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これからクリニックの開業を検討する医師のなかには事業計画書の作成方法や手順がわからない方がいるのではないでしょうか。
本記事では、クリニックが作成すべき事業計画書の作成方法や作成手順、作成するうえで注意すべきポイントについて解説します。
事業計画書作成における必要な情報を把握し、スムーズな開業へつなげましょう。
クリニックの事業計画書の目的
クリニックにおける事業計画書は、開業するうえで必要な書類です。事業計画書のおもな目的は以下のとおりです。
開業後の経営を安定化させるため
事業計画書を作ることで、クリニックの経営に必要な組織・人員計画やマーケティング戦略などが立てられます。
そのため、開業後の経営の見通しが立てやすくなり、経営が安定化しやすくなるでしょう。
一方で、事業計画書を作成せず、経営の見通しを立てていないと経営が不安定になります。最悪の場合、廃業に追い込まれてしまう可能性があるため、事業計画書の作成は必要です。
開業時に融資を受けるため
一般的にクリニックの開業資金は、金融機関などからの融資で資金調達するケースが多くなります。その際に必要なのが事業計画書です。
事業計画書を作成することで、収支計画や資金計画を示せるため、融資元がクリニックに融資するかどうかを判断しやすくなります。
開業時の資金不足のリスクを減らすため
事業計画書を作成することで、開業時に必要な資金が把握できるため、資金不足のリスクが減らせます。
建物や医療機器、その他設備に関わる費用がどのくらいかかるかを明確に事業計画書に記しておきましょう。
事業計画書の3つの要素
事業計画書は、主に以下の3つの要素で構成されます。
経営の基本計画
経営理念やビジョン、提供する医療サービス、ターゲットとする患者層、他のクリニックとの差別化戦略などをまとめます。
資金計画
開業に必要な設備投資(物件取得費、内装工事費、医療機器購入費など)と、開業後の運転資金(人件費、家賃、医薬品費など)を詳細に見積もります。
収支計画
患者数、診療単価、診療日数などから具体的な収入を予測し、支出とのバランスを考慮して、将来の収支がどのようになるかの見通しを立てます。
この3つの計画は互いに密接に関連しており、これらを整合性を持って作り上げることが、実現可能な事業計画の鍵となります。
事業計画書の具体的な書き方とポイント
以下に、事業計画書に盛り込むべき具体的な項目と、作成時のポイントをまとめます。
創業の目的・動機
なぜクリニックを開業したいのか、どのような医療を提供したいのかという情熱やビジョンを具体的に記述します。融資審査では特に重視される項目であり、一貫性のあるストーリーが求められます。
経営者の経歴・事業実績
これまでの臨床経験やスキル、経営に関する知識など、クリニックを成功に導くための自身の強みをアピールします。
取り扱う商品・サービス
診療科目、診療内容、ターゲットとする患者層などを具体的に示します。地域のニーズや競合クリニックの状況を分析し、自院の独自性や強みを明確にすることが重要です。
必要な資金と収支
① 開業資金を見積もる
開業資金として、どのようなものに対してどれほどの費用がかかるかを把握しておくことが重要です。おもに開業費用が必要な項目としては以下が挙げられます。
- 物件費用(契約金・仲介手数料・保証金・礼金など)
- 医療機器費用
- 内装工事費用
- 広告宣伝費用
- 採用費・人件費
- 医師会入会費用
コンサルティング費用
各業者に見積もりをとったり、開業コンサルタントに聞いたりして費用に関する情報を集めていくことが大切です。
② 支出を見積もる
支出を見積もる際は、固定費と変動費を確認しておくことが重要です。
【固定費】
固定費としては、おもに以下の3つが挙げられます。
固定費の内訳 | 概要 |
人件費 | 医師や看護師、受付スタッフを雇うための費用。診療コンセプトを踏まえ、職種別に正社員・パート職員の人数を決め、常勤・非常勤の割合も考慮し、法定福利費(雇用保険料・厚生年金・社会保険料)を計算する必要がある。個人別の給与や時給は、求人誌や新聞チラシなどを参考にするとよい。 |
賃借料・リース料など | 設備投資計画から想定できる家賃やリース料を見積もる必要がある。さらに、借入金条件から毎月の支払利息を算出するとよい。 |
その他(水道光熱費・消耗品費・衛生費・通信費など) | クリニックの規模にもよるが、月額費用として30〜50万円程度必要。ネット広告や看板などを定期的に出す場合は、プラスαとして発生する。 |
【変動費】
変動費(売上にともなって変動する費用)としては、外注検査費用や医薬品費用、診療材料費用などが挙げられます。
