外来クリニックのための在宅医療スタートアップ講座 |【第1回】訪問診療スタートガイド:外来クリニックが訪問診療を開始すべき理由〜外来クリニックの次の一手としての在宅医療〜
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関心はあるけど不安…そんな先生こそ知っておきたい訪問診療の第一歩
「訪問診療、関心はあるけれど、専門的すぎてうちには無理なのでは?」
そう感じている先生も多いと思います。
でも実は今、外来クリニックが“訪問診療にも取り組む”ことは、特別なことではありません。
むしろ「地域に必要とされる医療機関」であるために、今後ますます重要な選択肢になっていきます。
この連載では、外来クリニックの院長がムリなく訪問診療を導入し、
地域貢献と経営安定の両立を図る具体的ステップを連載でわかりやすくお届けしていきます。
国が“訪問診療”を本気で推進している理由
日本は、超高齢社会の真っ只中にあります。
2025年には、いわゆる「団塊の世代」がすべて後期高齢者(75歳以上)となり、
医療・介護のニーズはさらに高まります。
そこで国は、「施設や病院ではなく、自宅で最期まで暮らせる仕組みづくり」を進めています。
その中核を担うのが、「在宅医療」です。
厚生労働省が2024年6月に公表した調査(※)によると、2023年5月診療分のレセプトにおける在宅患者訪問診療料の算定患者は過去最高の100万1102人でした。直近2年間でも10万人以上のペースで伸びており、今後も在宅患者のさらなる増加が予想されます。
※厚労省|2023年社会医療診療行為別統計
厚生労働省の政策でも、在宅医療は“重要戦略”
- 地域包括ケアシステムの中核に位置づけ
高齢化の進展に対応するため、在宅医療は「住み慣れた地域で最期まで暮らす」ことを支える仕組みとして、政策的に中心的な役割を担っています。 - 医療計画や診療報酬改定で後押し
第8次医療計画(2024年度〜)では、在宅医療の提供体制構築が重点項目に位置づけられ、2024年度診療報酬改定でも在宅医療の評価が強化されています。
参考)厚生労働省|第8次医療計画における在宅医療の体制整備について - 医師会や自治体との連携強化、推進事業の補助金制度もあり
厚生労働省は「在宅医療・介護連携推進事業」により、自治体に対して医療・介護連携体制の整備を支援。都道府県や市区町村が医師会等と連携し、地域ごとの体制構築を促進するための財政支援が行われています。
参考)厚生労働省|在宅医療・介護連携推進事業の取組について
➡ 厚生労働省は「病院から在宅へ」の流れを明確に打ち出しています。
外来クリニックが訪問診療を始めるべき3つの理由
①地域のニーズが確実にある
高齢化の進行により、「通院が困難な患者」は今後ますます増えることが予測されています。
たとえば、厚生労働省の推計では2040年には977万人が要介護(要支援)状態になるとされており、移動や通院が困難な高齢者は確実に増加します。
引用)経済産業省|将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会
また、在宅医療を必要とする患者層は多様化しており、
- 高齢によるフレイルや慢性疾患の患者
- 認知症を患っているが施設には入所していない方
- がんの終末期で自宅療養を希望する方
といった人々が地域に多く存在しています。
こうした患者の支援を担うケアマネジャーや高齢者施設の職員から、「訪問診療に協力してくれる医療機関が足りない」という声も多く聞かれます。
さらに、外来通院中の患者さん自身が、将来的に訪問診療に切り替わるケースも少なくありません。
すでに信頼関係のあるクリニックがそのまま訪問対応をしてくれるなら、患者にとっても大きな安心材料になります。
つまり、訪問診療は“これからの医療ニーズ”にしっかり応える分野。
地域と既存患者の双方から求められる医療です。
② 経営の安定と多角化につながる
訪問診療は、外来診療とは異なる「月額制+加算型」の報酬体系で、比較的収益が安定しやすい特徴があります。
たとえば、在宅患者訪問診療料(月1〜2回)に加え、クリニックの施設基準や患者の状態に応じて在宅時医学総合管理料(在医総管)やターミナルケア加算などが算定され、1人の患者から得られる収入は各種加算等の取得状況によりますが、居宅患者で7万円前後、施設患者で3万円前後となります。
これは一般的な内科の外来患者1人あたりの単価(5000円前後)と比べると大きく、
- 患者数が少なくても経営的に成立しやすい
- 訪問数を調整すれば、医師の労働負担と収益のバランスも取りやすい
といった点が魅力です。
