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本記事では、在宅医療運営コンサルタントである林達朗氏が、中央社会保険医療協議会(中医協)での2026年改定の議論の方向性を深掘りし、訪問診療クリニックが今すぐ着手すべき具体的な準備ポイントを解説します。
合同会社エイチコンサル 代表
林 達朗 氏
北海道釧路市出身。大学卒業後、医療事務として病院勤務。その後は、鍼灸師・パソコン学校/医療事務講師を経て、30歳で訪問診療に出会う。事務長等役職を歴任し、40歳で合同会社エイチコンサルを起業。20以上の医療機関/株式会社と業務提携。医療事務20年・訪問診療10年の経験から、あらゆる運営の困りごとを解決=訪問診療の世界平和を目指しています。
はじめに
2026年の診療報酬改定において、在宅医療のキーワードは間違いなく「質」となるでしょう。
中央社会保険医療協議会(中医協)では、この「質」に応じた適切な診療報酬のあり方が精力的に議論されています。
在宅医療を取り巻く環境としては、高齢化の進行は止まらず、単独世帯や高齢者のみ世帯が増加。在宅での医療・ケアニーズは高まり続けています。また、死亡場所の割合も病院が減少し、自宅や介護施設での看取りが増加し、在宅での療養が一般化しつつあります。要介護者も増加しており、特に要介護1の増加が顕著にみられている状況です。
質の高い在宅医療を提供する医療機関は評価が維持・向上する可能性がある一方、質が不十分と見なされれば減算のリスクも考えられます。
2026年改定の方向性:9つのポイントと在宅医療機関での対策
中医協の議論から読み解ける、在宅医療の「質」を評価する主要な論点は以下の通りです。特に在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院は、在宅医療の中核としての機能と責任がより厳しく問われる見込みです。
1. 24時間体制の確保と外部委託(民間企業等の利用)
地域全体(面)または医療機関の「独力」による24時間往診体制の維持が重視される傾向が強く、株式会社等の民間企業への委託(特にファーストコール)は評価が厳しくなる可能性があります。
現時点では、どの程度の減算が発生するのか、また施設基準にどのような影響が及ぶのかは明確になっていません。「月に1回でも該当する運用を行った場合にNGとなるのか」など、具体的な線引きについては、今後さらに議論が深まっていくものと考えられます。
今回問題視されている主な論点は、「ファーストコール」の対応体制です。
患者さんに対し、見ず知らずの医療者(株式会社等に所属する医師・看護師)がオンコール対応を行う可能性について、十分な事前説明がなされていない点が指摘されています。
現時点の議論の流れを見る限り、自院で直接雇用している非常勤・アルバイト医師による対応は問題ない一方、株式会社等を介したオンコール対応については、将来的に減算対象と判断される可能性も否定できません。
そのため、今後は「最低限、ファーストコールは自院職員が対応する」といったように、オンコール体制そのものを見直すなど、組織的な運用変更が求められる可能性が高いと考えられます。
2. 在支診・在支病の地域中核機能の強化
十分な医師数、看取り等の実績、重症患者の割合、他の在宅医療機関への支援機能(後述の3. )など、地域の中核としての実態が強く求められます。
中医協の議論を振り返ると、これまでも一貫して、在支診/在支病が地域の中で果たすべき役割や「立ち位置」が問われ続けてきました。キーワードは「地域の中核」です。
都市部ではやや異なるニュアンスも感じられますが、特に連携型の在宅療養支援診療所においては、「『看取り2件・緊急往診等4件』を達成した後に届け出る施設基準」というイメージになっています。
・1人の医師が過度に多くの患者を診ている(特に施設中心)
・看取り件数が極端に少ない
・軽症者(要支援)が大半を占めている
・同一地域の在宅医療機関との連携がほとんど見られない
