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日本で学んだ在宅医療の精神でインドの課題に挑戦する|care24ホームメディカルケアサービス|マンスール ピールさん

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在宅医療キャリア 日本で学んだ在宅医療の精神でインドの課題に挑戦する Care24ホームメディカルケアサービス マンスールピール

在宅医療で活躍されている様々な方にキャリアや今後の展望についてお話を伺う「在宅医療キャリア」シリーズ。
今回は、日本で在宅医療を学び、その学びを生かしてインドの在宅医療で活躍されているマンスール ピールさんにお話を伺いました。

インドで看護師資格を取得後、日本で在宅医療や介護を学んだマンスールさん。帰国後はインドのCare24ホームメディカルケアサービスにて、業務品質管理責任者としてスタッフ教育や経営に携わっています。インドの在宅医療は普及しているとはいえず、課題が多いとのこと。インドの在宅医療がもつ課題や日本で学んできたこと、今後のキャリアなどについて伺いました。

Care24 Home Medical Care Services 業務品質管理責任者
マンスール ピール さん

2016年、インドのバンガロールにあるラジブ・ガンディ保健科学大学の看護学部を卒業後、半年間日本語を勉強し、2019年3月にJLPT N3を取得。同年11月に来日し、福井県の一般社団法人オレンジキッズケアラボで3年間勤務。同期間、日本の文化や介護技術について学び、JLPT N2を取得。オレンジでは在宅医療についての知識を深め、2022年9月に介護福祉士実務者研修を修了後、帰国。現在インド・ムンバイのCare24ホームメディカルケアサービスで業務品質管理責任者として勤務しながらMBA取得に向けて学業も継続。

看護・介護を学んだのちに教育や経営に携わる

ーはじめに、マンスールさんのこれまでのキャリアについて教えてください。

2016年にラジブ・ガンディ保健科学大学の看護学部を卒業し、看護師として病院に勤務しました。外科・整形外科・救急・産婦人科などさまざまな診療科を1年間で経験し、そのあとに学校の教員としても1年間働いています。

日本に来たのは2019年です。以前から日本の技術や働き方、文化などに興味があって、いつか学んでみたいと思っていました。日本へは、介護の技能実習生として来ました。

日本では福井県にある「オレンジキッズケアラボ」に3年間勤務し、日本語を学びつつ介護についても理解を深めてきました。ラボでは医療的ケア児と関わり、在宅医療についても深く学んできています。医療と介護の知識を深め、介護福祉士実務者研修を修了したのち、2022年にインドに帰国しました。

現在は、ムンバイにあるCare24ホームメディカルケアサービス(※)で、業務品質管理責任者として働いています。主な仕事内容は、未経験で介護業務に従事する方の教育です。1~2週間かけて行われる教育のカリキュラムを管理したり、学習の進捗状況やお客様対応のチェックをしたりもしています。

※Care24ホームメディカルケアサービス:看護師・介護士と利用者をつなぐマッチングプラットフォームサービスを提供している。

インドの在宅医療の現状や課題

ーインドの看護師にはどのような役割がありますか。

大きくふたつの役割があります。ひとつは臨床現場で看護業務を行うこと。もうひとつは養成校で教員として働くことです。

インドの看護学校は「3年制のディプロマ課程」と「4年制の看護学学士課程」、「2年制の修士課程」の3種類があり、それぞれカリキュラムが異なります。ディプロマ課程を修了した人は臨床現場でのみ働けますが、学士課程を修了した人は、臨床に加え養成校の教員としても働けるのです。

インドの看護師は、日本と同様に医師の指示で診療の補助行為をしますが、ご家族への教育や精神的・心理的なサポートも多く求められます。これは、医師よりも看護師の方が患者さんやご家族と距離が近く、深い関係を築きやすいからです。

ーインドの在宅医療についての制度やサービス内容を教えてください。

インドの訪問看護師は、患者さんの家に泊まり込みで対応します。12時間~24時間にわたって滞在することが普通です。

気管切開が必要な状態でも、医師が指示すれば自宅に人工呼吸器を導入し、病院のICUさながらの環境をつくります。そして、指示を受けた看護師が一人で病状の管理を行うのです。

