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日本医師会は9月17日の定例記者会見で、全国の診療所の経営状況に関する緊急調査の結果を公表しました。それによると、2024年度には医療法人格を持つ診療所の約4割(39.2%)が赤字経営に陥っており、13.8%が近い将来の廃業を検討していることが明らかになりました。
物価高騰と人件費の上昇が経営を深刻に圧迫している形で、日医の松本吉郎会長は「このままでは地域医療の提供を継続できなくなる」と強い危機感を表明し、国に早急な対策を求めています。
利益は半減、収益減と費用増のダブルパンチ
調査によると、診療所の経営は減収減益の傾向が鮮明になっています。
- 利益率の悪化: 医療法人立の診療所では、経常利益率が2023年度の8.2%から2024年度には4.2%へと半減しました。より実態に近いとされる中央値では6.2%から2.1%へとさらに大きく落ち込んでいます。
- 収支構造の変化: 医業収益が2.3%減少する一方で、医業費用は1.4%増加。特に費用面では、スタッフの「給与費」や「医薬品費・材料費」の増加が経営を圧迫しています。
- 個人立も同様: 個人立の診療所でも、経常利益が対前年で19.5%減少するなど、同様に厳しい状況です。
経営が悪化した背景には、コロナ関連の補助金や診療報酬上の特例措置が終了した影響に加え、歴史的な物価高騰と人手不足に伴う人件費の上昇があります。
診療科や地域を問わず広がる経営難
この経営悪化は、特定の診療科に限った話ではありません。ほぼ全ての診療科で利益率が悪化しており、特にコロナ禍で発熱外来などを担ってきた内科、小児科、耳鼻咽喉科でその傾向が強く見られました。また、経営悪化は地域・都市の規模に関わらずどの地域でも見られています。
経営課題としては、半数以上が「物価高騰・人件費上昇」「患者単価の減少」「患者減少・受診率低下」を挙げています。
日医「地域医療が壊れる」 診療報酬の大幅増を要求
この深刻な事態を受け、松本会長は「今年度は赤字の診療所が5割に達しかねない」との見通しを示し、国の強力な支援が不可欠だと訴えました。
日本医師会が国に求める具体的な対策は以下の通りです。
- 次期診療報酬改定での大幅な引き上げ
- 補正予算による緊急の補助金支援
- 物価高騰に対応するための期中改定
特に、医療機関の人件費率が40~60%と高いことに触れ、「人件費の高騰は経営にさらに直撃する。次期改定ではしっかりと上乗せしていただき、地域医療が壊れないようにしてほしい」と強調。「医療費削減ありきの政策は、地域医療にとって大打撃で国民のためにならない」と警鐘を鳴らしました。
参考)日本医師会|令和7年 診療所の緊急経営調査結果
収益安定化に向けた選択肢としての「訪問診療」
このような厳しい経営環境の中、各クリニックは経営を安定させるための方策を模索する必要があります。
外来患者の減少や患者単価の低下に直面する中で、収益の安定化を図るための一つの有効な選択肢として、訪問診療を始めることが挙げられます。高齢化が進む現代において在宅医療のニーズは高まっており、外来診療に加えて新たな収益の柱を築くことで、より安定したクリニック経営を目指すことができます。
「訪問診療=24時間体制・専門医療・多数のスタッフが必要」といったイメージを持たれることが多いですが、
実際には最初から完璧な体制を整える必要はありません。
- 週1回、1〜2件の訪問からスタートする
- 既存の外来患者から訪問が必要な方に徐々に切り替えていく
- 医師1名+看護師や事務スタッフとの少人数チームで始める
といった形で、自院のペースやリソースに合わせて段階的に導入することが可能です。
在宅医療カレッジの人気シリーズ「外来クリニックのための在宅医療スタートアップ講座」では外来クリニックが訪問診療を始めるメリット、必要な準備や想定収支などを解説しております。
これから訪問診療を検討されている外来クリニックの院長、事務長様はぜひお読みください。
「外来クリニックのための在宅医療スタートアップ講座」
【第1回】訪問診療スタートガイド:外来クリニックが訪問診療を開始すべき理由〜外来クリニックの次の一手としての在宅医療〜
【第2回】外来クリニック向け:訪問診療のリアル、まるわかりガイド〜“在宅で診る”とはどういうことか、考え方から実践まで〜
【第3回】訪問診療の収益構造とは? 在宅医療の報酬体系・収益性を徹底解説
【第4回】在宅療養支援診療所(在支診)とは?