といった在支診/在支病については、今後かなり風向きが厳しくなる可能性が高いでしょう。
対策としては、重症者の受け入れにも取り組むことを検討する、施設診療に偏りすぎない患者構成を意識すること、そして地域の医師会などが主導する会合や連携の場に積極的に参加してみるなどを始めてみてはいかがでしょうか。
3. 在宅医療に係る教育体制の評価(医育機能)
学生実習、臨床研修医、地域プログラム等による教育体制(他の在宅医療機関への医育機能)が加点評価の対象となる可能性があります。
また、これらの教育・支援機能が統合された評価として、在宅緩和ケア充実診療所・病院加算の名称や算定要件が変化する可能性があります。
実際にどこまでの範囲の医育機能が求められるのかは明らかになっていませんが、在支診/在支病に対して、こうした医育機能を担ってほしいという政策的な意向は読み取れます。
また、これに関連して、「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が今後どのような形に見直されるのかについても、引き続き注視が必要です。すでに在宅緩和ケア充実診療所・病院加算を算定している医療機関については、今後を見据えて、医育機能に関する体制強化を検討しておくことが望ましいでしょう。
4. 在支診/在支病におけるBCP(事業継続計画)の策定
大規模災害や感染症流行に備えたBCP策定が、在支診・在支病の施設基準として明確に義務付けられる方向性です。
厚生労働省のホームページには、「BCP策定の手引き―在宅医療を提供する診療所編」が掲載されています。最近も大きな地震が発生しており、あらためて、大規模災害発生時の対応や、未曾有の感染症流行に備えた体制整備の重要性が高まっています。
在宅医療を担う医療機関にとって、有事の際にどのように診療を継続するのか、患者や地域をどのように守るのかについて、平時から十分に検討しておくことが不可欠です。BCP策定については、今後、在支診/在支病の施設基準に明確に組み込まれる可能性が高いと考えられます。
対応策としては、地域の医師会等が主催する勉強会やオンラインセミナーに参加することに加え、BCP策定に詳しい専門家から意見を聞くなど、組織としての備えを強化していくことが重要でしょう。
5. 包括的支援加算の算定割合の評価
予想:重症者や医療ニーズの高い患者への対応を示す指標として、包括的支援加算の算定割合(50%以上かどうか)が、在宅時医学総合管理料(在医総管)/施設入居時等医学総合管理料(施医総管)の点数に影響する可能性があります。
包括的支援加算は、通院が特に困難な患者さんや、多職種連携など特別な医学的管理が必要な患者さんへの訪問診療を評価する診療報酬です。この加算の算定割合によっては、「軽症者を中心に診ている医療機関である」と判断される材料になる可能性があります。
現時点では明確な基準は示されていませんが、「在宅その2」のp.28の記載を踏まえると、包括的支援加算の算定割合が「50%」というラインに設定される可能性も考えられます。仮にこの基準が導入され、50%を下回った場合には、在医総管や施医総管における減算が生じる可能性も否定できません。
そのため、まずは自院の患者について、包括的支援加算の算定要件を満たしているかどうかをあらためて徹底的に確認することが重要です。(「障害支援区分2以上」は見落とされがちであるため注意)
なお、厚生労働大臣が定める状態(別表第8の2)に該当する患者は、在宅時医学総合管理料及び施設入居時医学総合管理料で高い点数で評価されることから、包括的支援加算は算定できませんが、「医療ニーズの高い患者」の該当者としてカウントできると思われます。
[対象患者] 以下のいずれかに該当する患者
(1) 要介護3以上に相当する患者(障害支援区分2以上と認定された患者)
(2) 認知症高齢者の日常生活自立度でランクⅢ以上の患者
(3) 月4回以上の訪問看護を受ける患者
(4) 訪問診療時又は訪問看護時に、注射や処置を行っている患者
