耳鼻咽喉科の経験を活かした嚥下障害ケア ななみ在宅診療所 蒔田勇治院長

耳鼻咽喉科の経験を活かした嚥下障害ケア ななみ在宅診療所 蒔田勇治院長

経済学部卒業後に医学部を再受験し、耳鼻咽喉科で研鑽を積んだ異色の経歴を持つ蒔田先生。
現在は板橋区の「ななみ在宅診療所」院長として、嚥下障害をはじめ在宅医療全般を幅広く診療。
地域密着のきめ細やかな医療と多職種連携で、患者と家族の生活を豊かに支える実践と理念を紹介します。

※本文は「【PICK UP!在宅医療機関 027】板橋区・北区を中心に在宅医療を支える蒔田先生|耳鼻咽喉科の経験を活かした嚥下障害ケア(おうちde医療)」を一部転載したものです。2025年9月に公開されたインタビューをもとに構成されており、内容は当時の情報に基づいております。

蒔田勇治院長のプロフィール

経歴:
千葉県茂原市生まれ
1998年 慶應義塾大学経済学部卒業し、一般企業に勤務
2007年 琉球大学医学部医学科卒業
2007年 千葉大学医学部附属病院にて初期研修
2009年 千葉大学医学部附属病院をはじめ、千葉県内の総合病院に勤務
2011年 千葉大学大学院医学薬学府にて、がんの免疫治療に関する研究に携わり、博士課程修了
2017年 クリニック院長(江戸川区)
2020年 しろひげ在宅診療所(江戸川区)
2025年 ななみ在宅診療所を開院

資格・学会:
日本耳鼻咽喉科学会専門医
在宅褥瘡管理者
認知症サポート医
認定ONP(オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル)
緩和ケア研修終了
千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了

日本在宅医療連合学会
日本褥瘡学会
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
日本臨床漢方医会

在宅専科は高収入とワークライフバランスの両立が叶う求人をご紹介します

社会人から医師へ。異色の経歴が紡ぐ、患者に寄り添う原点

— 医師を目指す前は、一般企業で働いていたそうですね。

はい。大学の経済学部を卒業後、一般企業に就職しました。ただ、学生時代から「自分は将来何をしたいのか」という明確なビジョンがないまま、なんとなく社会に出たという感覚でした。
社会人になってもその想いは拭えず、日々を過ごす中で「このままでいいのだろうか」「本当にやりたいことは何だろう」と、ずっと悶々としていましたね。

— なぜ、安定した社会人生活から、改めて医師への道を選んだのでしょうか?

人生をかけて打ち込める手に職を身につけたいという思いが日に日に強くなっていきました。
もともとスポーツが好きで、トレーニングなどを通じて人の身体の仕組みに興味を持っていました。
その興味を仕事に活かせないかと考えたとき、理学療法士などいくつかの選択肢がありましたが、人の身体と人生に最も深く、長く関わることができるのは医師ではないかと思ったのです。
そこから、会社を辞めて医学部を再受験するという大きな決断に至りました。

d949537c48a01593e6390c38e54a9232-1760419344.png
— 再受験を決意された時、不安はありませんでしたか?

正直なところ、当時は「自分はできるだろう」という不思議な自信がありました(笑)。
それだけ「今の状況を変えなければならない」という思いが強かったのだと思います。
もちろん、当時の社長からは「そんなの無理だよ」と言われましたし、客観的に見れば無謀な挑戦だったかもしれません。
しかし、もしここで挑戦しなかったら、一生後悔する。その一心で前に進みました。

— 医師になってからは、どのようなキャリアを歩まれたのですか?

琉球大学の医学部に入り直し、卒業後は千葉大学の耳鼻咽喉科・頭頸部外科に入局しました。
そこには本当に情熱的な先生方が多く、大きな影響を受けましたね。
大学病院では、12時間、14時間にも及ぶような大きな手術が日常茶飯事で、手術が終わった後も患者さんの術後管理で深夜まで病院にいることも珍しくありませんでした。
体力的にハードな日々でしたが、外科医としての技術と精神力を徹底的に鍛えられた、非常に貴重な経験だったと感じています。

— なぜ、多忙な大学病院の外科医から、在宅医療の世界へ進まれたのですか?