急変時は医師を呼びますが、到着が遅れそうなときは医師が責任をもって、看護師が対応するように許可します。インドでは日本よりも人口が多い分、患者さんの数も多く、複数の病気を抱えている方も多いです。そのため、看護師に求められる知識や技術は必然的に高くなります。

ーインドの在宅医療にはどのような課題がありますか。

インドでは在宅医療がまだまだ普及していません。日本と比べると本当に少ないですね。

まずは医師不足が理由のひとつとして考えられます。数が少ないため、訪問できるのはムンバイ・デリー・バンガロール・チェンナイといった大きな街くらいです。

在宅医療に関わる組織もほとんどありません。日本には多くの組織(医療機関)がありますが、インドには私が働いているCare24を含め、大きい規模で在宅医療を行っているのは4組織くらいしかないのです。

そして、在宅医療に関する保険制度の整備が遅れていることも、普及が不十分である要因だと考えられます。インドでは在宅医療を受ける際、保険が適用されません。極めて限定的ですが、民間の会社が提供する保険を使えるようにはなりました。しかし、在宅医療では1週間しか保険適用になりません。治療が長引けば高額な自己負担が必要なので、金銭的な事情で結局入院することが多くなってしまうのです。

こういった理由から、インドではまだまだ在宅医療が普及しておらず、外来や入院による対応が中心になっています。

相手の気持ちに寄り添った対応が印象的だった

ー日本の在宅医療で印象に残っていることを教えてください。

日本の方が患者さんの気持ちに寄り添い、丁寧な対応をしている姿が印象的でした。インドでは患者さんが食べたいものをリクエストしたときに、それが病気の関係で禁止されていれば「ダメなものはダメ」と言います。

しかし日本では、食べたい気持ちをくみ取り、別の解決方法を考えることもあります。食べたいものを食べられない辛さを理解し、優しさをもって対応していると感じました。

また、サービスを提供する前に「〇〇をやってもいいですか?」と丁寧に確認します。もし患者さんが拒否すれば、無理やりやることはありません。少し時間をおいてから丁寧に説明しなおしたり、別の手段を考えて提示したりします。日本の方は相手の気持ちをとても大切にしていると感じました。

ーインドと日本の在宅医療の違いを教えてください。

繰り返しになりますが、インドでは訪問看護で12時間~24時間といった長時間の付き添いが可能です。日本ではそのような取り組みを聞いたことがありません。病状が不安定な方でも在宅で暮らせるように、医療機器をセットアップして看護師が付きっきりで対応する。これこそインドと日本の在宅医療の大きな違いでしょう。

また、インドでは訪問する看護師を選ぶことができます。これは日本ではあまり馴染みのないことだと思います。インドでは宗教や言語が多様です。そのため訪問看護を利用する際に、患者さんから看護師の宗教や話せる言語に関する要望を出すことが一般的です。

たとえば「〇〇教の看護師で、〇〇語を話せる人がよい」「肉を食べない看護師がよい」といったように、自分と同じ宗教や言語、食事の制限などに合致する看護師を希望します。

一方、日本ではこうした具体的な要望を出すことはほとんどありません。インドでは宗教や言語の多様性を背景に、訪問できる看護師が限定される場合があるのです。

自立支援と他者の尊重を学んだ

ー日本の在宅医療・介護の現場でどのようなことを感じましたか。

自立支援を重んじていると感じました。たとえば左片麻痺の方がグラスをとる際、日本では「右手で持ってみましょう」と言って、患者さんができそうなことを探して自分でやるように促します。一方、インドでは介護者が持ってあげます。こういった違いがあることを知りました。

日本では、小さな子供が転んだときに親がその場にとんでいくことはなく、自分で立つように励まします。しかしインドでは、子供が転べばすぐに支えて立たせてあげます。だいたい10歳くらいまで、両親が子供のことをほとんどやってあげるので、人に頼ることが自然です。そのため社会に出てからも、自分でできることは全部やるというわけではありません。「大変なことは手伝ってもらおう」という考えです。

日本の方が相手のできることを上手に見つけ、自立を促していく関わり方をしていたのが印象的でした。

ー日本の文化や生活について、どのようなことを感じましたか。

インドでは、宗教によって毎日お祈りしたり毎月お祭りがあったりして、多くの人が神様を信仰しています。日本では、宗教への信仰心があまり強くありません。なんとなく「私は仏教」と言ってはいるものの、その教えや作法などを徹底して守っているわけではないと感じました。お祈りをお盆や正月などの限られた時にしかしないことにも驚きましたね。