変動費は、院外処方の有無や診療科目などによって変わることを知っておきましょう。
③ 収入を見積もる
収入を見積もる際は、以下の3つを押さえておきましょう。
【管理患者数】
自院の診療科目を踏まえ、診療圏調査の結果を参考に1ヶ月あたりの管理患者数を把握しておくことが大切です。
管理患者数を割り出す際は、想定できる最低ラインと最高ラインに分けて考えておくことをおすすめします。
【診療単価】
診療単価とは、患者さん一人当たりの平均単価です。診療項目や診療方針を踏まえ、患者さん一人当たりの診療報酬点数をもとに計算してみましょう。
また、居宅患者及び施設患者によって単価が異なる点を考慮し、各種取得可能な加算をもとに診療単価を定めることが重要です。
【診療日数】
休診日だけでなく、GW・お盆・年末年始などの長期休暇の時期を考慮し、どれくらいの日数を診療にあてられるか確認することが大切です。
可能な限り、医師会の会合や学会への参加日数を考慮したうえで計算しておきましょう。
④ 資金繰り表を作成する
①~③の工程で得られた情報をもとに、以下の要素を踏まえて資金繰り表を作成することが大切です。
- 開業時に用意できる運転資金
- 毎月の診療収入
- 毎月の支出
- 月末の運転資金残高
上記を含めた資金繰り表を3〜5年分作成することが必要です。入念な資金繰りをしておくことで、開業資金不足が防ぎやすくなります。
一度開業資金の不足が起こると、金融機関へ融資を打診するのが難しくなります。このような意味でも、資金繰り表を正確に作っておくことが大切です。
事業計画書作成における注意点
クリニックの事業計画書を作成する際には、計画の説得力を高め、事業の成功確率を上げるために、以下の点に注意することが極めて重要です。
計画全体の一貫性と整合性
事業計画書に記載する内容は、全体を通して矛盾がないように一貫性を持たせましょう。
例えば、訪問診療クリニックの場合、「重症度の高い患者様や看取りにも手厚く対応する」というコンセプトを掲げているにもかかわらず、医師やスタッフの数が少なく緊急時の体制が組めなかったり、必要な医療機器の導入が資金計画に含まれていなかったりするなど、掲げる理念とそれを実現するための体制にズレが生じないよう、コンセプト、人員計画、収支計画のすべてに整合性を持たせることが大切です。
客観的データに基づく具体的な記述
ご自身の希望的観測だけでなく、市場調査や地域の人口動態、競合クリニックの状況といった客観的なデータに基づいて計画を立てましょう。これにより、計画の信頼性と説得力が格段に増します。また、融資担当者など、必ずしも医療の専門家ではない読み手にも事業の実現性が明確に伝わるよう、専門用語の使用は避け、誰にでも理解できる具体的で分かりやすい言葉で記述することを心がけてください。
現実的で厳密な収支計画
特に収入の見積もりは、楽観的にならず、現実的で少し厳しめに設定することが重要です。開業当初は、想定通りに患者数を確保できない可能性も十分に考えられます。緻密に計算したつもりでも、収益が予想を下回る事態に備え、「最低限見込めるライン」を冷静に把握しておくことで、資金繰りに窮するリスクを減らすことができます。
これらのポイントを踏まえ、ご自身のクリニックのビジョンを明確に反映させることが、成功への第一歩です。万が一、計画の見直しや開業の延期が必要になった場合でも、柔軟に対応する姿勢が大切です。
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必要な開業資金や想定される収支などが計算しやすくなっているため、事業計画書の作成にお役立てできます。
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まとめ
本記事では、クリニック開業に不可欠な事業計画書の目的から、構成要素、具体的な書き方、そして作成時の注意点までを網羅的に解説しました。
事業計画書は、ご自身の理念を形にし、開業後の経営を安定させるための「設計図」であると同時に、金融機関から融資を得るための「信頼の証明書」でもあります。
作成にあたっては、「経営の基本計画」「資金計画」「収支計画」の3つの柱に一貫性を持たせることが重要です。そして、希望的観測ではなく、客観的なデータに基づいた現実的な計画を立てることが、その説得力を大きく左右します。
この記事で紹介したポイントと、無料でダウンロードできるテンプレートをご活用いただくことで、具体的で実現可能な計画の作成が可能です。入念に作り上げた事業計画書は、あなたの理想とするクリニックの実現に向けた、確かな礎となるでしょう。
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