(5) 特定施設等の入居者の場合には、医師の指示を受けて、看護師が痰の吸引や経管栄養の管理等の処置を行っている患者
(6) 麻薬の投薬を受けている患者
(7) 医師の指導管理のもと、家族等が処置を行っている患者等、関係機関等との連携のために特に重点的な支援が必要な患者
6. 訪問栄養食事指導の実施
2024年改定で施設基準化された「訪問栄養指導を行う体制整備」に加え、医療保険適用の範囲が拡大(特に退院直後)する方向で議論が進んでいます。
自院に管理栄養士がいない場合、まずはその地域の栄養ケア・ステーションや管理栄養士に会いに行ってみましょう。そもそも在宅における栄養指導とは何か、特にその地域で栄養指導を積極的に行っている医療機関等に状況を聞いてみるのも良いかもしれません。
7. ICTを用いた連携体制の構築促進
在宅医療情報連携加算(2024年新設)の届出・算定をさらに進める意向が見て取れます。
在宅医療情報連携加算は、2024年の診療報酬改定で新設されたICT関連の加算であり、現時点までに比較的算定が進んでいる印象があります。一方で、まだ導入していない、あるいは運用面でハードルを感じている在支診/在支病も少なくありません。
実際には、バイタルリンクやMCSなど、地域ごとに独自のコミュニケーションツールがすでに運用されているケースも多く見られます。今回の改定においては、こうした情報連携を「引き続き推進していく」という方向性以上の大きな変更はなさそうです。
ただし、次々回改定以降については、オンライン資格確認と同様に、将来的に基本的な義務として位置づけられる可能性も十分に考えられます。
そのため、対応としては、在宅医療情報連携加算の算定に向けて積極的に運用を検討するとともに、地域で構築されている情報連携ネットワークに参加していくことが重要だと考えられます。
8. 訪問診療時の薬剤師の同時訪問へのインセンティブ
より適切な処方やポリファーマシー対策等の観点から、医師の訪問診療時における薬剤師の同時訪問に対し、医療機関側に新たなインセンティブ(加算)が設けられる可能性があります。(今までは薬剤師/薬局側の居宅療養管理指導算定(介護保険)が訪問する根拠でした)
「保険医療機関及び保険医療養担当規則」第2条の5では、「患者を特定の保険薬局へ誘導すること等を禁止する」旨が定められています。この規定と在宅薬局の選定は、従来から相反する側面があり、患者さんへの説明や提案においても、特定の薬局のみを推奨することは難しい状況が続いていました。
また、医師と薬剤師の同時訪問についても、これまで明確に「可」と言い切れるのかどうか、意見が分かれていた印象があります。しかし今回、特にポリファーマシーへの対応などにおいて、薬剤師の同時訪問は有効であるという観点から、一定のインセンティブが設けられる可能性が出てきています。
もっとも、薬剤師の人件費に見合う水準の加算が設定されるのかどうか、すでに同時訪問を実施している薬局もある中で、具体的にどのような点数や算定要件となるのかについては、引き続き注視していく必要がありそうです。
9. へき地医療における算定要件緩和
へき地医療を提供する在支診・在支病の在医総管/施医総管について、算定要件が緩和される方向で検討されています。
まとめ
2026年診療報酬改定は、在宅医療の「量」から「質」へと明確に舵を切るものとなるでしょう。
特に、在支診・在支病には「地域の中核」として、重症者対応、看取り、教育・連携、そして災害対応(BCP)といった多角的な質の担保が求められます。この「質」の向上は、地域医療への貢献であると同時に、医療機関の安定経営に直結する重要な要素となります。
上記の準備ポイントを参考に、改定情報を注視しつつ、今から組織体制の見直しや教育・連携機能の強化に着手されることを強くお勧めします。
参照)
中医協総会資料(令和7年8月27日)|在宅(その1)
中医協総会資料(令和7年10月1日)|在宅(その2)
中医協総会資料(令和7年11月12日)|在宅(その3)
中医協総会資料(令和7年11月14日)|在宅(その4)








