キャリア/ワークスタイル

プライマリケア領域の診療看護師のロールモデルを目指して|ゆみのハートクリニック|橋 朋絵 さん

  • #キャリア
プライマリケア領域の診療看護師のロールモデルを目指して

今回は地域のプライマリケア領域の診療看護師(以下:プライマリNP)として活躍されている、橋朋絵さんに医療キャリアや在宅医療におけるキャリア形成について、インタビューをさせていただきました。

※診療看護師(NP)とは?
診療看護師(NP)とは5年以上の看護師経験を経たのち大学院修士課程での医学教育を修了し、日本NP教育大学院協議会が実施するNP資格認定試験に合格した看護師です。アメリカでは50年以上の歴史のある職業で、医師からは独立して開業し、診療、検査、処方などを行っています。日本では看護師にはこれらの権限は認められていませんが、診療看護師(NP)は医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定レベルの診療を行うことができます。国内では2008年からNP養成課程が開始され、全国に759名(2023年12月時点)の診療看護師(NP)がいます。

ゆみのハートクリニック主任看護師 プライマリ診療看護師
橋 朋絵 さん

2007年〜2019年 東京都立広尾病院勤務、救急・災害医療・東京都島しょ医療に従事。2018年 国際医療福祉大学大学院 特定行為看護師養成分野へ入学。2020年 診療看護師(Nurse Practitioner:NP)資格を習得。2021年より、ゆみのハートクリニックに入職し、プライマリ診療看護師として在宅診療に携わっている。

在宅医療に携わるきっかけ

看護師の原点が、中学生の時に在宅で曾祖母を看取ったことだという橋さん。

そんな橋さんが、都立病院の救急看護師からNPを取得してクリニックでプライマリNPとして在宅医療に携わるようになった理由は、地域医療、特に高齢者救急を取り巻く医療の在り方に疑問を持ったからだそうです。そのような課題を解決するには、医師のタスクを受け取れる、NPの資格を取り、地域でチャレンジしたいと考え、プライマリNPとしてのキャリアを歩み始めたそうです。

ゆみのハートクリニックを選んだ理由とは?


在宅医療も、医療DXやAI、ICTなどの新しい情報管理ツールが必須になってくると感じていた橋さん。テレナーシングなど、組織として新しい取り組みをしているところでNPとして勤務したかったと言います。
そんなとき、遠隔看護を取り入れ、自宅で過ごせる時間を地域とともに、サポートする看護を取り入れている、ゆみのハートクリニックの看護部の方針に惹かれ、迷わず決めたそう。
また、看護部長さんがNPの採用に対しとても理解があり、「まずは地域のプライマリNPとして、都市部におけるプライマリNPのモデルを創ってほしい」という話も聞き、今後のNPとしての、活動のビジョンが見えたことも理由の1つだと話されていました。

NPとしてクリニックで取り組まれていること

患者さんの急性増悪時、緊急訪問の対応はもちろんのこと、併存疾患の多い慢性疾患の管理や看取りまで、時間をかけて丁寧に介入しないとならない部分を、上級職として訪問してサポートしています。在宅での生活を支えるため、家族へのわかりやすい病状説明や地域とのコミュニケーションも積極的に行っているそうです。

在宅医療では、自宅での急激な状態悪化や症状が徐々に悪くなっていても、悪化する過程に気が付かずそのまま重症化し、慌てて救急搬送となってしまうことがとても多いです。

状態が安定しているうちに「どんな症状経過を辿るのか」「悪くなったとき、いざというときにどうするか」というのを患者・家族の目線に落として病状や経過説明、治療方針の選択の説明することが重要になり、橋さんも意識している部分であると話されていました。


看護師の視点、生活の視点を持つNPだからこそ、患者・家族、地域の訪問看護師、ヘルパーさんから気軽にSOS出してもらえるような存在でいたいと思っていると話します。

そんな、今後需要が高まるであろうNPは全国でも759人しかおらず、その中でプライマリNPとして地域に勤務しているNPは1割未満と、とても少ないのが現状です。自分が取り組んできたことが後進にも続くように、NPの学生の実習受け入れなどのプライマリNPの教育にも注力されているそうです。

在宅医療の魅力とは

様々な現場を見てきた橋さんが感じる在宅医療の魅力は、現在取り組まれていることとも通じますが、「患者さんや家族の生活を守るため、看護師として地域での困りごとを一緒に解消できること」だそう。

