
AI音声入力ツールの注目度が高まるにつれ、多くのサービスが登場しています。しかし、訪問診療は外来とは環境が大きく異なるため、「どのツールを選んでも同じ」というわけにはいきません。
移動が多く、限られた設備や通信環境下で行われる訪問診療において、本当に現場を支える武器となるツールを見極めるにはどうすればよいのでしょうか。導入後に「現場で使われない」という事態を防ぐために、チェックすべき4つの重要ポイントを解説します。
ポイント1:訪問診療の現場で使えるか?(精度・操作性)
医療用語への対応、雑音環境での認識精度、ワンタップで録音できる操作性など、現場目線での使いやすさが重要です。
ポイント2:既存の電子カルテと連携できるか?(連携性)
すでに電子カルテを導入しているクリニックでは、スムーズな連携が必須条件です。
コピー&ペーストやAPI連携のしやすさなどを確認しましょう。
ポイント3:安心して情報を預けられるか?(セキュリティ)
音声データは個人情報の塊です。
医療情報ガイドラインへの準拠、データの暗号化、国内サーバー利用など、セキュリティ体制は必ず確認が必要です。
ポイント4:導入・運用コストに見合うか?(費用対効果)
月額費用だけでなく、「どれだけ時間が削減できるか」「残業代・人件費がどう変わるか」という費用対効果で判断することが重要です。
これら4つのポイントを総合的に判断し、自院の診療スタイルやスタッフのITリテラシーに最もフィットするものを選ぶことが、導入成功への近道です。
「多機能であれば良い」と考えるのではなく、まずは現場の医師がストレスなく使い続けられるか、そして投資に対してどれだけの「時間」と「心の余裕」が生まれるかという視点で比較検討を進めてみてください。
訪問診療におすすめのAI音声入力サービス4選
AI音声入力の有用性は理解できても、「具体的にどのツールが自院に合うのか」を判断するのは容易ではありません。特に訪問診療では、移動の多さや多職種連携といった特殊な環境に対応できる柔軟性が求められます。
ここでは、多くの訪問診療現場で導入が進んでいる代表的なサービスを紹介します。それぞれの強みや特徴を比較し、自院の課題解決に最適なシステム選定の参考にしてください。
Voice Chart|株式会社pipon

(出典:Voice Chart公式サイト)
患者さんとの会話内容をAIがSOAP形式へ自動変換。カルテ作成時間を75%削減できた事例も。
月額10,000円から導入でき、無料のトライアル期間もあるため気軽に導入できます。
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medimo|株式会社medimo

(出典:medimo公式サイト)
クラウド型電子カルテはもちろん、独自開発のスマートペーストを活用することで、オンプレミス型電子カルテとの連携も可能。
kanaVo|kanata株式会社

(出典:kanaVo公式サイト)
在宅医の声から生まれた、専用のスマホアプリで手軽に使える点が強み。
訪問先での簡易入力・音声メモとして活用しやすく、訪問診療の現場にフィットします。
MEDISMA AIクラーク|株式会社HERO innovation

(出典:MEDISMA AIクラーク公式サイト)
診察中の会話を、AIが自動的にSOAP形式に要約。医師は、出力された下書きの内容を修正・調整するだけでカルテが作成できる。PCだけでなく、手持ちのスマホやタブレットからも同様の操作が行えるため、訪問診療におすすめです。
【まとめ】AI音声入力は、訪問診療医が「患者と向き合う時間」を取り戻すための強力なツール
AI音声入力は、電子カルテを「使いやすい道具」から「診療を支えるパートナー」へと進化させます。
カルテ作成に追われる毎日から、患者さんと向き合う本来の時間を取り戻すために、AI音声入力の導入を検討してみてはいかがでしょうか。









