
文部科学省の「今後の医学教育の在り方に関する検討会(第14回)」が5月21日に開催され、医学研究の人材確保や産学連携の取組みなどが話し合われました。
その中で、熊ノ郷淳委員(全国医学部長病院長会議「研究・医学部大学院のあり方検討委員会」委員長)は、会員82大学の医学部5・6年生827人への「医学生への大学病院勤務に関する個人調査」の中で、63.1%は大学病院以外での勤務を希望しているとする調査結果を公表しました。
調査からは、給与や労働環境などから大学病院以外での勤務を希望している学生が多い傾向にあることがわかりました。
引用)文部科学省|今後の医学教育の在り方に関する検討会(第14回)|資料1_大学・大学病院の魅力向上・人材確保のための調査・研究(熊ノ郷委員提出資料)
昨今、こうした大学病院以外での勤務志向の高まりと関連して、後期研修を受けずに在宅医療の現場で働き始める医師、「直在(ちょくざい)」の存在が注目されつつあります。
「直在(ちょくざい)」医師とは?
「直在」とは、初期研修を修了した後、後期研修や専門医研修を経ずに、直接在宅医療の現場に入って活躍する医師を指す俗称で、正式な用語ではありません。近年、後期研修をスキップして美容医療に進む「直美(ちょくび)」医師と並んで、「直在」という選択をする若手医師が増えています。
両者は、いずれも後期研修を経ずにキャリアを選択する点では共通していますが、志向や求められるスキルには違いがあります。
「直美」は自由診療や美容医療など、高収入を目的とした限定的な領域を志向する医師が多いのに対し、「直在」は、終末期医療や全人的ケアに関心を持ち、より患者に寄り添う医療を求めて在宅医療の道を選ぶ医師が多い傾向にあります。
また、直美が比較的限定された診療内容であるのに対し、直在には幅広い臨床判断力や地域連携の能力など、総合的な診療力が求められる点も大きな違いです。
「直在」増加の背景
直在医師の増加の背景には、在宅医療のニーズが高まっている社会的背景と、医局制度に依存しない自由なキャリア形成への志向・ワークライフバランス重視などの個人的背景があると見られています。
こうした流れが、後期研修という従来のキャリアパスを経ず、現場での実践を重視する「直在」への道を後押ししているようです。
「直在」のメリットと課題
「直在」という働き方には、多くの魅力があります。病院勤務に比べ、患者やその家族とより深く関わることができ、看取りを含めた継続的なケアを行える点は、在宅医療ならではのやりがいのひとつです。また、ライフスタイルに合わせて働き方を柔軟に選べることも大きな利点で、場合によっては高収入を得ることも可能です。
一方で、課題もあります。後期研修や専門医研修を経ずに現場に出ることで、臨床経験が十分ではないと感じる場面が出てくる可能性があります。また、「直在」という働き方自体がまだ新しく、キャリアパスの前例が少ないため、長期的な成長や専門性の確立について不安を抱えるケースも少なくありません。
「直在」の今後
このように、「直在」という新しい医師の働き方は、従来の医療教育やキャリアパスの在り方を再考させる動きとも言えます。在宅医療の現場では、医療技術だけでなく、人間力や地域との関わりが重視されます。今後、医学教育の中でもこうした多様な進路に対応する柔軟な制度設計が求められるでしょう。