訪問診療クリニックは法人化すべき?メリットデメリットや手続きを解説
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これから訪問診療クリニックの法人化を検討している医師のなかには、法人化のメリット・デメリットがわからない方がいるかもしれません
また、医療法人化にともなう手続きについてイメージできない方もいるでしょう。
本記事では、訪問診療クリニックにおける法人化のメリット・デメリットや、法人化の手順について解説します。
医療法人とは
医療法人とは、医療法に基づいて都道府県知事の許可を受けた組織です。たとえば、医師や歯科医が属する病院・診療所・介護老人保健施設などを指します。
医療法人は、おもに社団医療法人と財団医療法人の2種類に分類されます。社団医療法人は、複数の医療関係者が集まり、医療や介護の提供を主目的として活動する法人です。
一方で、財団医療法人は、個人や法人が無料で寄付した財産をもとに設立する法人です。
令和6年に厚生労働省が発表した「種類別医療法人数の年次推移」によると、令和6年時点の医療法人数58,902件中、社団法人は58,508件(99.3%)であり、残りの394件(0.7%)は財団法人でした。
このように、医療法人の大部分は社団法人が占めています。
医療法人化するメリット
医療法人化することで得られるメリットは、以下のとおりです。
節税効果が期待できる
一定の事業所得がある医療機関の場合、医療法人化することで支払うべき税金が少なくなるケースがあります。
たとえば個人の医療機関の場合、売上から経費を除いた事業所得に対し、最大税率45%の所得税が課せられます。
一方で、医療法人化すると法人税が適用され、年間の事業所得が800万円を超えても最大税率23.2%に抑えることが可能です。
事業規模を拡大しやすい
医療法人の場合、分院の設立や介護事業への展開が可能になるため、事業規模を拡大しやすくなります。
たとえば「附帯業務」として患者さんの保健衛生の向上を目的に薬局や施術所、衛生検査所などを設立することも可能です。
また「附随業務」として患者さんのために院内で売店や自動販売機なども設置できます。
複数の事業展開ができるため、医療法人全体の売上増加も見込めます。
事業承継がしやすい
医療法人の場合、理事長の死去や引退などで継承するケースでは、理事長交代の手続きのみで事業承継が可能です。
たとえば、建物や土地、設備といった財産は医療法人に帰属し続けるため、個人の医療機関のように閉院する必要がありません。
また、後継者による開院手続きもないため、スムーズに事業承継がしやすくなります。
社会的信用が得られる
医療法人化すると、都道府県知事が設ける審査を通過しなければならないこともあり、社会的な信用が得られやすいでしょう。
医療機関側の社会的な信用性が高まれば、金融機関からの融資が受けやすくなり、医療機器の入れ替えや設備投資などができます。
そのため、患者さんに対してより良い医療サービスが提供しやすくなります。
人材の採用・定着がしやすくなる
医療法人化すると厚生年金や社会保険への加入が義務付けられ、福利厚生が充実します。社会的な信用性も高いため、人材の採用が進めやすいのが特徴です。
また、多様な部署や分院を設けることで、スタッフに対し個人の適性に合わせた選択肢を提供できます。
そのため、人材の定着率向上につなげることも可能です。
医療法人化するデメリット
医療法人化すると、事業規模の拡大や売上アップが期待できる反面、以下のデメリットもあります。
これから医療法人化を検討している方は、以下の内容を押さえておきましょう。
運営費が増える
医療法人化によって健康保険や介護保険、厚生年金などへの加入が必須になるため、運営費が増えるケースがあります。
従業員の数が増えるほど、社会保険料の負担が増えるため、計画的な雇用が必要です。
また、施設全体の経営状況を踏まえ、経営が維持できるかを見極める必要があります。
管理に手間がかかる
医療法人化すると、毎年決算終了後、3ヶ月以内に都道府県知事に対して事業報告書を提出する必要があります。
また、決算報告の届出や資産総額の登記、監事による監査や社員総会・理事会の開催の実施なども求められます。
そのため、医療機関が本来おこなうべき診療業務に時間が割きにくくなる可能性があるでしょう。
借入金が引き継げない
開業してすぐの医師が医療法人化する場合は借入金の引き継ぎが認められなくなるため、医師の役員報酬から返済する必要があります。
一方で、医療機器の購入を目的とした借入金の場合は、法人に引き継ぎできる可能性があります。
