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在宅医療のニーズが拡大する中、24時間365日患者さんやご家族の安心を支えるオンコール体制を構築することは非常に重要です。
しかし、その体制を維持・強化することは多くのクリニックにとって大きな課題の一つともなっています。
本記事では、在宅医療におけるオンコール対応の現状と課題を整理し、持続可能なクリニック運営を実現するための解決策を提案します。
在宅医療クリニックではどのようなオンコール体制をとっている?
在宅医療クリニックのオンコール体制は、主に以下のようなパターンに分類できます。
医師のみが対応
クリニックの常勤医や非常勤医が持ち回りでオンコールを担当するものです。患者さんの状態を最もよく知る主治医が直接対応するため、質の高い医療を提供できます。情報共有もスムーズで、患者さんやご家族も強い安心感を得られます。しかし、医師の人数が少ないクリニックでは、個々の医師の負担が非常に大きくなり、疲弊や離職につながるリスクがある点が課題です。
初期対応のみ看護師が対応
ファーストコールを看護師が受け優先度の判断を行った上で、必要に応じて医師に報告・相談する体制です。医師の負担が軽減されるという大きなメリットがあり、医師は本当に緊急性が高い事案に集中できます。一方で、看護師が対応できる範囲が限られることや、情報伝達にミスが生じる可能性があるというデメリットもあります。
一人院長による対応
在宅医療を提供するクリニックは規模が大きくないものも多く、その場合院長が一人ですべてのオンコールに対応することがあります。この体制は、患者さんやご家族が緊急時に、いつも診てくれている院長と直接話せるという安心感につながります。意思決定が迅速に行え、患者さんとの間に強い信頼関係を築けるのが利点です。しかし、24時間体制のオンコールは院長の大きな負担となり、プライベートな時間の確保や健康維持が難しくなるという課題があります。
オンコール体制を整えるメリット
なぜ、ここまでオンコール体制の構築が重要視されるのでしょうか。その理由は、単に患者さんの安全確保に留まらない、多岐にわたるメリットがあるからです。
患者さん・ご家族からの信頼獲得
在宅医療において、患者さんやご家族は、予期せぬ体調の変化や緊急事態に常に不安を抱えています。24時間365日いつでも相談できる窓口があることは、こうした不安を軽減し、クリニックへの絶対的な安心感と信頼を築く上で最も重要な要素となります。患者さんやご家族との信頼関係を維持することは、安定したクリニック運営の基盤にもなります。
診療の質の向上
オンコール体制が整っていると、容態急変時にも的確な対応ができ、患者さんの健康状態を安定させることができます。これにより、救急搬送や入院の頻度を減らすことにも繋がり、患者さんやご家族の生活の質(QOL)向上にも貢献します。スタッフの疲弊を防ぎ、日中の診療に集中できる環境を構築することは、結果的に医療の質全体の向上にもつながります。
在宅療養支援診療所としての機能
「在宅療養支援診療所」として認可されるには、24時間体制の確保が必須要件です。これにより診療報酬が加算されるなど、クリニックの経営基盤を安定させる上で不可欠な要素となります。在宅医療の専門性を高め、地域医療の中心的な役割を担う上でも、強固なオンコール体制は重要です。
オンコール体制の構築が困難な理由
理想的なオンコール体制の構築が重要である一方、多くのクリニックが以下のような課題を抱えています。
精神的・身体的負担の増大
オンコール業務は、日中の診療業務を終えた後も、いつ電話がかかってくるかわからない状況に置かれ、常に緊張を強いられます。夜間の睡眠中断は心身の疲弊を招き、プライベートな時間も確保しづらくなります。看護師の約7~8割がオンコール業務に精神的な負担を感じているとする研究もあり、オンコール対応が医療従事者のワークライフバランスを損なうこと原因であるといえるでしょう。
採用の困難と人材の流出
オンコール体制の負担は、新規の採用活動において大きな障壁となります。「時間外オンコール対応あり」という条件は敬遠されがちで、慢性的な人材不足に拍車をかけます。また、その負担の大きさはスタッフが離職する大きな理由の一つでもあります。
非効率な初期対応
在宅医療におけるオンコールの内容は、必ずしもすべてが急を要するものではなく、緊急性の低い内容も多く含まれています。しかし医師や看護師、クリニックのスタッフは夜間・休日の診療中でもすべての電話に対応しなければならず、業務が頻繁に中断され本来の診療に集中できないという問題も生じています。多忙な診療の合間に電話が鳴ることで、患者さん一人ひとりに向き合う時間が削られ、医療の質にも影響を及ぼしかねません。
課題解決のための具体的なアプローチ
これらの課題を解決し、持続可能なオンコール体制を実現するためには、以下のようなアプローチが求められます。
スタッフ間の公平な体制づくり
当番制を導入する場合、スタッフ間の負担が均等になるよう、勤務シフトを工夫したり、オンコール手当を充実させたりするなど、公平性を保つためのルールを明確にすることが必要になります。また、当番医の負担を軽減するため、あらかじめ当日の患者さんの容態や注意点などを共有する情報共有体制を構築することも有効です。
マニュアル・ルールの整備
緊急時対応マニュアルやオンコール対応の判断基準を明確化することで、スタッフ個人の負担を軽減し、対応者によってその品質に差が出ることを防ぐことができます。緊急度の高さについて具体的な判断基準を定めることで、誰が対応しても適切な初期対応が可能になるほか、オンコールの対応者も判断がしやすくなるため業務負担を軽減させることができます。
オンコール代行サービスの活用
オンコール対応の外部委託は効果的な解決策の一つです。専門のオペレーターが初期対応を代行することで、クリニックのスタッフが対応する電話を大幅に減らし、休日・夜間の精神的な緊張感から解放することができます。これは、医師や看護師のQOL向上、そしてスタッフの定着率向上にも直結します。
まとめ
在宅医療の需要増加の一方で、医療従事者の負担は増大しています。オンコール対応の重圧は、多くのクリニックが抱える深刻な課題です。
こうした課題を解決するために、オンコール代行サービスの導入を検討することは、単なる業務委託ではなく、クリニックの未来への戦略的な投資といえるでしょう。スタッフの労働環境を改善し、高品質な医療サービスを安定的に提供することは、患者さん、そして働くスタッフの双方にメリットをもたらす、持続可能なクリニック運営の鍵となります。