キャリア/ワークスタイル

外科医×コンサルのキャリアが描く在宅医療の新しい形「たまヘルスケアクラスター」 たまふれあいクリニック 院長 鈴木 忠 先生

外科医×コンサルのキャリアが描く在宅医療の新しい形「たまヘルスケアクラスター」 たまふれあいクリニック 院長 鈴木 忠 先生

医療法人メディカルクラスタ 理事長 鈴木 忠先生 プロフィール

1990年日本医科大学医学部卒業後、東京女子医科大学消化器病センター外科入局。
1996年横浜総合病院外科入局し、癌外科医として手術治療から化学療法・患者様のお看取りまで幅広い医療を経験。
2004年(株)メディカルクリエイト入社し、医療コンサルタントとして病院の経営改善や医療の質の改善などのコンサルティング業務に従事。
2011年ふじクリニック、三ツ木診療所など複数の在宅診療所にて勤務/研修を経て、在宅医療に特化する専門クリニックとして2012年たまふれあいクリニックを開設。現在は川崎市多摩区を中心に、「たまふれあいグループ」として医療・介護・福祉・保健事業を統合的に展開する医療法人グループへと成長。

外科医として臨床の最前線に立ち、その後コンサルティング会社で経営を学んだ異色のキャリアを持つ鈴木先生。
2012年の「たまふれあいクリニック」開設以来、地域医療の課題に正面から向き合い、独自の解決策を模索してきました。
その答えが、「たまヘルスケアクラスター」です。単なる在宅医療の提供にとどまらない、この革新的な取り組みについて、構想の原点から今後の展望まで、じっくりと語っていただきました。

外科医が経営コンサルタントへ――キャリアの転機が生んだ視座

――医師を志した理由、そして外科という進路を選んだ背景を教えてください。

医師としてキャリアを歩むなら、人の命に関わる仕事がしたい。その思いは明確でした。
中でも、産婦人科など「生」を支える医療よりも、病気と向き合う「死」に近いところに、自分の関心が向いていきました。
そして大学では、消化器外科という分野に魅力を感じて、外科の道を選びました。


――外科医からコンサルティング会社へ。大きなキャリアチェンジですが、どのような経緯があったのでしょうか。

勤務医として働く中で、組織運営の難しさに直面する出来事がありました。
どれだけ臨床スキルを磨いても、組織として機能しなければ患者さんに最善の医療を届けられない。
この現実が、私に経営への関心を抱かせたんです。
もともと組織改善に興味があったこともあり、大学の通信教育で経営を学び始めました。
ただ、学べば学ぶほど、「理論を知るだけでは現場の複雑な問題は解決できない」という壁にもぶつかりました。

そんな折、医師でありコンサルタントでもある先生と出会い、そのご縁から医療系コンサルティング会社に入社しました。
この経験が、今の法人運営の基盤になっています。
医療現場と経営の両方を理解することの重要性を、身をもって学んだ期間でした。

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ひとりの患者との出会いが変えた、医療への視点

――在宅医療への関心は、コンサル会社でのご経験が影響したのでしょうか?

いえ、原点はもっと前、外科医時代の一つの経験にさかのぼります。
胃ろう造設が内視鏡で行えるようになった当時、老人ホームから入院された高齢の患者さんを担当しました。
治療は成功し、無事に退院されました。ところが、施設での対応が十分ではなく、誤嚥性肺炎で数週間後に再入院。
そして残念ながら、亡くなられてしまったんです。

この出来事が、私の医療観を根底から変えました。
「一つの病院がどれだけ努力しても、地域全体の医療の底上げには限界がある」。この痛烈な気づきが、後の「地域クラスター構想」の原点になりました。
退院後の生活まで見据えた医療。
それを実現するには、一つのガバナンスのもとで必要な機能を束ね、その人に最適な医療・ケアを届ける仕組みが必要だ。
そう考えるようになったんです。

訪問診療だけでは守れない――事業所の壁を越えた統合ケアへ

――その気づきから生まれた「地域クラスター構想」について、具体的に教えてください。

「地域クラスター構想」とは、医療・介護・福祉を統合し、地域のサービスを最適化する持続可能なネットワークです。
私たちはこの構想を川崎市多摩区で実際に展開しており、それが「たまヘルスケアクラスター」という形で具現化しています。

病院では、医師・看護師・コメディカルが同じガバナンスのもとで動き、同じゴールを目指します。
ところが、多くの地域での在宅医療は、訪問診療、訪問看護、介護施設、薬局などの担い手がすべて別法人。各組織が自分たちの「最適化」を目指さざるを得ず、個々が努力しても地域全体の最適化にはつながらないという構造的な課題があります。

そこで重要になるのが、全体を俯瞰して横断的にサービスを調整する"ガバナンス"です。
私たちがモデルとしているのは、アメリカのIHN(Integrated Health Network:統合医療ネットワーク)。
ITによる情報共有に加え、保険会社が深く関与することで組織横断を実現している仕組みです。
ただし、日本では同様の仕組みを行政が整えることは難しい。だからこそ私たちは、「自分たちのガバナンス内で全体最適を実現する」モデルを構築しています。

その中心に据えているのが「マネジメント機能」です。これは特定の施設や職種ではなく、"無形の機能"として「この方に今もっとも必要なサービスは何か」を中立的に判断し、調整する役割を担っています。


――「たまヘルスケアクラスター」を通じて、どのような地域医療を目指しているのでしょうか?