ただし、各自治体の担当によって解釈が変わるケースがあるため、必要に応じて確認しましょう。
訪問診療クリニックにおける医療法人化の手順
医療法人化する際は、おもに以下の流れに沿って手続きをおこなう必要があります。
- 設立前の登録
- 医療法人設立の説明会を受ける
- 定款を作成する
- 設立総会を開催する
- 設立認可申請書を作成・提出する
- 設立認可申請書を審査する
- 設立認可書を受領する
- 設立登記申請書類を作成する
- 登記を完了する
手続きにかかる所要時間や必要な書類などは各自治体によって異なるため、詳細は管轄の役所へ確認しましょう。
1.設立前の登録をおこなう
医療法人の設立にあたっては、事前準備として申請作業が必要です。都道府県ごとのホームページを確認し、必要事項をチェックしてください。
2.医療法人設立の説明会を受ける
年2回実施される医療法人設立の説明会に参加する必要があります。
都道府県によってオフラインもしくはオンラインのどちらかの形式で参加できます。詳細は都道府県のホームページを確認しましょう。
3.定款を作成する
医療法人の定款として、おもに以下の内容を踏まえたものを作成する必要があります。
- 目的と業務内容
- 広告の手段・方法
- 名称と事務所の所在地
- 資産と合計に関する規定
- 役員と理事会に関わる規定
- 社員と社員総会に関わる規定
- 解散・合併と分割に関する規定
- 開設する病院・診療所・施設の所在地
定款を作成する際は、厚生労働省の「社団医療法人の定款例」を参考にすることをおすすめします。
4.設立総会を開催する
定款を作成したら、設立者3名以上で設立総会を開催し、議事録を残してください。
なお会議で取り決めるべきおもな内容は、以下のとおりです。
- 定款案の承認
- 開催日時・場所
- 設立趣旨の承認
- 設立時社員の確認
- 設立代表者の選任
- 出席者の氏名・住所
- 役員と管理者の選任
- 役員報酬額の予定額
- リース契約引き継ぎの承認
- 基金拠出申し込み、および財産目録の承認
- 設立後2年または3年の事業計画、ならびに収支予算の承認
- 病院・診療所・施設の建物と土地を賃借する場合、その賃貸借契約書に関する承認
議事録を作成する際は、各自治体のホームページを確認し、サンプルを見ながら作成することをおすすめします。
5.設立認可申請書を作成・提出する
設立認可申請書を作成・提出するために、仮申請・本申請の順で処理を進める必要があります。
6.設立認可申請書を審査を受ける
設立認可申請書を提出後は、書類審査がおこなわれます。都道府県によっては実地審査や代表者の面談審査などもあるため、必要に応じて準備しておくことが大切です。
7.設立認可書を受領する
設立認可申請書の審査を通過し、医療審議会による審議も通過できれば設立認可書が発行され、医療法人の設立が許可されたことになります。
8.設立登記申請書類を作成する
設立認可書を受け取ったら、2週間以内に登記を行う必要があります。おもな登記事項は以下のとおりです。
- 資産の総額
- 医療法人の名称
- 目的・業務内容
- 事務所の所在場所
- 理事長の氏名・住所
- 存続期間・解散に関する規定
9.登記を完了する
登記を終えたら、以下の手続きを進めてください。
- 名義変更:水道や電気、ガスや銀行口座、電話などの契約が必要
- 税務署での手続き:個人事業廃止届や法人設立届出、青色申告承認申請書や給与支払事務所開設届、源泉所得税の納期特例の承認届出書の手続きが必要
- 中小企業事業団の手続き:小規模企業共済の共済金請求や中小企業退職金共済掛金の変更手続きが必要
- 社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会での手続き:保険医療機関届や社保・国保の入金指定に関わる手続きが必要
- 厚生局での手続き:法人の保険医療機関指定申請書・個人の保険医療機関指定廃止届の手続きが必要
- 保健所での手続き:診療所の開設許可申請・診療所使用許可申請(有床診療所の場合)・法人診療所開設届・個人診療所廃止届の手続きが必要
上記が終了したら、医療法人の開設処理は完了です。
まとめ
医療法人化すると節税効果が期待でき、事業規模が拡大しやすいため、売上の向上が見込めます。
また、社会的な信用が得られるため、人材の採用もしやすくなるのがメリットです。
一方で、運営費の増大や管理の手間の発生、借入金の引き継ぎができない点などがデメリットとして挙げられます。
医療法人化を考える際は、メリット・デメリットを踏まえたうえで検討しましょう。
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