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地域の在宅医療と災害対策を牽引する|みんなのかかりつけ訪問看護ステーション・災害看護専門看護師|大久保貴仁さん

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地域の在宅医療と災害対策を牽引する みんなのかかりつけ訪問看護ステーション 災害看護専門看護師 大久保貴仁

今回は、みんなのかかりつけ訪問看護ステーションの大久保貴仁(おおくぼ・たかひと)さんにお話を伺いました。

急性期病院で20年以上看護業務に携わる中、災害看護専門看護師の資格を取得。被災地での支援も多く経験されました。
現在は訪問看護師として、在宅医療や組織マネジメント、災害支援など幅広く活躍されています。これまでの経歴や、災害支援に関する課題と今後の展望などについて伺いました。

株式会社デザインケア 
みんなのかかりつけ訪問看護ステーション須賀川
所長・訪問看護部長代理・災害対策支援室 室長
大久保 貴仁 さん

2001年看護師免許取得後、愛知県一宮市にある急性期病院で21年間勤務。2018年3月福井大学大学院医学系研究科修士課程終了し、2018年12月に災害看護専門看護師取得。2021年9月みんなのかかりつけ訪問看護ステーション瑞穂(名古屋市)に転職し、2022年6月より所長、2023年5月より訪問看護部長代理・災害対策支援室室長となる。人口減少地域での訪問看護の継続性へのチャレンジのため、2023年12月よりみんなのかかりつけ訪問看護ステーション須賀川(福島県須賀川市)で所長を兼務している。

地域の在宅医療・災害支援・マネジメントを担う

ーこれまでの経歴を教えてください

看護専門学校を卒業し、社会医療法人大雄会の総合大雄会病院に21年勤務しました。災害支援に携わるようになったのは、地域の防災訓練の担当になったことがきっかけです。「男で声が大きい」という理由での抜擢でしたが、参加していくうちに病院の災害対策も徐々に任されるようになりました。

「災害のスペシャリストは、スーパージェネラリストであるべきだ」が持論でして、知見を広げるため脳神経外科病棟、救命救急センター、透析室、手術室などあらゆる部署を経験しています。災害支援では、新潟中越沖地震、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの被災地で支援活動を行いました。2018年に災害看護専門看護師を取得し、2021年にみんなのかかりつけ訪問看護ステーション瑞穂に入職しました。2022年に所長を務めたのち、2023年5月より訪問看護部長代理と災害対策支援室室長を任されました。2023年12月からは、これらの役職に加えて須賀川事業所の所長も務めることとなり、現在はこの3つの役職を兼務しています。

ー現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか

訪問看護師の業務では、ご利用者様の「生きる力」と「生きる希望」の2つを大切に、多専門職と連携し、お看取り、難病、認知症、精神疾患まで、人生すべての段階の方にケアを届けています。人口が減り続ける地域で、訪問看護をどのように継続していくかについても日々考え、挑戦中です。

訪問看護部長代理の業務では、須賀川店とつくば店を担当し、所長のチームマネジメントを支援しています。最高のケアを提供できるチームにするため、VMV(ビジョン・ミッション・バリュー)の3点が浸透するよう、指導しています。

そして災害対策支援室室長としては、各店舗におけるBCP※1策定の支援や、社員研修などに携わっているところです。看護師養成校での講義、地域の講演会(年間50本ほど)なども行っています。

※1 BCP:Business Continuity Planning(事業継続計画)
災害等の緊急事態発生時に、損害を最小限に抑え、業務の継続と早期の復旧を図るために策定する計画

人を知り、チームで学び、地域を守る

ー看護師として大切にされていることを教えてください

人に興味・関心をもつことです。ニーズに寄り添ったケアを届けるためには、「何でこの家に住みたいのだろう?」「何で最後までここにいたいと思うのだろう?」といったことから、その人を知ることが重要です。相手に強い思いを寄せて、その「人」を知っていくことが、伴走につながると思います。価値観を知るとも言いますね。難しいことだと常に感じていますが、ケアをする中で、その方のことを少しずつ知っていくように努めています。

もう1つは、専門職として学び続けるチームを作っていくことです。看護師は健康・生活の両面からアセスメントしてケアを届けていく専門職です。これを念頭に、チームで学び、認め合い、スキルを磨き続け、みんながやりがいを感じられる職場にすることを大切にしています。

-今後取り組んでいきたいことを教えてください

この人口減少地域において、ご利用者様への「質の高い直接的ケア」と「価値観にもとづいたケア」の両方を大切にしていきます。そして、自宅での生活を選ぶ方の「生きる力」や「生きる希望」を一緒に見つけていきたいです。須賀川店の周辺では、人口減少と高齢化が加速的に進んでいる地域がたくさんあります。緊急時は遠くの病院まで行かなくてはならないなど、都市部と比べて医療格差があると感じることがあります。このような地域だからこそ、こちらの価値観を押し付けず、限られた資源の中からその方の価値観にもとづいた選択肢を一緒に考えていきたいです。

また、特に医師が不足する地域では、専門・認定看護師やNP(診療看護師)など、専門職の活動が地域を守ることにつながると考えます。そのため、訪問看護における専門看護師の役割を、自身の経験と交えて発信していきます。