当時大学病院での臨床に加えて大学院での研究もしていましたが、大学院卒業後に結婚したことが大きな転機でした。
それまでの働き方では、どうしても家族との時間が犠牲になってしまう。
ワークライフバランスを考え、一度耳鼻咽喉科のクリニックで外来中心の勤務に切り替えました。
しかし、3年ほど経つと、今度は耳・鼻・喉といった局所的な診療だけでなく、再び患者さんの全身を総合的に診る医療に携わりたいという思いが強くなってきたんです。

— 初めて在宅医療の現場に立った時、病院との違いに戸惑いはありましたか?

はい、最初は戸惑いの連続でした。
転職サイトで偶然見つけた「しろひげ在宅診療所」で在宅医療を始めたのですが、病院とは全く違う環境に驚きました。
特に、病院では各診療科の医師の協力も得ながら行っていた患者さんの診断や方針を一人で判断しなければならなかったり、患者さんご本人だけでなく、ご家族との密なコミュニケーションが求められたりする点には苦労しましたね。
ある時、患者さんの褥瘡の処置に集中するあまり、ご家族への説明が不足してしまい、主治医交代のご要望をいただいたこともありました。
この苦い経験を通じて、在宅医療は医学的知識はもちろんのこと、患者さんとご家族の心に寄り添う姿勢が何よりも大切だと痛感しました。
経験豊富な看護師さんを始め、スタッフの皆さんが本当に親身にサポートしてくださり、そのおかげで多くのことを学び、乗り越えることができたと思っています。

患者ひとりひとりに向き合える医療を

人と社会を豊かにする「ななみ在宅診療所」の誕生

— しろひげ在宅診療所でのご経験を経て、開業を決意されたきっかけは何だったのでしょうか?

50歳という年齢が近づくにつれて、再び「このままでいいのか」という思いが湧き上がってきました。
これまでは、どちらかというと与えられる側、サポートされる側でキャリアを積んできましたが、人生の後半は、自分が主体となって何かを「与える側」になりたいと強く思ったのです。
後悔しない生き方をするために、自分の理想とする医療を自分の手で創り上げたい。
その思いが開業へとつながりました。


— 開業地として板橋区を選ばれたのには、特別な理由があったそうですね。

当初は、以前住んでいた江戸川区での開業を考えていました。しかし、在宅医療の要である緊急往診を考えたとき、自宅から遠い場所では迅速な対応が難しい。自宅を移すことも現実的ではなかったので、自宅から通える範囲で場所を探し直しました。その中で浮上したのが、この板橋区なんです。
実は、私の義父が板橋区でクリニックを開業しており、まさにこの場所は、そのクリニックの2階になります。
不思議なご縁を感じ、この地で地域医療に貢献することを決意しました。

ななみ在宅診療所
— 「ななみ在宅診療所」という名前の由来を教えてください。

開業を考える中で、ある時、何気なく見ていたYouTubeに出ていらした仏教の和尚さんのお話しに感銘を受けました。
「より良く生きて、そして幸せになる」ということをベースにお話をされている中で、「日常五心(にちじょうごしん)」という教えを知りました。
これを理念の核に据えたいと思いましたが、「ごしんクリニック」では語感が良くないと思いまして(笑)。
そこで、七福神やラッキーセブンなど縁起の良い「七」という数字にちなみ、さらに「明朗(めいろう)」と「同事(どうじ)」という2つの心を加えて「七つの心」、つまり「ななみ」と名付けました。

ななみ在宅診療所名前の由来

「在宅専科」在宅医療専門の医師求人サービス

「ななみ在宅診療所」の開業ストーリーや目指す姿、在宅医療における課題など、インタビューの続きはこちらからお読みください。

板橋区・北区を中心に在宅医療を支える蒔田先生|耳鼻咽喉科の経験を活かした嚥下障害ケア

ななみ在宅診療所

〒174-0052
東京都板橋区蓮沼町20-14 2階
TEL:03-3965-0773
お問合せフォーム
https://nanami-clinic.com/contact

「在宅専科」在宅医療専門の医師求人サービス

関連記事

  • 食支援とアドバンス・ケア・プランニングで実現する患者中心の在宅医療|ひかりクリニック院長謝新先生
    • 在宅医療を学ぶ
    • 特集

    食支援とアドバンス・ケア・プランニングで実現する患者中心の在宅医療|ひかりクリニック院長謝新先生

  • 在宅医療は「人対人」の最適な医療 ー寄り添いの軌跡とチームの力|みなみ在宅クリニック| 南大揮先生
    • 在宅医療で働く
    • キャリア/ワークスタイル