私はイスラム教を信仰しています。「ハラール」という食肉用に加工された肉しか食べません。しかし日本の方は異なる文化をもった私を排除することはなく、興味深く話を聞いてきたり、私が教えを守ることを尊重してくれたりしました。

日本では家族や友人間でも、何事にも「ありがとう」と「ごめんなさい」をよく使いますが、インドではめったに使いません。なぜなら、友人や家族は他人ではなく助け合いや許し合いが当たり前であるので、「ごめんなさい」と言うと、他人のようだと感じて傷つくからです。これはマナーや規律の問題ではなく、感情の問題です。

また日本では、列車やバスを含め誰もが時間を守りますが、インドでは時間を守る人は少なく、列車が時間通りに来ることもまれです。私は時間を守ることを日本で学び、その大切さを家族や友人や知り合いに伝えています。

日本では個々の仕事に対する責任を 個々が取る必要があるため、他の人や同僚の責任を取ることは非常にまれ」だと聞くことも多かったです。日本では、社交性がやや低いことや、何事も自己責任で行おうとすることから個人の問題を家族や友人に相談したくないという人が多く、そのため自殺率が高いのではとも感じます。

日本では四季を感じ、それに応じて異なる服を着たり、さまざまな食べ物を楽しんだり、季節に応じた場所を訪れたりします。たとえば春は桜を、秋は紅葉を見に出かけます。夏は登山や海水浴、冬は雪山にスキーやスノーボードをしに出かけます。

日本の人々は親切で穏やかで、一生懸命です。日本人は自分を下げて相手を尊重して話します。私は福井で自分の会社の人々だけでなく、隣人や市民からも日本の生活様式や文化への適応をサポートしてもらいました。

在宅で医療を受けられる人を増やしたい

ー日本で学んだことをインドの仕事にどう活かしていていますか。

自立支援の考え方を参考に、在宅ケアにあたっています。人に頼ってはいけないということではありませんが、できることは自分の力でやれるように促していくことが大切だと実感しています。

もうひとつはコミュニケーションのとり方について、学んだことを活かせるようになりました。相手の気持ちを大切にすることと、事前にしっかりと説明をして納得してもらうことを意識しています。

また、何でも正直に伝える必要はないことを学びました。日本の方は、思ったことがあっても相手のことを考えてはっきりと指摘しないことがあります。インドの人は思ったことをストレートに伝えます。

私もそうでした。以前はだれかが間違ったことや嘘を言ったときに正すようにしていましたが、必ずしもそうする必要はないことがわかってきました。あえて本当のことを言わない優しさをもって接する方が、トラブルにならずにやっていけることを実感しています。

ー今後のキャリアプランを聞かせてください。

現在は経営に関する業務を行っていますが、まだまだ知識がないと感じています。自分のキャリアアップのために、MBAの資格を取得すべく学業にも励んでいます。マネジメントの視点から、より深く経営に携わっていきたいですね。

そして、ゆくゆくはインドの医療的ケア児が外出できる環境を作りたいと思っています。インドではこういったお子さんが外出できる機会は少なく、ほとんど家の中で生活しています。日本のオレンジキッズケアラボのように、遊べる環境を整備して楽しむ機会や場所を提供していきたいです。

あとは、インドの在宅医療における課題を解決していきたいですね。政府や政治家に働きかけていく必要がありますが、在宅医療を提供する組織が、国際的に認められることが大切だと思っています。

JCIという医療の質と患者さんの安全性を国際的に審査する機関に、インドの在宅医療の組織も認定してもらいたいです。インドでは54の病院がすでに認定されていますが、在宅医療の組織はゼロです。

それが実現できれば、国に働きかけてもっと保険が使えるようになったり、在宅医療に関われる組織をさらに増やしていったりできると思っています。そのような働きをこれからしていきたいですね。

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この記事を書いた人

すずや

医療・介護ライター/理学療法士。2008年理学療法士免許取得。介護老人保健施設に勤務し、入所・通所・訪問リハビリに携わる。理学療法士として働くかたわら、ライター業を行う。保険制度や医療・介護系職種のキャリア、疾患やリハビリについての記事作成を専門とする。

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