私たちたまふれあいグループの理念は、「地域の人々のよりよい生活と人生のために」。
たまヘルスケアクラスターは、まさにこの理念を体現するための仕組みです。

その使命は、「地域全体の医療レベルを底上げし、持続的に在宅医療を提供し続ける仕組みをつくること」。
そのため、先ほど申し上げた「マネジメント機能」を中心として、訪問看護、介護施設、デイサービスなど多様なサービスを川崎市多摩区に展開し、それぞれを必要に応じて組み合わせながら、その人に最適なヘルスケアを提供しています。
これが「たまヘルスケアクラスター」という形での実践です。

もちろん、個々の医師が高い専門性を発揮して診療されているスタイルにも素晴らしさがありますし、否定するものではありません。
その在り方が患者さんにとって最良のケースも多くあります。

ただ私たちは、特定の医師や医療機関がトップレベルの医療を提供することではなく、「地域全体の底上げをどう図るか」に重きを置いている、ということです。

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データで示す価値――全体最適のための仕組みづくり

――グループ内の各事業所が「全体最適」するために、どのような仕組みを構築しているのでしょうか?

現在進めている大きな取り組みは、「利用者をグループ全体で一元的に把握できる仕組み」の構築です。
一般的な電子カルテやITシステムは事業所単位での使用が前提のため、訪問診療・訪問看護・デイサービスなどを横断した情報共有が困難です。
そこで、独自のシステム開発に取り組んでいます。
次のステップは、「誰が、いつ、どのサービスを利用し、どんな変化があったか」を可視化する分析基盤の整備。
これは、クラスターの価値を客観的に示すためにも不可欠だと考えています。

最近ありがたいことに、「日本でも類のない取り組みだからこそ、もっと発信すべきだ」という評価の声をいただいています。
ただ、現時点で十分に発信できていないのは、「クラスターによって地域がどう変わったか」を示す検証データがまだ整っていないためです。

今後はデータ蓄積と可視化をさらに進めることで、クラスターの価値を客観的に示し、地域や社会に対して発信できる体制を整えていきます。

地域展開の「たまヘルスケアクラスター」から全国へ

――先生が描く「地域クラスター構想」の将来的な姿を教えてください。

クラスター構想には「集合体となることで効率化を生む」という考え方があります。
現在私たちは川崎市多摩区で「たまヘルスケアクラスター」として地域単位でクラスターを束ねていますが、将来日本各地にクラスターができれば、次のフェーズが見えてくると考えています。
最近、国でも「症例数が少ない地域は集約させて技術を高めるべき」という議論が進んでいます。
この"集約が質を高める"という構造は、ヘルスケアクラスターでも同じように起こり得るはずです。

もし全国各地にヘルスケアクラスターが形成されていけば、より高度な医療や専門的な支援が必要な患者さんを一時的に集約し、適切なケアを提供してから、またそれぞれの地域に戻って生活していただく。
複数のクラスター同士が補完し合う「クラスターのクラスター」のような構造ができていけば、日本の地域医療はさらに発展していくと考えています。

在宅医療専門の医師人材紹介サービス「在宅専科」

在宅医療の未来を切り拓く、次世代の医師たちへ

――最後に、これから在宅医療を志す医師に向けて、メッセージをお願いします。

在宅医療は、これからさまざまな人が、いろいろな形で関われるフィールドに変わっていくと思っています。
これまでの在宅医療は、寝たきりの高齢者や安定期の患者さんの看取りが中心でした。
ですが、特に東京や神奈川では専門性がどんどん高まり、輸血管理や化学療法など、より高度な医療を自宅で行うケースも増えています。
在宅でもより専門的な医療を提供していくIntensive home careの方向に、確実に進んでいくでしょう。

在宅医療には「リタイア後の先生が入ってくる場所」というイメージがあるかもしれません。
しかしこれからは、「在宅でもしっかり高度医療ができる、在宅でやってみたい」という前向きな理由でこの領域に飛び込んでくる人が増えていくと思いますし、そういう先生方にぜひチャレンジしてもらいたい。

一方で、在宅医療の本当の面白さは「医療行為」そのものだけではありません。
患者さんの生活全体をどうマネジメントし、その人にとって最適な治療や暮らし方を組み立てていくか。
ここに在宅医療ならではの魅力があります。
家族や多職種との連携を含め、その人の人生に寄り添いながら全体を整えていく。
そこに興味を持って門を叩いてくれる先生が増えてくれると、本当に嬉しいですね。

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この記事を書いた人

一坊寺 唯

医療ライター・コンテンツディレクター/Cuddle Writing(カドルライティング)代表。大学卒業後、ヘルスケア関連企業にて企画職に従事。2019年にフリーランスWebライターとして独立し、医療・健康ジャンルを中心に多数メディアの記事制作を手がける。「信頼できる医療・健康情報を通じて、ヘルスリテラシーを向上させる」というミッションのもと、医療系記事制作チームCuddle Writingを運営。

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