    在宅医療は「人対人」の最適な医療 ー寄り添いの軌跡とチームの力|みなみ在宅クリニック| 南大揮先生

  • 医師の多様なキャリアに対応:在宅医療と病院勤務の「兼務」が拓く可能性|いきがい在宅クリニック院長 長野 宏昭先生
    • 在宅医療を学ぶ
    • 特集

    医師の多様なキャリアに対応:在宅医療と病院勤務の「兼務」が拓く可能性|いきがい在宅クリニック院長 長野 宏昭先生

この記事を書いた人

在宅医療カレッジ編集部

在宅医療に関わる方・これから始めたい方を応援する在宅医療の情報プラットフォーム「在宅医療カレッジ」編集部です。 「学ぶ」「働く」「役立つ」をテーマに在宅医療に関するあらゆる最新情報を配信しています。

おすすめ記事

  • 離島で育む医師としてのキャリア──全人的に診られる医師を目指して|神津島診療所 栗原 智先生

    在宅医療で働く

    離島で育む医師としてのキャリア──全人的に診られる医師を目指して|神津島診療所 栗原 智先生
  • 心臓外科から訪問診療へ──外科医にとっての新たなキャリアパス|よつばや在宅クリニック 院長 中尾 充貴先生

    在宅医療で働く

    心臓外科から訪問診療へ──外科医にとっての新たなキャリアパス|よつばや在宅クリニック 院長 中尾 充貴先生
  • 『困った時にすぐ駆けつける』かかりつけ医を目指して―香川で描くシームレスな地域医療の実現|敬二郎クリニック 西信俊宏院長

    在宅医療を学ぶ

    『困った時にすぐ駆けつける』かかりつけ医を目指して―香川で描くシームレスな地域医療の実現|敬二郎クリニック 西信俊宏院長
  • まちづくり系医師・井階友貴先生に聞く ――社会的処方と地域に根ざした医療のかたち

    在宅医療を学ぶ

    まちづくり系医師・井階友貴先生に聞く ――社会的処方と地域に根ざした医療のかたち

新着お役立ち資料

  • 採用支援サービスと人材紹介の違いとは|無料ダウンロード

    開業/運営

    採用支援サービスと人材紹介の違いとは|無料ダウンロード
  • 訪問診療クリニックの医療事務の離職を防ぐポイント|無料ダウンロード

    開業/運営

    訪問診療クリニックの医療事務の離職を防ぐポイント|無料ダウンロード
  • クラウド型カルテのセキュリティの仕組みとは?|無料ダウンロード

    開業/運営

    クラウド型カルテのセキュリティの仕組みとは?|無料ダウンロード

「在宅医療で働く」の新着記事

  • 離島で育む医師としてのキャリア──全人的に診られる医師を目指して|神津島診療所 栗原 智先生
    • 在宅医療で働く
    • キャリア/ワークスタイル

    離島で育む医師としてのキャリア──全人的に診られる医師を目指して|神津島診療所 栗原 智先生

    • #インタビュー
  • 心臓外科から訪問診療へ──外科医にとっての新たなキャリアパス|よつばや在宅クリニック 院長 中尾 充貴先生
    • 在宅医療で働く
    • キャリア/ワークスタイル

    心臓外科から訪問診療へ──外科医にとっての新たなキャリアパス|よつばや在宅クリニック 院長 中尾 充貴先生

    • #インタビュー
  • 『行動第一』で切り拓いた多彩なキャリア―救急、総合診療を経て在宅医療へ|敬二郎クリニック 西信俊宏院長
    • 在宅医療で働く
    • キャリア/ワークスタイル

    『行動第一』で切り拓いた多彩なキャリア―救急、総合診療を経て在宅医療へ|敬二郎クリニック 西信俊宏院長

    • #インタビュー
  • 年収2,000万円も目指せる?若手医師のキャリアを広げる「在宅医療」のやりがいと働き方
    • 在宅医療で働く
    • 転職

    年収2,000万円も目指せる?若手医師のキャリアを広げる「在宅医療」のやりがいと働き方