また、午後の空き時間や予約枠のすき間など、比較的柔軟な時間帯で対応が可能なため、人件費を抑えつつ利益を出しやすいというメリットもあります。
外来のみに依存しない「収益の第二の柱」として、
クリニックの経営安定化に大きく貢献する可能性があります。
③ 外来の延長線上で“無理なく”始められる
「訪問診療=24時間体制・専門医療・多数のスタッフが必要」といったイメージを持たれることが多いですが、
実際には最初から完璧な体制を整える必要はありません。
- 週1回、1〜2件の訪問からスタートする
- 既存の患者から訪問が必要な方に徐々に切り替えていく
- 医師1名+看護師や事務スタッフとの少人数チームで始める
といった形で、自院のペースやリソースに合わせて段階的に導入することが可能です。
さらに、地域の訪問看護ステーションや薬局、ケアマネジャーとの多職種連携が機能すれば、診療の負担は分散され、24時間対応も地域全体で支える体制が整えやすくなります。
訪問診療は、「一部の専門クリニックだけのもの」ではなく、
外来診療の延長として“自院らしく始められる”柔軟な医療です。
ハイブリッド型クリニックが今、増えています
近年、「外来診療+訪問診療」を両立する“ハイブリッド型クリニック”が全国的に増加しています。
この動きは単なる診療形態の変化ではなく、医師としてのあり方や、地域医療に対する想いから生まれている選択でもあります。
「この地域で最期まで診ていきたい」
多くの開業医が日々外来で診ている患者の中には、いずれ通院困難になる方も少なくありません。
そうした患者を“最期まで責任をもって診たい”という思いは、特に地域密着型のクリニックの医師に強くあります。
実際、かかりつけ医機能の強化が国の医療政策でも進められており、2022年度の診療報酬改定では「外来医療機関が訪問診療を併設することで評価が上がる仕組み」が整備されました。
つまり、「開業医が地域で最後まで診る」というスタイルは、医療政策にも合致する方向性になっています。
「通院が難しくなった患者を診る手段がほしい」
高齢化が進み、75歳以上の後期高齢者人口は2025年に2,200万人を超えると見込まれています。
この中には、独居や家族の支援が少ない方、認知症やフレイルで外来通院が困難な方も多く含まれます。
これまでは「通院できない=病院に行けない」状態だった方に対し、訪問診療は**“医療アクセスを途絶えさせない選択肢”**として重要になっているのです。
また、在宅療養を希望するがん患者や、緩和ケアを希望する患者も増えており、そうしたニーズにも対応できるのがハイブリッド型クリニックの強みです。
「高齢になっても続けられる診療スタイルがほしい」
開業医自身も年齢を重ねる中で、「体力的にハードな外来診療を長く続けるのが難しい」と感じるケースが増えています。
一方で、訪問診療は—
- 限られた件数でスケジュールを組める
- 移動時間を活用して休息や記録整理が可能
- 比較的落ち着いたペースでの診療が可能
などの点から、高齢期の診療スタイルとしても継続しやすいというメリットがあります。
さらに、医師一人ではなく複数名体制で訪問を分担することで、柔軟な働き方も実現できます。
ハイブリッド型クリニックは、働き方改革・地域ニーズ・医師のキャリア設計すべてにフィット
- 外来と訪問を組み合わせることで、患者のライフステージに応じた“切れ目のない医療”を提供できる
- 医師にとっても、働き方の多様性や将来的な診療継続の選択肢として価値がある
- 国も診療報酬や地域医療構想でその体制を後押ししている
これらの理由から、ハイブリッド型のクリニックは今後も拡大が見込まれる診療モデルといえるでしょう。
この連載で学べること
今後の連載では、以下のようなテーマを深掘りしていきます:
- 訪問診療の基本的な内容と診療対象
- 収益構造と“利益が出る仕組み”
- 訪問診療開始に必要な準備と届け出
- 必要な体制(人員・ICT・書類など)
- 地域連携と患者獲得のリアルな方法
まとめ:訪問診療は「地域に必要とされる医療」そのもの
訪問診療は、単なるサービスの追加ではありません。
これからの地域医療を支える“スタンダード”な診療スタイルです。
そして、その中心になれるのは、すでに地域で信頼を得ている外来クリニックの先生方です。
ぜひこの連載を通じて、
「うちのクリニックにもできるかもしれない」
「だったら、やってみようかな」
そんな一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しく思います。
▶ 次回予告
【第2回】外来クリニック向け:訪問診療のリアル、まるわかりガイド
〜“在宅で診る”とはどういうことか、考え方から実践まで〜