病院で働く魅力は、「その場ですぐに必要な検査や処置ができて、目の前で苦しんでいる人の苦痛をすぐに取る関わりができること」だと思います。
一方在宅では、患者さんの生活が主体になるので、いかに患者さんの「望んだ生活が継続できるように生活の中に医療を落とし込めるか」が大切になりますし、患者さんの生活を一緒に考えたり、支えていけることが魅力だと言います。

看護師として大切にしていること

橋さんはとにかく「看護が大好き」


プライマリNPは、医師からの包括的指示・直接的指示を受けながら、自律して医療的なマネジメントを実施することが可能です。臨床推論にもとづく、医学的な判断・介入・薬剤の選択などにもやりがいを感じているそうですが、「ベースの軸は看護師でありたい」と橋さんは言います。

話すことが大好きだという橋さんは、プライマリNPという職種の特性を活かし、「看護師による生活の視点」を優先して診療に携わり、画像を用いた病状や経過説明などを患者さんや家族に寄り添ったわかりやすい説明を行うように心がけているそう。

さらに多職種とのつなぎ役として、普段から患者さんだけでなく、関わっている多職種の方と一緒に考えていくスタンスで、コミュニケーションを多く取り、話しやすい雰囲気を作ることも大切にしているそうです。

今後の展望

現在、在宅領域でのNPは1割ほどのため、ロールモデルがおらず、試行錯誤しながら現在のキャリアを築き上げてきた橋さん。

へき地医療や過疎地域ほどNPが必要と言われていますが、都市部でもNPの役割は沢山存在します。核家族化による家族関係の希薄さにより、地域のコミュニティから孤立してしまった独居高齢者に対する支援は都会でも僻地でも変わりません。その他、情報収集能力がある方とそうでない方、情報をうまく処理できる方と振り回されてしまう方など、医療情報へのアクセスが容易になり、得た情報が膨大でどうやって取捨選択すればよいのか迷う患者さんが急増している中、どのような地域においてもNPの役割が存在します。
そんな現状に、NPがかかりつけ機能を果たし、地域の相談窓口になることが必要だと感じているんだそう。


しかし現在、プライマリNPの教育体制はまだ十分とは言えず、勤務する場所も少ない状態です。NPとしてのインセンティブがつかなかったり、待遇面もいいとは言えないといいます。

橋さんは、自分が先を行く先輩としてロールモデルになって教育体制や待遇面などを整え、プライマリNPの地位を確立させて地域でもっと活躍できる人材を増やしたいと話します。
現在は様々な挑戦ができ、学ぶ機会の多い職場環境へ感謝をしつつ、そのような職場を増やしていくことにも力を注ぎたいそうです。看護師としての謙虚な姿勢を持ち続け、プライマリNPの魅力を全国に発信したいと話されていました。

今後は、入院加療から在宅療養まで、組織の壁を越えて、プライマリNPの特性を生かし、自分自身が患者さんの元へ出向くことで患者さんのケア移行を支援することが夢だそう。また、看護師同士の「看看連携」横の繋がりを強固なものにし、患者さんをハッピーにしたいと話します。


また、プライマリNPのさらなるチャレンジとして遠隔診療を活用し、主治医と連携して、月2回の訪問診療の1回をプライマリNPが担うという訪問診療のスタイルを実現したいそうです。

読者へメッセージ

病院の中でもやもやしていたり、在宅医療が気になっているのであれば、ぜひ地域に飛び込んできて欲しいです。自分の目で病院(治療の場)だけでない在宅医療(生活の場)を見に来て欲しいです。

人材不足でAIを活用していく時代になってきた昨今、同じ場所で同じことを続けているだけの看護師の価値は小さくなっていくでしょう。NPは求められる人材になってくることは間違いないと思います。興味がある方はぜひ在宅医療からキャリアを積んでみてほしいと思います。

この記事を書いた人

花井 萌夏

看護師/ライター。都内の小児科クリニック看護師として勤務。県立病院で血液腫瘍・腎臓・内分泌科のある小児科で5年間勤務後、ワーキングホリデーでニュージーランドへ渡航して語学学習をする。帰国後に訪問看護を経験し、現在に至る。難病の発症を機にライターとしても活動中。

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