厚労省が医師偏在対策に向けた総合パッケージを発表|医師不足地域でのインセンティブや過剰地域での実質的開業規制などの方針
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厚生労働省は2024年12月25日、医師の地域偏在を是正するため、「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を策定しました。
「外来医師過多地域」では地域医療ニーズへの対応を条件とした規制が強化され、一方で医師不足地域には経済的なインセンティブや支援制度を拡充する。医療提供体制のバランスを図るこの取り組みは、多くの期待を集める一方で課題も指摘されています。
本記事ではパッケージの概要と都市部・地方での影響について詳しく解説していきます。
参照)厚生労働省|医師偏在の是正に向けた総合パッケージ
「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」の概要
パッケージでは以下の3つの考え方が柱となっています。
- 経済的インセンティブ、地域の医療機関の支え合いの仕組み、医師養成課程の取り組み等の総合的な対策
- 医師の柔軟な働き方等に配慮した中堅・シニア世代を含む全ての世代の医師へのアプローチ
- 地域の実情を踏まえ、支援が必要な地域を明確にした上で、従来のへき地対策を超えた取組
概要は以下の通りです。
- 医師確保計画の実効性の確保
- 重点医師偏在対策支援区域の設定: 医師が特に不足している地域を「重点医師偏在対策支援区域」として指定し、優先的・重点的に対策を進めます。この区域の選定は、厚生労働省が提示する候補区域を参考に、都道府県が地域の実情を考慮して行います。
- 医師偏在是正プランの策定: 都道府県は、「医師偏在是正プラン」を策定し、重点区域や必要な医師数、具体的な取り組みを明確化します。このプランは、地域医療対策協議会や保険者協議会で協議の上、策定されます。
- 地域の医療機関の支え合いの仕組み
- 管理者要件の見直し: 医師少数区域での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関を拡大し、公的医療機関や特定機構が開設する病院も対象とします。これにより、医師の地域間の派遣や配置を促進します。
- 広域連携型プログラムの制度化: 医師少数県等での研修を含む広域連携型の臨床研修プログラムを制度化し、若手医師の地域医療への参加を促します。
- 地域偏在対策における経済的インセンティブ等
- 診療所の承継・開業支援: 重点区域における診療所の承継や新規開業、地域定着を支援するための経済的インセンティブを提供します。これらの支援は、令和8年度の予算編成過程で検討されます。
- 診療報酬の見直し: 医師偏在への配慮を図る観点から、診療報酬の対応を検討し、医師の勤務環境や処遇の改善を図ります。
- 医師養成過程を通じた取り組み
- 総合診療能力の強化: 総合的な診療能力を持つ医師の養成を推進し、地域医療に対応できる人材を育成します。また、リカレント教育の支援を通じて、医師のスキル向上を図ります。
これらの対策を総合的に実施することで、医師の地域偏在を是正し、全国で均質な医療提供体制の構築を目指しています。
都市部への影響
医師が過剰に集中する「外来医師過多区域」における新規開業に対して規制を強化する方向性が打ち出されています。
具体的な内容
- 医療ニーズに基づいた開業条件:
- 医師過多区域で新規に診療所を開業する場合、その地域の医療ニーズに対応した機能(例:在宅医療、初期救急、夜間診療)を提供することが要請される。
- この条件に従わない場合、都道府県医療審議会での理由等の説明を求めた上で、やむを得ない理由と認められない場合は勧告を行い、勧告に従わない場合は公表を行うことができることとする。
- 開業前の医療ニーズ情報提供:
- 地域の医療ニーズを明確に伝え、医師が地域の実情に応じた医療を提供できるよう促す。
- 法的枠組みの整備:
- 医師の自由な開業権を尊重しつつ、医療提供体制の偏在を防ぐための法整備を進める予定。
地方での影響
一方、医師不足が深刻な地域(重点医師偏在対策支援区域)では、医師の就業に対して経済的インセンティブが検討されています。
支援の具体的な内容
令和8年度予算編成過程において、以下のような支援について検討されています。
- 当該区域で承継・開業する診療所の施設整備、設備整備、一定期間の地域への定着に対する支援(緊急的に先行して実施)
- 当該区域における一定の医療機関に対する派遣される医師及び従事する医師への手当増額の支援
- 当該区域内の一定の医療機関に対する土日の代替医師確保等の医師の勤務・生活環境改善の支援、当該区域内の医療機関に医師を派遣する派遣元医療機関に対する支援
今後の展望
医療提供体制のバランスを図るこの取り組みは、多くの期待を集める一方で課題も指摘されています。
外来医師過多地域での開業規制は、医師の自由な開業権が制限されることへの問題のほか、地域ごとの医療ニーズを正確に把握し、実効性を担保することが求められます。一方で医師不足地域では、生活環境や医療インフラの整備が不十分な場合、経済的なインセンティブだけでは医師の定着が進まない懸念があります。
厚生労働省は、都道府県や医療関係者との連携を強化しつつ、2026年度以降からの実施を目指しています。