外来クリニックのための在宅医療スタートアップ講座 |【第2回】外来クリニック向け:訪問診療のリアル、まるわかりガイド〜“在宅で診る”とはどういうことか、考え方から実践まで〜
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外来の患者さんが通院できなくなった——その時どうしますか?
長年診てきた患者さんが高齢となり、
「もう通院が難しくて…」とご家族から相談を受けることが増えていませんか?
そんな時、“切れ目のない医療”を提供する手段の一つが「訪問診療」です。
今回は、外来診療と訪問診療の違いや、対象患者のイメージ、外来診療と両立した場合の1日の流れ、さらに「在宅でどこまで医療ができるのか?」まで、訪問診療のリアルな全体像をわかりやすくご紹介します。
訪問診療=急変時の往診?いいえ、それは誤解です
「訪問診療って、夜中に呼ばれる大変な医療じゃないの?」
「うちは高齢の患者さんはいるけど、寝たきりの人は少ないから…」
こうした声は、外来の現場でよく聞かれるものです。
ですが実は、訪問診療の本質はまったく異なります。
訪問診療とは、計画的に行われる診療です。
夜間や休日の急変時に駆けつける「往診」とは目的も性質も異なり、訪問診療の中心は、定期的に通院することが難しくなった患者さんに対して、継続的に医療を提供していくことにあります。
厚生労働省も、訪問診療を「医学的に通院困難な者に対し、計画的に行う診療」と定義しています(在宅医療の手引き2022より)。
訪問診療と往診の違いを整理しよう
訪問診療(定期) | 往診(突発) | |
目的 | 定期的な健康管理・病状コントロール | 突発的な急変対応 |
タイミング | 月1〜2回など計画的 | 夜間・休日など臨時対応 |
報酬 | 包括的(月額)+加算 | 出来高制(1回ごと) |
対象 | 通院が困難な方 | 急な発熱・転倒など |
➡ 訪問診療は「在宅のかかりつけ医」として、長期的に患者さんを支えていく医療です。
どんな人が訪問診療の対象になるの?
対象は、「通院が困難な状態」にある方。
つまり、寝たきりや重度である必要はまったくありません。
よくある訪問対象患者の例
- 膝や腰の痛みで、通院が困難になってきた高齢者
- 糖尿病、高血圧、心不全、呼吸器疾患など、継続的な管理が必要な慢性疾患を抱えているが通院が困難な方
- 認知症で、外出に不安がある独居の方
- がんの治療後、自宅で静かに過ごしたいと希望される方
- 脳梗塞の後遺症で、介護ベッド生活が中心になった方
- 難病や精神疾患で、自宅で療養されている方
➡ “寝たきり患者”ではなく、“これまで外来で診ていた方が診療継続できなくなった”時が、訪問診療の出番です。
外来診療と在宅医療の違い ——「病気を診る」から「生活を看る」へ
外来診療は、患者さんが医療機関に足を運び、診察室という“医療の場”で行われる診療です。一方、訪問診療は、医師や看護師が患者さんの暮らす“生活の場”に足を運びます。この環境の違いは、単なる場所の違いにとどまりません。
在宅医療では、患者さんの 生活全体を診ること が求められます。
たとえば…
- 処方された薬は、実際に患者さんが手に取って飲めているか?
- 冷蔵庫の中はどうか?食事は取れているか?
- トイレや入浴はどうしている?介助の状況は?
- 同居家族の負担感や、介護者の疲弊はないか?
- 医療だけでなく、介護や福祉、地域とのつながりはどうか?
外来では見えづらいこれらの「生活のリアル」が、在宅では診療中に自然と浮かび上がってきます。
「生活を看る」視点が、予防・支援・継続的なケアにつながる
在宅医療では、病気だけを診るのではなく、その人の 暮らしを支える医療 が重要になります。たとえば、薬の飲み忘れが続いていた背景に、実は手が不自由で薬を開けづらかったというケースも。こうした“生活の文脈”に気づくことが、効果的な医療や支援につながります。
訪問診療の現場:1日の流れはどんな感じ?
例えば、午後の数時間を使って4〜6件を回るクリニックが一般的です。
1件あたりの滞在時間は30分~1時間程度。事務スタッフや看護師が同行することもあります。
訪問診療の1日スケジュール例(ある火曜午後)
時間 | 内容 |
13:00 | クリニック出発、準備・指示確認 |
13:30 | Aさん宅(認知症・介護者支援含む) |
14:15 | Bさん宅(がん在宅緩和ケア) |
15:00 | 施設訪問(3名診察) |
16:30 | クリニック帰着、記録・処方・関係者連携対応 |
在宅でもできること、意外とたくさんあります
訪問診療では、簡易検査や処置、指導・相談など、外来に近いことが行えます。また設備や条件によって入院で行うような医療処置も可能です。
実際に行われている診療内容
- 血圧・血糖・栄養状態などのモニタリング
- 内服調整・処方(在宅で薬局と連携も可)
- 採血、心電図、尿検査、エコーなどの検査
- カテーテル管理・褥瘡処置・点滴・在宅酸素・輸血などの医療処置
- ご家族との今後のケア方針相談
- 終末期の在宅看取り対応
➡ “何ができるか”より“どこまで対応するか”を明確にすることが、運営のカギになります。
24時間対応が不安?実はハードルは下げられます
診療報酬上、在宅医療は「24時間対応体制」が求められるケースもありますが、
すべてのクリニックが“夜間・休日まで完全対応”しているわけではありません。
対応方法は主に3パターン
- 自院だけで完結する(24h自前体制)
- 夜間・休日のみ他院と連携する(輪番・協力医師)
- 夜間オンコール代行サービスと連携し、自院は“外来+日中訪問”に注力する
➡ 自院のリソースに合わせて設計できる柔軟な体制が、今は主流です。
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訪問診療を始めるべきサインとは?
次のようなことを感じ始めたら、訪問診療を検討するタイミングです:
- 「外来に来られなくなった患者が増えてきた」
- 「ケアマネジャーから“訪問診療できませんか?”と声をかけられる」
- 「患者数は維持しているが、新規が増えづらい」
- 「これからの地域ニーズに備えたい」
➡ “地域に信頼されている先生”こそ、訪問診療の主役になれるのです。
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