遠隔医療などによる医療の効率化も進むと思いますので、そういった情報をいち早くキャッチして、自分たちも活用していきたいですね。

個別災害対策のために必要な情報共有システムがない

ー在宅医療における災害対策に関する課題についてお聞かせください

住民の「生命」「健康」「生活」を守るためには、医療・介護・福祉といった専門職が連携し、行政・専門職・住民すべてを巻き込んだ個別災害対策を行うことが重要です。しかし災害が起こったときに、被災地の状況を知るための情報共有システムや、連携可能なシステムがありません。そのため、安否確認の情報共有も、専門職の業務継続状況の把握もできないのが現状です。

「在宅医療の実践7つの基本原則」という考え方があり、それぞれの頭文字をとって「CSCATTT」※2といいます。1つ目の「C:Command and Control」は、災害への対応時に現場で指揮・統制できる人(コマンダー)の存在が最も大切であることを意味しています。

在宅医療は急性期の視点だけでなく、介護や福祉の視点が必要です。そのためコマンダーには、医療だけではなく介護・福祉それぞれに精通し、本部から指揮・統制する役割が求められます。地域には小児から高齢者までさまざまな方がいらっしゃいますので、制度の理解や地域の特性、住む人たちの属性なども把握している人が本部で仕切らないと、ニーズに合ったケアや対策ができないのです。

※2 CSCATTT:大規模事故・災害への体系的に必要な項目
C:Command and Control(指揮・統制)
S:Safety(安全)
C:Communication(情報伝達)
A:Assesment(評価)
T:Triage(トリアージ)
T:Treatment(治療)
T:Transport(搬送)

CSCAの確立がなければ、TTTはありえない

業務の継続と先を予測することの重要性

ー能登半島の地震において、訪問看護師に求められたことは何でしょうか?

BCPの観点から、業務を継続することです。私たちの仕事は家にいる方へケアを届けることなので、災害時に自宅へ移動しなければなりません。そのためには安全な道、危険な道、増水した川など、その地域の特徴やリスクを把握しておくことが重要です。道路が分断されたとしても、どうやってケアを届けるのか考える必要があります。

もう1つは、先を予測することです。能登半島は集落と集落が離れていて地域が広く、ライフラインがなかなか回復しませんでした。あの寒い中、体力が低下したご利用者様はいったいどれくらい耐えられるのか、このまま家にいていいのか、早く避難所につなぐべきではないのかといったことを考え、どうするか判断しなければなりませんでした。この環境、この状況において、医学的根拠をもって先を予測することが特に求められたと感じています。

情報共有システムにより救える命がたくさんある

ー今後日本の在宅医療における災害対策はどのように発展していくとよいでしょうか

EMIS※3の地域版ができるといいですね。病院には緊急時の状況を宣言できるシステムがありますが、在宅にはありません。そのため、在宅医療従事者がケアをどの程度提供できているのか、被災地はどのような状況なのかといった、情報を共有できるシステムが構築できればいいと思います。

また、安否確認と健康管理ができるシステムの構築も強く望みます。状況が把握できないと、みんながそれぞれ安否確認に行ってしまうことになりかねません。民生委員さんが一番に安否確認に行ったとしても、私たちにその内容を伝える術がないので、次に私たちが自宅に様子を見に行ってしまうことも考えられます。さらに、次にヘルパーさんが、医師がといったように、立て続けに安否確認に行ってしまうこともあるのです。

地域のニーズを迅速に把握し、そこに資源を再分配するのが災害の原則なのに、無駄が生じてしまいます。災害時はご利用者様も動きますから、避難所や施設などに移動してしまっていることも考えられます。安否確認と健康管理ができるシステムがあれば、ケアを届けられ、救える命がたくさんあるはずです。

私には災害看護専門看護師としての大きな役割があります。
在宅医療・介護・福祉における災害対策の課題を行政に届け、情報共有システムの構築などを制度化してもらえるよう、パイオニアとして働きかけていきたいです。

※3 EMIS:災害時に病院、消防、行政機関などをつなぎ、被災地の医療状況を把握・共有し、迅速かつ適切な医療支援を目的とした医療情報共有システム

地域の課題に立ち向かう

ー今後地域医療に従事していただく方へのメッセージをお願いします

地域にいいケアを届けるだけではなく、「地域の課題」にチャレンジする看護師が増えるといいと思います。訪問看護や在宅医療は、人口減少や医療格差といった日本の課題を解決し、ご利用者様の幸せを支える可能性を秘めています。より多くの看護師が在宅医療に取り組むことで、地域医療の質が向上し、社会貢献にもつながるのではないでしょうか。
特に、能力があって優秀な方ほど人口が減り続ける地域で大活躍できると思っています。やる気に満ちた、若くて伸びしろのある優秀な方たちが来てくれると本当に嬉しいですし、活躍できる場をもっと作っていきますので、この地域のような人口減少地域で活躍したい方がいれば一緒に働きましょう!

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この記事を書いた人

すずや

医療・介護ライター/理学療法士。2008年理学療法士免許取得。介護老人保健施設に勤務し、入所・通所・訪問リハビリに携わる。理学療法士として働くかたわら、ライター業を行う。保険制度や医療・介護系職種のキャリア、疾患やリハビリについての記事作成を専門とする。

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