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政府・与党が病床11万床削減と医療DX推進に合意ー新地域医療構想と在宅医療のこれから

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政府・与党が病床11万床削減と医療DX推進に合意ー新地域医療構想と在宅医療のこれから

2025年6月6日、自由民主党・公明党・日本維新の会の3党は「持続可能な社会保障制度のための改革」についての合意がなされました。

合意では、2027年4月に始まる「新地域医療構想」までに病床を11万床削減し、併せて医療DXの加速化を図る方針が打ち出されました。これらは現在国会で審議中の医療法改正案に盛り込まれ、2025年内の成立が確実視されています。

この動きは、在宅医療機関にとっても大きな影響を与えるものです。病床機能の再編と外来・在宅へのシフト、医療DX推進という流れのなかで、今後の戦略をどのように描くべきか。

本記事では、政府方針の概要、日本医師会をはじめとする医療団体の見解、そして訪問診療クリニックにとっての注目ポイントを解説します。

11万の病床削減で「1兆円の医療費削減」を目指す

今回の合意では、「現役世代の保険料負担軽減」の実現に向け、国民医療費を年間4兆円削減するという大方針のもと、そのうち1兆円分を病床11万床の削減によって捻出する方針が示されました。
具体的には以下の内容が示されています。

  • 削減対象:
    ・一般病床・療養病床:5万6,000床
    ・精神病床:5万3,000床

  • 削減の進め方
    ・地域ごとの実態調査をもとに、稼働状況や医療需要を踏まえて精査し、2027年4月にスタートする新地域医療構想までに削減
    ・代替手段として、在宅医療・外来医療の充実が求められる


ただし、実際の医療提供実態や稼働率を踏まえた見積もりかどうかには疑問の声もあり、制度設計の透明性が今後の焦点となります。

医療DXは「電子カルテ普及率100%」へ

現在、日本国内の電子カルテの普及率はおおよそ50%程度にとどまっています。大規模病院では導入が進んでいる一方で、中小の医療機関やクリニックではコストや運用負担の問題から導入が進んでいないのが現状です。
今回の合意では、この状況を打破すべく、5年以内に電子カルテ普及率を100%に到達させる方針が打ち出されました。
医療機関で記録された診療情報を電子カルテを通じて、社会保険診療報酬支払基金にオンラインで提出できる仕組みを整備し、医療現場の業務効率化や情報連携を進める狙いです。

医療団体からの声

全国自治体病院協議会 望月泉会長

3党による病床11万床削減の方針に対して、全日本病院協会(全自病)の望月会長は、医療現場の視点から次の2点を確保すべきだとする声明を発表しました。

  • 病床削減の規模について「数値ありき」で進めるのではなく、2040年の人口構造や地域の医療ニーズを見据えた新たな地域医療構想に基づき、各地域で必要とされる病床数に悪影響を及ぼさない形で、慎重かつ適正に再編を進めるべき

  • 国が進める「病床数適正化支援事業」に申請したすべての医療機関に対して、公平に財政的支援が行われるよう求める

このように望月会長は、削減ありきの政策ではなく、地域医療の実態や将来像を踏まえた柔軟な対応と、現場の医療機関への十分な支援の必要性を強調しています。

日本医師会

日本医師会は6月9日に公表したプレスリリースで3党合意について以下の見解を述べています。

病床再編:
令和6年度補正予算で5万床超の申請があったことから医療ニーズに応えるものと評価しつつも、丁寧な意見聴取や感染症対応を含めた地域医療の維持を求めています。また、支援対象外となった約4万床についても優先的な支援を要望しています。

医療DX推進:
電子カルテ導入が地域医療の質向上と医療現場の負担軽減に資することを認めつつも、導入費用の高さを理由に導入が難しい診療所も多く、義務化には反対しています。まずは費用負担軽減と十分な財政支援を強く求めています。

このように、日本医師会は地域医療の維持や医療現場の実情を踏まえ、丁寧な対応と十分な財政支援の重要性を強調しています。

訪問診療クリニックへの影響と備え

訪問診療クリニックにとって、今後の医療政策の変化は大きな転機となります。
特に注目すべきポイントは以下の3つです。

病床削減による「在宅医療シフト」

政府が病床削減を進める方針により、入院機能の大幅な縮小が見込まれています。これに伴い、慢性期や終末期の患者さんが病院から在宅へと移行するニーズが確実に増加します。特に療養病床や精神病床の削減は、これまで病院でケアされてきた患者の多くが地域での在宅医療を受けることになるため、訪問診療クリニックの役割がますます重要になるでしょう。地域包括ケアシステムの中核として、患者の安心した生活を支える体制づくりが求められます。

医療DXへの対応とICT基盤整備

医療のデジタル化推進により、電子カルテの普及や医療情報のオンライン共有が加速しています。訪問診療においても、患者情報の迅速な共有や遠隔診療の活用が求められ、ICT基盤の整備が不可欠です。紙カルテを運用しているクリニックは補助金制度の活用やクラウド型電子カルテの導入を早急に検討する必要があります。これにより、業務効率の向上だけでなく、医療の質の確保や患者サービスの向上にもつながります。

制度変更に合わせた柔軟な経営戦略

医療制度や診療報酬の変更は今後も続くことが予想されます。訪問診療クリニックは支援制度や報酬体系の動向を常に把握し、経営戦略を柔軟に見直していくことが不可欠です。また、病院の機能縮小に伴い生まれる「医療の空白地帯」を訪問診療や地域包括ケアで補完する体制を整えることが、地域からの信頼を獲得し、安定した運営につながります。

編集部コメント

今回の政府・与党による病床削減及び医療DX加速化に関する合意は、訪問診療クリニックにとって重要な転換期を迎えるものと認識されます。11万床という大規模な病床削減は、従来の病院中心の医療体制を大きく変革し、在宅医療への移行を促進することは確実です。これは、訪問診療クリニックにとって大きな機会となり得ます。これまで病院でケアされていた患者が、今後在宅医療を必要とする可能性が著しく高まり、訪問診療の需要が大幅に増加することが予想されます。

しかしながら、この機会を最大限に活用するためには、訪問診療クリニック側の準備が不可欠です。特に、医療DXへの対応は喫緊の課題と言えるでしょう。電子カルテの導入やICT基盤の整備は、業務効率化のみならず、患者へのより質の高い医療提供にも寄与します。対応の遅延は、この大きな潮流から取り残される可能性を招きかねません。

制度変更への柔軟な対応もまた重要です。医療制度や診療報酬は今後も変動することが見込まれます。常に最新情報を収集し、経営戦略を適宜見直すことで、変化の波に乗ることが求められます。逆に言えば、時代の変化に対応した経営戦略を適切に策定することで、他のクリニックよりも優位に立つことも可能となります。

今回の政策合意は、単なる変化として捉えるのではなく、大きな機会と認識し、積極的に準備を推進することが肝要であると考えられます。

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